第79話 閉幕【3】
「…………リンタロウ」
「…………………………………………ゼ、ン」
全身がこわばっていてるし、ズキズキと痛むので動かせないけど。
視線と口だけはどうにか動かせたので、俺の右手を握るあたたかい手の持ち主、ゼンの姿をはっきりと確認して名前を声に出すことができた。
今少し声を出してみて思ったけど、この声の出しずらさ。
凄く既視感を感じる。
「おれ……、どれ、くらい、ね、てた?」
「っ、はは……今回は、二日だよ」
起きて最初の一言が、自分の睡眠時間を聞いたのがどこか可笑しかったのか。
真剣にこちらを見つめていたゼンは表情を破顔させて、優しく微笑みかけてくれた。
寝起きにその眩しいくらいの優しい微笑は凶器のようです。
「…………わら、うなよ。眩しい」
「ん? 聞こえないなぁ」
その返事を聞いた瞬間、あ、こいつ分かっててやってるんだなとすぐに気づいた。
「………………リンタロウ」
「ん? …………」
「おかえり」
「………………ただいま」
その後、すぐに部屋に入ってきたパルフェット様によって更に治癒魔法を施されたり。
俺が起きたことに気づいた双子お兄ちゃんズに突撃されて、それを叱るベルトラン君を見れて、再びこの場に戻れたことが凄く嬉しい。
そして、何より…………。
「リン、兄ちゃ…………」
「プティ君! ……」
「ぅ、ふぁぁあああ! にいちゃぁああああ!!」
大量の涙を流しながらも、プティ君が無事な姿で俺に抱き着いてくれたことが、何よりも、心底嬉しかった。
ドゥース様やセリューさんも含めたリッシュ家全員が俺の部屋へと集まり、再会を喜んで一息落ち着いた頃。
まだ、病人という事でゼン以外の皆は部屋の外へと出て、俺に気を使ってくれた。
双子お兄ちゃんズとプティ君は渋ってたけどな。
そして、俺が倒れたその後の話をゼンに教えてもらったんだ。
*********
「どうにか、間に合ったか」
そう呟いたゼンの腕の中には、ぐったりと力なく眠っているリンタロウの姿があった。
リンタロウを捜索していたゼンは、暗闇の中を飛ぶカリスタの上から突如として目が眩むような光を放つ一帯の森を目にした。
ゼンがその眩しさで目をやられないように腕で光を遮りその先を見ると。
不自然に一部だけ光輝く森が広がっていたのだ。
そして、それはよく見ると一部の方向に少しずつ範囲が広がっていっているではないか。
そこで、ゼンは確信した。
あれはリンタロウの仕業だと。
「カリスタ! あの光が伸びる先へ向かえ!」
返事をするまでもなく、カリスタはゼンの指示に従い、光の先へと両翼を力強く羽ばたかせ、今までの中でトップスピードではないかと思われるスピードで目的の場所へと目指した。
そのおかげか、目的の場所までかなりの距離があったにもかかわらず、かなり速いスピードで辿り着くことができたのだが。
その先でゼンの目に映った光景は、ゼンの心を大きく揺さぶるには容易だった。
ボロボロになったリンタロウ。
そしてそのリンタロウの頭を掴み引きずる謎の男。
どうみても、こいつが盗賊団の一員であり、それなりの立場の者だとすぐに分かったゼンは、まだカリスタが地面へと降り立つよりも前に飛び降り。
その勢いのまますらり、と鞘から抜き取った双剣の一振りをリンタロウの頭を持つ男の腕へと振り下ろした。
「シェイ! 逃げろ!!」
「――――――ぅ、ぐぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
「っち、武装解除魔法か」
腕を切り落とすつもりで振り下ろした刃は、目的の腕を掠めただけで、完全に切り落とす前に何かにはじかれたかのように双剣のうちの一振りが飛んで行ってしまった。
恐らく、パルフェットに使用された武装解除魔法と同じ魔法を、どこからか聞こえた銃声の主が放ったらしい。
「リンタロウ! しっかりしろ! まだ意識はあるか!?」
ゼンが盗賊団の男の腕を切りつけた事で、リンタロウの頭を掴んでいた男の手が離れたためリンタロウが地面へと倒れ込んでしまう。
間を開けずに右手だけに残った剣を周りを警戒し構えながら、ゼンはリンタロウの身体を抱え敵との距離をとった。
敵の方を一瞥すると、どこからか現れたリンタロウを掴んでいた男に駆け寄る仲間らしき男の姿があった。
仲間らしき男はそのままゼンが切りつけた男の応急処置を施すようで、こちらにも状況把握の時間があると判断したゼンは『遅くなった。もう大丈夫だ』とそう言って手早くリンタロウの状態を確かめた。
かなりの負傷をしているリンタロウの様子を確認し不自然に膨らみがある背中を確認すると、そこにはプティの姿が。
こんな所に……、また器用なことを。
ゼンは心の内でそう呟くと、リンタロウのツナギの前を開けてプティの身体を取り出して簡単に状態を確かめた。
そして、熱が高い他は所々打ち身のような痣ができているが、どうやら軽症で済んでいる様子に一息付けたが。
問題は、凛太郎の方だった。
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