第95話 微睡みの中の微笑み【1】
あの後、嵐が止んで朝一でやって来てくれた都心部の衛生兵さん達に出くわしたのは俺達。
そして、一番事情を知っているのも俺達だから、他の手伝ってくれていた村民の皆さんには休息をしてもらう事に。
村民の皆さんは、俺達を残して休むわけにはいかないと言ってくださったが。これまで村の皆さんが一番大変な思いをされたのだから、今一番落ち着いているこの時にしっかりと休んでもらうようにと、どうにか説得した。
そして、この村へと急いで来てくれたであろう衛生兵さん達に、事情を話すという仕事が残った俺達は衛生兵さん達のお偉いさんに謁見し、説明することに。
話をほとんどメインで進めてくれたのはヨルだ。
今回大活躍したのは、他でもない彼だし、筆頭になって患者の治療にあたってくれていたのだから。
そんなこんなで俺達と今回の件の話を聞いてくれているのは、都心部の衛生兵を纏めて連れてきたという隊長さんのオベール・ゲリールさんだ。
気さくな方で、都心部の衛生兵で隊長を務めるほどの方だからオベール様とお呼びしたら、そんなにかしこまらなくてもいいとおっしゃってくださって、オベールさんで収まった。
俺はスムーズに話が進むために、必要な時以外はほとんど会話に入らないように徹している。
のだが、気になっていることがあるのだ。
それは、オベールさんの髪色と瞳の色。
その色はつい最近までよく見ていたから、大変見覚えがあり、絶対そうだろうという自信しかないのだが。
でも、顔つきは全くの真逆と言ってもいいくらい、オベールさんが精悍な顔つきなのが自信をちょっと無くしてしまう原因でもある。
俺が黙ってそんな事を考えている間にも会話は進み、終盤にかかっていた。
「――――と、いうわけで、今回の件は無事、朝日が昇る頃。つまりは、あんた達と出会う直前に落ち着いたってわけ」
「そうだったのですね。あなた方のおかげでこの村は救われた。我々の代わりに全力をつくしてくれて感謝申し上げる」
「いえいえー! たまたま俺が知識を持ってたっていうだけさ! それより、周辺に生えてるかもしれないサシニアの花の駆除はするのか?」
「あぁ、もちろん。このままにしておくとまた被害が出る。近隣と沿道に生えていないか確認し駆除する予定だ」
「それならもう安心だな! 良かった!」
話はどんどん進み、終わりが見えてきて、やはり気になるのがオベールさんの持っている色。
…………やっぱり、そうだと思うんだけどなあ。
俺は余りにも気になりすぎて、ゼンに相談してみる事にしてみた。
「なぁ、ゼン。オベールさんってもしかして…………」
「あぁ、俺もそう思ってたところだ」
「やっぱり、そうだよなぁ」
「ん? どうしたんだ? お前達。二人してこそこそ話して」
「いや、それがさ……」
ヨルの言葉のおかげで、俺は心の内に秘めていた謎をようやく確認する時がきた。
「あの、オベールさんってもしかして、パルフェットという方のご親戚か何かで?」
「ん…………? パルフェットは私の弟の名だが。知っているのか?」
やっぱりそうだったー!!!!
だって髪色と瞳の色がそっくりなんだもん!
桜の花弁のような髪色! レモンイエローのキャンディーみたいな瞳の色!
パルフェット様やプティ君の色と全く一緒なんだもの!
でも、顔つきがあの可愛いパルフェット様達と全然違って、精悍なもんだからちょっと迷っちゃったよ!
オベールさんはパルフェット様のお兄様なんだ!
「あの! 実は――――――」
かくかくしかじかで、と俺はオベールさんに俺の事情などを説明し、パルフェット様に大変お世話になった事を伝えたのだった。
「なるほど。君が噂のリン君だったわけか」
「あれ、俺の事ご存じだったんですか?」
「あぁ、パルフェットが数日前に手紙を送ってきてね。そこに君のことが書いてあって。もし会うことがあればよろしくするよう言われていたんだ。手紙には甥のアンドレにも手紙を送っていると言っていたから、きっと都心部であの子のことだから待ち構えているよ」
「えっ! そうだったんですか!?」
思わぬ所から、俺の情報は回っていたようで。パルフェット様が俺の為にいろいろと手回しをしてくださっていた様子。
しかも、パルフェット様の長男であるアンドレ君が都心部で既に待ち構えているとのこと。
俺達が都心部につくまではもう少しかかる予定なのだが。今から待ち構えていたらアンドレ君をだいぶ待たせてしまうはず。
大丈夫かな。とつい気になって心配してしまうのはしょうがない事だろう。
俺がその心配をオベールさんに伝えると。
「あぁ、あの子は好きで何かしらしながら待っているだろうから大丈夫。君が都心部へと入ったら噂を聞きつけて向こうからやって来るだろうから、特にこちらからアクションする必要もない」
「……そうですか。それなら、分かりました。でも、なるべく待たせすぎないようにします」
「気遣いありがとう。君達も村民の治療を終えて休んでいないのであろう。これ以上は、私達に任せて休みなさい」
「いいんですか?」
「お言葉に甘えて休もうか」
俺とゼンがオベールさんの言葉に甘えようとしたけれど、ヨルは違った。
「俺は、もう少し様子を見ておくよ。気になる子もいるし。俺の知識が役に立つ事もあるかもしれない」
おそらく、ヨルの言う気になる子とは、一番重症で右目まで火傷の様になってしまっていた子供の事であろう。
確かにあの子が一番気がかりであるのは、俺もだ。
その後、俺やオベールさんがヨルの体調を心配し、少しだけでも休まないかと伝えたが、ヨルは絶対に首を縦には振らなかった。
結局は俺達が根負けして、ヨルの好きなようにさせる事に。
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