第97話 新たな旅路【1】







 

 あの後、ヨルが休んでいる間は、先に休ませてもらった俺とゼン、村の人達と都心部の衛生兵さんとで治療や、サシニアの魔草の駆除などを手分けして作業をこなしていた。

 ゆっくり休めたヨルは、夕方頃には顔色も体調も良い状態で起きてきて。



「リンタロウ! ゼン! すまない! この村のみんなの治療があらかた終わるまで、俺、ここで治療を続けてもいいか。もし、先を急ぐのなら、俺を置いて行ってもらって構わない」



 と、真剣な顔をして言うので、俺とゼンは責任感のあるヨルならそう言うであろう事を想定していた為、ヨルが起きてくるまでに答えは決まっていたんだ。



「ヨル、水くさい事言うなよ。俺達も乗りかかった船だ。最後まで一緒に治療とか手伝うさ」

「リンタロウ。ゼンも、いいのか?」

「あぁ、ヨルが起きてくる前にこうなる事を想定して、リンタロウと話し合って決めていたんだ。ヨルならそう言うだろうから、一緒に最後まで治療して一緒に都心部へ向かおうと」

「二人とも…………、ありがとう!」

「おわぁ!」

「おっと」



 俺達の言葉に感動したのか、ヨルが思いっきり俺とゼンに抱き着いてきた。

 ぎゅうぎゅう俺達の事抱きしめながらありがとう、ありがとう。と何回も言っている。


 ありがとうと言われる所までは予想通りの展開だったが、さすがにここまで喜ばれる反応は予想してなかった。

 けど、ここまで喜んでくれると俺達も嬉しい。出会った理由は突然で、突拍子もなかった事とはいえ、長くもないが、短くもない時間をヨルとは一緒に旅してきたんだ。もっとヨルに教えてもらいたいこともあるし、俺としては前の世界と違って、同年代の人間とこういう普通の触れ合いができる経験がすくなかったから。ヨルみたいな存在はとても貴重で大切な存在にいつの間にかなっているのを自覚したのがヨルともっと一緒に旅を続けたいと思った理由の一つだ。 


 都心部で待ってくれているらしい、アンドレ君の事もあるから急がないといけないかもしれないけれど。それに関しては気にすることはないとオベールさんからのお言葉もあるし、元々急がないといけない旅でもないのだ。俺達はもう少し、この村に滞在することになった。











 それから数日後。



「本当にありがとうございました」

「気にすることはない! 俺達も滞在中、世話になったしな!」



 村の病人たちの状態も安定し、あの一番重症だった子供も無事に立てるほどに回復したのを見届けて、俺達は再び都心部へ向かう事に。

 今は村長さんや病院の医師の先生など村人に見送られている。

 その中には、あの一番重症で右目まで負傷していた子供の姿も。



「兄ちゃん、本当にありがとう。俺達を救ってくれて」

「俺はお前達がここまで元気になってくれた姿を見せてくれたことが一番嬉しい」



 ヨルと一番重症だった子供がそう話している間に、俺は少しだけ、まだこの村に残るというオベールさんと話をした。



「オベールさんすみません。後の事全てお任せする形になってしまって」

「構わない、元より私たちの仕事であったところを君達に助けてもらったのはこちらだ。我々もあと三日ほどすればサシニアの駆除などを終えて都心部へ帰る予定だ。それまで君達が滞在していれば都心部の城へと会いに来るといい」

「いいんですか?」

「あぁ、今回のお礼もしたいし、君は新しいパルフェットの息子という事は、私にとってリンタロウは新しい甥だという事だ。話を通しておくからぜひ、会いに来てくれ」

「ありがとうございます! ぜひ、伺わせていただきます」



 まさかお城へお誘いいただけるなんて! 都心部だし、そりゃあ一国のお城があるのは想定してたけど、お城に伺える機会が実現するだなんて思ってもみなかった! 遠目で見て終わりだろうと思っていたから。

 前の世界だとそういうお城系は観光名所に必ずなってるものだし、入れる機会なんてそうそう貰えるものじゃない。

 前の世界ではこういう旅や、観光なんかもした事ないから、そんな貴重な経験ができることが本当に嬉しく、あとでゼンに都心部で手続き終えれたら観光やいろいろ勉強するために数日滞在できないか相談しよう。


 俺と話した後は、オベールさんはゼンとも少し話して、最後にヨルとも話していた。



「君の知識には本当に私も勉強させてもらったよ、ありがとう。本当に、私と一緒に働いてほしいくらいだった」

「すまない! それはないな! 俺は英雄王のような素晴らしい剣士になるんだ!」

「そうか。やはり気持ちは変わらないか。先程リンタロウにも話をしたが、もしよければ、数日後になるが一度都心部の城の私の元へと来てくれ。今回のお礼をぜひ三人共にさせてほしい」

「わかった! また都心部で会おう!」



 そしてついに、お別れの時間に。








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