第76話 闇を切り裂く刃の音【3】








「んぐ!」



 俺がリーダーの男の考えを当てようとしたら、ぐいっと引っ張られた掴まれている俺の頭。

 遠慮なしにリーダーの男は、俺の髪と頭を無造作にがっしりと掴んだままズルズルとモンスター馬の方向まで引きずっていくので非常に痛くて頭皮が剥がれそう。

 ていうか、片足負傷してんのによくそんな力あるな。見た感じめちゃ細身なのに。

 あれか?魔力操作で身体の力を調節してんのか?

 …………まじで頭皮と言うか、頭蓋骨から持ってかれそうなくらい痛い。

 もう遠慮なしに苦痛を顔にも声も表に出してる。



「このままあなたがボロボロのまま、抵抗できずに魔力が枯渇してしまえば勝手に死んでくれるから面倒が減って大助かりです」



 そうそう、それ。俺が当てたかったあんたの考え。

 やっぱり合ってたか。



「大変残念なことに、死んでしまう事で大事なあなたの売値は大幅に下がってしまうでしょうが、もう一人はその熱をどうにかすれば健康のまま売り出せそうですし」



 プティ君にも言ってたもんなあ、死んでも別の買い手に売ればいいって。

 俺にそれを言うのは構わんが、プティ君にそんなこと言ったのは恨んでるから死んだら呪ってやるからな。

 ファンタジーな世界だから呪いとかできそうじゃん?


 にしても、そろそろ俺の意識も限界に近い……。

 プティ君だけは助けたいのに、それができない現状が悔しい。


 俺、本当にこのまま魔力が枯渇して死んでしまうのか?

 なんだかんだ、ファンタジーもうやだとか子供みたいなこと叫んだけど、この世界に来てからが人生で一番、周りが彩り鮮やかに見えて充実してたんだよなあ。

 パルフェット様に叱られたり、双子お兄ちゃんズにからかわれたり、ベルトラン君にいろいろ教えてもらったり、プティ君は俺を気にかけてくれて構ってくれて、そんな俺達を暖かく見守ってくれたドゥ―ス様や、細かなところまでサポートしてくれてたセリューさんが居てくれて。


 ………………楽し、かったんだよなぁ。



 ほんっとうに自分が情けない。

 やっと手にできると思った新しい人生。

 自分の自由で生きれる世界。

 こんな見ず知らずの俺をあたたかく迎え入れてくれたリッシュ家の皆。

 その末息子であるプティ君を守れず。

 前の世界までは、自分は他より優れていて、何でもできるとか思っていたのは、本当に馬鹿が思い上がっていただけで。

 実際はこんな大事な時に何もできない、ただの役立たずで。


 俺の人生、こんな終わり方しちまうのかよ……!


 悔しくて、情けなくて、そんな止められない感情がもうすぐ意識を飛ばしそうだっていうのに、目から溢れて止まらない。


 ごめん、プティ君。

 ごめんなさい、パルフェット様、ドゥース様、ベルトラン君、シャルル君、サロモン君、セリューさん。



 ごめん……!ゼン!

 せっかく、こんな俺に皆、優しくしてくれたのに、たくさん教えてくれて助けてくれてたのに。

 俺、何にもできなかった…………!!



「おっと、そろそろ意識も飛びそうですね。意識が飛んでしまうと重くなっちゃうんでもう少し耐えてくださいねー」



 運ぶの大変になるんで。そう言ってズルズルと俺を引きずるのを止めないリーダーの男。

 こんな奴に捕まってしまったのが、ゼンに面目付かなくて悔しい。

 でも、リーダーの男の言う事を守るつもりも何もないのだが。


 本当にもう、意識が、遠のいて…………。


 目の前が暗くなる。

 音が遠のく。

 意識が、沈んでいく。





 そんな時、まるで舞い降りるかのような一つの鋭い音と、何かが発砲されたような破裂音が俺の傍で大きく響いたんだ。



「シェイ!逃げろ!!」

「――――――ぅ、ぐぁぁあああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

「っち、武装解除魔法か」



 突然、全身に激痛が走ったかと思ったら、いつの間にかリーダーの男の手から解放されていた俺の頭。

 そうか、リーダーの男が手を離したから俺は地面に落ちたのか。



「リンタロウ! しっかりしろ! まだ意識はあるか!?」



 ………………? この声は、ゼン?



「遅くなった。もう大丈夫だ」



 ふわりと温かい何かに包まれて、ふわりと香るこの香りは、ゼンの匂いだ。

 ゼン、そこにいるのか?


 暗くなりかけた目の前を、必死に目を開いて見てみると。

 目の前には眩しい輝きを放つイケメンの顔が見えた。


 あぁ、この眩しいイケメンはゼンだなあ。

 はは、来るの、遅いっての。



「まず――、リ――ウ。聞こえ――――?」



 安心したらもうダメだ。

 目の前も見えなくなるし、耳ももうほとんど聞こえない。

 意識も、もう切れそうだ。



「――――すまない」



 なぜか、そこだけはっきりと聞こえたゼンの言葉の後。

 唇にあたたかい何かが触れたと思ったら、そこからさらに優しいあたたかい《何か》が俺の中に流れてきて。

 まるで砂漠の様に干上がっていた身体の中がその《何か》で満たされていくのを感じる。


 …………そうだ。これは、ゼンの……。


 俺の意識はそこで、ぷつりと切れてしまった。







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