託された王

市井さぎり

第1話 その者

 世は遡ること、数百年前、戦国時代真っ只中、草むらから目だけを出し、薄く、かつ、色がしっかりと染み込んでいるがために、全身のらいんが見えにくい布を羽織っている者がいた。身を隠すように、頭から膝まで布を伝わせていた。

「はぁっ、、、はぁっ、、、。ここまで来れば、追手もいないだろう。」

辺りは何も見えず、春の陽気に誘われた虫ばかりが生活をしていた。暗闇に見える白い顔に、汚れのない汗が1、2滴ほどつたった。三分ほど経ち、追手が来ないことを確信し、草むらからそそくさと出て、砂利道の上へ行き、来た道とは反対の方向へと進んでいった。そして、暗闇の中に、はためいている布は消えていった。

「明かりが見えてきた。」

遠くの方でろうそくのように、淡い橙色の光がゆらいでいるのが見えた。近づくにつれ、目が細くなっていった。

「眩しい。これが、民たちの住む街なのか。」

そこら中で、牛の肉や鹿の肉、大きな魚が宙にぶら下がっていた。

「そこの人っ!この肉はいらんかね!」

つい、珍しいものに集中し過ぎ、テントの前まで来てしまっていた。

「あ、、、え、、、お金、ないんです。」

「そうかい!じゃあまた今度な!」

汗が次々と流れ出ているおじさんはそういって、また別の通りすがりの人を、同じ文句で捕まえていた。

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