第80話 閉幕【4】








「まずいな、リンタロウ。聞こえているか?」



 そうリンタロウに声をかけたが、返事がなく。

 どうやら魔力もオーバーシュートして、自身で制御できなくなり魔力が枯渇しかけているのはゼンもすぐに把握できた。

 だがしかし、リンタロウが返事もできずに意識が消えているか消えきっていないかも分からない状況の今。

 ゼンができる応急処置は一つしかなかった。



「――――すまない」





 *********





「ふーん、それで応急処置って何したんだ?」

「普通の初歩的な応急処置だ」

「…………うん。だからその応急処置ってどうやんの?」

「まあ、簡単に言うと俺の魔力をリンタロウに与えたんだ」

「あー! だから、意識消えかける瞬間にゼンの魔力を感じたわけだ!」



 ん? でも待てよ。

 あの時、ゼンの魔力はどうやって俺の中に入ったんだ?

 この前みたいに手を合わせて送ったとか?

 …………送られた感じは、なんか手の先からっていうより腹の内側からって感じがしたんだが。



「ちなみにその魔力を与える方法ってどんな方法を使ったんだ?」



 ほら、もしかしたら今後俺も誰かに魔力を与えることがあるかもしれないだろ?


 俺がそう言うとゼンは。



「普通の初歩的な応急処置方法を使ったんだ」

「う、うん? だから、その応急処置の魔力を与えるのはどうやって与えればいいんだ?」

「普通の初歩的な応急処置方法を使って与えればいいんだ」



 ………………うん。

 こいつ教える気がねぇ!!!!

 はぁ? どういうことだよ! 教えろよ!


 とまあ、叫びたいところだけど、俺は病人。

 そう思うと怒る気力が失せてしまって、それ以上聞き出そうとするのが億劫になってしまった。



「はぁ、まあいいや。それで? その後は? リーダーの男はどうなったんだ」





 *********





 ゼンがリンタロウに十分な量の魔力を与えて、リンタロウから魔力が漏れ出ないように魔力を操作した後。



「こんの、クソS級冒険者め!!」


「…………どうやら、悪態吐く元気はあるようで何よりだな」



 ゼンが無事を確認したプティ君と、応急処置を施したリンタロウを優しく横たえた後。

 同じく仲間であるフードの男に応急処置を施されたリーダーの男が、かなり距離をとっているはずなのに、ゼンに向かって唾が飛んできそうなほどの勢いで暴言を吐いた。

 ゼンはゼンでそんなリーダーの男の暴言なんて痛くも痒くもないので、どこ吹く風だ。



「シェイ! これ以上はダメだ! 奴の仲間も近づいている。ここは逃げるしかない」

「わかってる!! ふーっ! ふーっ!」



 剣が掠めたと言ったが、決して浅い傷ではない傷を負ったリーダーの男は、いろんな意味で興奮しているせいか息が荒い。



「ここに付く前に仲間にこの場所を知らせた。おそらく、お前らの仲間は今頃取り押さえられているはずだ」


「こんの! クむぅぐっ!!!」

「落ち着け! これ以上血が昇ったら傷に響く! ここに来る前に他の奴らには速やかに逃げるように指示はしたが、おそらく、あの男の言うとおりだ」

「っ! んのやろう……」

「この場は逃げるぞ」


「俺が大人しくお前達を逃がすと思うか?」



 ゼンはそう言うと右手に持つ剣を掲げて臨戦態勢へと入る。



「っは! ははははは! ここに来るまでこれだけ時間がかかったんですもんねぇ? どうして俺達がここまであなた達の警戒を潜り抜けて逃げられたと思いますぅ?」

「…………認識阻害の魔法の使い手はお前か」

「せーいかーい!! 残念でしたねぇえ! クソ冒険者!









 ………………………………次あったら絶望の闇を見せてやりますよ」



 リーダーの男がそういうと、傍にいたフードの男と共に二人の姿が消え。

 それと、リーダーの男が乗っていたバイコーンとフードの男が乗ってきたであろうバイコーンも共に姿を消して、匂いや気配、様々な情報を消して逃げ去られてしまったのであった。





 *********





「そっか、逃げたのか、あいつ」

「すまない。リンタロウやプティ君。リッシュ家の牛達は無事に保護できて、その他の仲間の盗賊と思われる奴らは捕まえられたんだが…………」



 俺を助けてくれたっていうのに、何故かすごく申し訳なさそうな顔をするゼン。



「なんでゼンが謝るんだ? 俺やプティ君、牛達を助けてくれて、たくさんの盗賊たちを捕まえてくれたじゃん」

「…………しかし、リンタロウを傷つけたやつを野放しにしてしまった」

「そっちの方が好都合ってもんだな!」

「???」



 俺の言葉に綺麗な角度で首を傾げて、頭にハテナマークを付けるゼンの様子は、普段のイケメンと比べたらちょっと可愛いかもしれない。



「だってさ、今度もし、またあいつに出くわす機会が俺に合ったら」

「そしたらその時は――」

「そしたらさ!」



 たぶん、ゼンが言いたい言葉の続きは俺が捕まえる。とか、俺が倒す。とかそんな感じだとは思うけど。

 俺はその言葉の続きを、同じ言葉を使って遮った。



「そしたら! その時は俺がボッコボコにできる機会があるから! 好都合ってもんだね!」

「…………は、ははははは! あはははははははは!」

「うわ! びっくりするな! そんなに笑うか!?」

「いや、リンタロウ、それは、お前、っく、あはははははははは!」

「あ! 無理だって言いたいのか! 俺はこれでも少しはできるってお前も知ってんだろ! あいつと次会う機会がある時までにはもっと強くなるつもりだからいいんだよ!」



 ゼンに何を言っても、しばらくゼンの大笑いは止まらず。

 肝っ玉母さんパルフェットに叱られるまで、ゼンの笑いと、俺の文句の言い合いは止まなかった。







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