第2話 夢
「男は、男はいないのか。私以外、皆女しかおらぬ故、どうしたものか。私は運につき離されたのか。お前、はよ男を産め!はよ!」
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
少し壇のある畳の上で、男は女に向かって説教をしていた。女の方は男の方へ深々と土下座をしている。
「姉上、母上は、もう体も弱くなっているのに、子供など、増やせるのですか。」
「もうそろそろ、限界だと思います。父上は他の女とも子を作っておられるが、それがすべて女だという。私らは、男でない限り用済みなのだ。」
「母上が、倒れてしまうよ。」
「そうね。子供の私達はどうすることもできないが、せめて夜、隣にいてあげよう。」
「そうですね。」
少し開けた襖の影から親の話しを盗み聞く三人姉妹の長女と次女がいた。
「さあ、お前ははくの隣にいっておいで。また夜中に目を覚ましたら寂しがってしまう。」
「わかりました。では、おやすみなさい。」
速歩きで三人の寝るところへ戻ると、はくが薄暗い月夜に照らされ、血を顔中に流していた。
「はくっ!はくっ!どうしたのだ!」
すぐさまはくに駆け寄り、小さな体を持ち上げた。はくは何も喋らない。
「きゃぁぁあ!」
来た方向から二つの叫び声がした。
「姉上!」
はくをゆっくりと布団に横たわらせ、元来た道を走って戻った。廊下がぎしぎし鳴っていたのにも構わなかった。見ると姉上と母上が廊下で背中から血を流して倒れていた。
「姉上!母上!いったい何にやられたのです!」
「、、、お前、、、よくも裏切ったなぁ!」
「オマエノ、セイダ」
「私の、せい?」
母上の顔も、姉上の顔も、ひどく醜く、しわが増えていった。血を垂らしながら出る言葉には恐怖が伴った。身に覚えのないことを突然言われ、心配な顔をしながらも、どこかキョトンとした顔も見えた。唸り声が部屋から聞こえた。さっきまで見ていた扉を覗くと、父上が、血があちらこちらに付着し、床に一滴ずつ垂れている刀を持ちながら立っていた。顔はうつむいて見えなかったが、父上が原因だとすぐわかった。
「男ぉぉ、、、男ぉぉ、、、女はいらねえんだよ、ふははははっ!」
父上が天高く叫んでいた。妖怪に取り憑かれたような顔をし、両手を大きく広げた。
「ち、父上、、、。こ、こんなの嘘だ!そんなことで女を侮辱するでない!」
母上と姉上がその者の足をがっしりと掴んだ。邪悪なオーラを纏っていた。それを見た瞬間、辺りは太陽に照らされたように明るくなり、父上も、母上も姉上も、すべて消えた。
「はっ、、、!」
橋の下の草むらで布を全身にかけて寝ていたその者は、飛び起きた反動で太陽に顔を照らされた。その顔には汗がホクロのように散らばっていた。
「夢、、、か、」
見開いていた目をゆっくり閉じ、深呼吸を一度だけした。
「昨日の暗い状況でもああだったのだから、明るいとなおさらだろうな。」
両手を天に向かって伸ばし、体を大きくのけぞった。
「まぶしっ」
橋の下から出て、また布を頭にかぶせながら橋の向こうへと歩いた。
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