第78話 閉幕【2】
ごぽり。
り、ん……たろ、う。
…………逃げたな。りんた、ろ、う。
ごぽり。
「………………は、はは、嘘だろ?
――――――――――父さん?」
ごぽり。
に、いさん、どうしていなくなったのさ。
ごぽり。
キョウ、ちゃーん、どこいっちゃった、のさー。
おれ、たちと、あそぼ、うよー、ぁはははははは。
ごぽり。
「やめろよ。もう、あんた達は、会うはずがない。そうだろ?」
出てくる出てくる。
俺の嫌な記憶達。
顔も覚えてもいない父さん。
会ったこともない弟。
関わりたくもなかった同級生。
そいつらは黒面に顔をだすとその黒面から黒い手のような泥を俺に伸ばしてくる。
「やめろ…………、俺に、触らないでくれ!」
必死に振り払おうと腕を振るうも、余計に俺自身が泥に汚れるだけで、伸びてくる泥は変わらず迫ってくる。
「……ひっ、い、いやだ」
伸びてきた泥は俺の膝から太もも、腰回りから上半身、腕に次々に纏わりついてくる。
必死にもがいて黒い泥沼から抜け出そうとするも、抵抗も空しく身体が腰まで沈んでしまった。
「…………た……けて」
そういえば、俺。
最後にこの言葉言ったの…………いつだっけ。
「……たす、けて」
ごぽり。
「だれか、たすけて」
ごぽり。
「だれ…………………………、ゼン」
ごぽり。
「ゼン………………、助けて!」
――――リンタロウ。
「っ!………………、ゼン?」
――リンタロウ、こっちだ。
「ぁ…………、ゼン」
――戻ってこい。リンタロウ。
どこからか、ゼンの声がする。
こっちだって、戻って来いって。
その声が聞き慣れてきたのは最近のはずなのに、誰よりも異世界へと渡ってから一番多く聞いていたから、とてもあたたかく安心する声。
上、上から声がする。
ふと上を見上げると、真っ暗だった夢の世界に上の一部分だけが、いつの間にか白く光を放っていた。
あそこだ。
あそこにゼンがいる。
――帰ってこい。リンタロウ。
プティ君も無事だ。皆も心配している。お前の目覚めを待っている。
そっか、プティ君。無事なのか。
――俺はここに、お前の傍にいる。
ゼンのその言葉を聞いたらなんだか、俺の右手がとてもあたたかい何かに包まれているのを感じて。
上を向いていた顔をゆっくりと手先に向けると、何故か俺の右手が誰かの大きな手の形に白く光を帯びていて、さっきまでまとわりついてた黒い泥は何処かえ消え去っていた。
――帰ってこい。リンタロウ。
「……うん。帰る。俺、皆の元に」
夢の中の帰り方なんて分からないけど、今はこうすればいいって、不思議と分かったんだ。
俺はあたたかい光に包まれている右手を、上の白く光を放つ先へと伸ばした。
「ゼンの元に、帰るよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます