第81話 HOME SWEET HOME【1】
俺が目覚めてから数日経った。
今回の事件で、多くの者や、動物たちが怪我をした関係で、パルフェット様は大忙し。
事件当日で既に多くの魔力を使い、枯渇気味であったにもかかわらず。俺達や他の動物たちの治療の為に、魔力が回復しては全員の治療を少しずつ進めての繰り返しでとても大変だったのは目に見えて分かった。もちろんリッシュ領に存在するお医者様達も頑張ってくださってたが、パルフェット様以上の治癒魔法の使い手がいないのでやはり、負担は偏ってしまいがち。
そして、長い時間をかけて俺やその他の負傷者や動物達、全員をパルフェット様とお医者様皆で完治させてくださったんだ。
それからは、今まで窃盗団の討伐に集中していたゼンが、今回の事件が収まったことにより手が空いたので本格的に都心部へと向かう旅の準備の毎日だった。
ついには、明日、リッシュ領を立つことになっているので、今は最終調整の買い出しだ。
「えーっと、今日の目的の買い出しはこんなもんか?」
「そうだな」
「ていうか、俺のマジックバックと、旅装束もだっけ? それってどうなってるんだ? 明日出立だけど」
「それは、今夜渡す予定だから安心しろ」
「……今夜?」
なんで、帰ってすぐ渡してもらえないのか不思議だけど、届くのが今日の夜なのか?
まぁ、なんにせよ、特注品と言われた高価な品を貰うだなんて緊張しかないけど、ちょっと楽しみだな。どんなのだろ。
「パルフェット様やセリューさんも、今夜は出発前のお祝いだって言って夕食張り切ってくれてるみたいだし。嬉しいなあ」
「ふっ、言葉ではそう言っても、顔は寂しいって出てるぞ」
「っむ! …………うるせぇよ。寂しくないわけ、ないだろ」
そう。
寂しくないわけがないんだよ。
なんだかんだ、俺はここに、リッシュ領に一カ月と少し滞在していたわけで。これだけ長くいれば、あのあたたかい家族と離れがたくなってしまうのは必然ってもんだろ。
「それはそうと、リンタロウ。身分証を発行した後の身の振り方は考えたか?」
「……………………もちろん。もう決めた」
リッシュ家へと帰宅途中、カリスタに乗って空を移動中にゼンに聞かれたその言葉。
事件直前に、シャルル君にも聞かれたそれ。
その時には心の内は決まっていた。
「俺さ、今までの人生父親のレールの上しか歩けなかったんだ」
「…………リンタロウ?」
「まぁ、聞き流してもいいから」
「……わかった」
俺は、ずーっと父親と母親がいない生活をしてたって話は、キャンプの時に全部、話したと思うんけど。
父親は俺の事道具としか思ってなかったし、出て行ってから一度も連絡がない母親なんて俺の事もういない存在としているかもしれない。
そんな中、俺の事道具としか思ってないって分かっていても、こまめに連絡をくれる父親の事は、中学、えーっと。こっちでいう十五歳くらいの時までは心のどっかで嫌いになり切れない自分がいたんだ。
十五の時に親父に言われたのは、それまで居るって知らなかった四つ下の弟の代わりとして俺を育ててたって。
それまで嫌いになりきれない父親にどこかを認めてもらいたくて、必死に言われたことを守ろうとより良い成績や評価を周りから受けて、そうしたら父親が振り向いてくれるんじゃないかって思ってた。
父親のその後の話を聞いて俺は、心の隅にあった、期待に胸を膨らませてあった俺自身を、認めてもらいたいって思っていた父親にズタズタにされて、俺の心はどっか死んだようなもんになっていたんだと思う。
その後の俺の人生は周りの色なんて全部、彩が欠けて灰色に見えていたんだ。
ただただ、父親が敷いたレールの上を歩いて、肉体は死んでいくんだって。そう思って残りの長い人生、楽しみもやりがいも、何もない人生を送るんだって。
そう思って生きていた矢先に、急にファンタジーな世界からお迎えが来て。
実を言うとさ、こっちに来た頃の俺、人とまともに話したのすげー久しぶりだったんだぜ。
あんまり、変に思われないようにと思って取り繕ってはいたんだけどな。
…………ゼン、お前はどこか見透かすようなところがあるから知ってたかもしれないけど。
こっちに来てとても楽しかったんだ。前の世界で受けてた変な目で見てくる奴もいなければ、変にすり寄ってくる奴もいない。
初めて俺は、あ、俺人間だったんだって思ったくらい。
まぁ、それも、俺の魔力の事を知るまでだったけど。もしかしたら人間じゃないかもだなんて思うかよ。
こっちに来て、ゼンに自分の未来好きに決めていいって言われて、実は俺、どうやって自分の未来考えればいいかだなんて分からなかったんだ。
けど、ゼンが、頼ってくれって言ってくれて。
でも、俺は今まで誰かに頼るだなんてほとんどしてこなかったから、頼るってこともどういう事か分からなくて。
これからどうしようか本当に悩んだし、分からなかった。
でも、それでもリッシュ家の皆や、ゼンが、俺に時間をかけて、いろんなことを、優しくあたたかく教えてくれたから。俺は自分の未来をどうしたいか、決めることができた。
「俺さ、俺、冒険者になりたい!」
「……リンタロウ」
「俺、ゼンみたいなとは言わないけど、俺にいろいろ教えてくれたゼンの事もっと知りたいし、教えてほしい! 俺、ゼンと同じ冒険者がいい!」
「…………ぁは、ははは」
「なんだよ! 笑うところじゃないだろ! ゼンには身分証発行した後も、俺の面倒見てもらうからな! 俺が立派な冒険者になってからも! お前の事を頼るからな! だから、俺の傍にいろよ!!」
「ははははは! …………くくっ、そうだな。言い出したのは俺だ。リンタロウがもう俺をいらないって言うその時まで、俺は、リンタロウの傍にいるよ」
空を飛ぶカリスタの上だというのに、少し暴れながら言い合いをしてしまう俺達。
そんな俺達に、俺達を乗せているカリスタは『ギャァウァ!!』と文句を言うのは仕方がない事であった。
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