第75話 闇を切り裂く刃の音【2】









「あなたの変な魔力のせいでこうするしかなかったんですよ。どうしてくれるんです? ていうか、何なんですか。あなたの魔力。今もダダ洩れですし、今こうやって近づいて意識保つのもこれがないとやっていけないんですけど。仲間はあなたの魔力でふらふらする者もいれば、馬達も落ち着かないし、バイコーンを連れてくるのも一苦労でしたよ」



 えっ……、俺、魔力漏れてる?



「なんですか、その顔。自覚無いんですか? こんなにダダ洩れなのに。あなたの味方に見つけてもらうためにわざとしているのかと思いましたよ。まあ、おかげでこっちはあなたが逃げた先を追いかけることができたんですけど」



 うっそ……。

 俺、今魔力出てんの?


 ……ぁー、くそ。

 だからいつまで経っても、このヘンテコな森から抜け出すことなんてできなかったのか。

 俺のダダ洩れの魔力のせいで、どんなに移動しても移動した先で魔力によって森がヘンテコに変わっていってたらそりゃあ抜け出せないわ。

 しかもそのせいで、敵さんに逃げ道案内までしてしまって。

 まじで、俺ってくそ。

 どうしようもねえ。



「で、どうやって手錠ぶっ壊したんです?そういう性質変化の魔力? それにしては、この森の変わりようとこのくっさい人を酔わせる匂いの魔力も性質変化の一つでしょうし……。そんな設定盛りだくさんな魔力持ってた種族なんて聞いたことないんですけど。異世界渡る異世界人の中には見る事もあるって話の、カリファデュラ神からおかえり特典でも貰えるんですか?」



 いや、そんな特典貰った記憶ないし、どういう魔力かなんて俺が一番聞きたい。

 切実に。


 手錠ぶっ壊したのは、破壊神と呼ばれ加減しないで放出した俺の魔力せいだから、それは性質変化ではないと断言できるが。



「ぃぁ……、け……んぅぁ…………」

「あ、はい。もう喋れる気力もなさそうですね」



 はい。もう喋れる力残ってません。

 痛みの感覚もなんか通り越して鈍ってきたような?

 まじで意識保つのがやっとです。


 目線の合っているリーダーの男の目は、語らずとも呆れや苛立ちなどがたくさん混ざった感情がバッシバシと溢れてて俺の事を侮辱してるのが分かる。

 目は口程に物を言うとはよく言ったものだ。

 っていうか俺が喋れないのそちらさんのせいですが。



「あの手錠が効かないとなると困るんですよ。

 あれ、古いとはいえ持ってきた中でもかなりの効力を持つ制御装置なんで。

 あのレベルがまた壊されたらたまったものじゃないんですけど」



 お?

 ということは、今捕まって手錠付けられてもまた壊せるのか。

 でも、こんな身体じゃ逃げようと思ってもすぐには逃げ出せない。

 意識保つために全振りしていた気力を、少しだけ分けて逃走方法について少しだけ考えてみる。


 一番の問題はこの身体だ。

 ズタボロの身体を治す方法を、俺は持っていないというわけでは全くないのだが。

 パルフェット様から教えてもらった治癒魔法は俺以外の何かを癒す方法だったし、未熟すぎてたいした治療できないのが問題で。



「あとその変な背中のふくらみは?……、あぁ、こんなとこに子供隠してたんですか。

 よくこんなところに隠して移動できましたね」



 俺の首元を引っ張って背中に居るプティ君を確認するリーダーの男。

 相変わらず俺の頭を掴む手は離れておらず、ギリギリと力強く掴まれているので劇的に痛いから少し力を弱めてほしい。

 でも、この力の入れ具合からして、こいつの怒り具合がすごく分かるけど。



「ていうか、あなた大丈夫なんです?」

「…………ぁ?」

「そんなに魔力ダダ洩れで。死にません?」



 ぇ……、え?……、えぇ!?

 死ぬ? え? どういうこと?



「知らないんですか? あなたがどれだけ魔力を持ってるかなんて分かりませんが、魔力には限度があるんですよ。使いすぎれば最悪死にます」



 は……、まじで? 死ぬ?

 何それ。

 ていうか、逃げてる時から魔力ダダ洩れな自覚ないんですが?

 俺なんで魔力ダダ洩れしてんだよ。

 最近では無意識でも出し入れはできてたつもりなんだけど。


 試しに逃走方法に使っていカスみたいな気力を自分の魔力を収めるために使ってみる。

 が…………。


 ……………………ん?

 ぁ、れ……? 思い通りに魔力が収めきれない?



「もしかして、魔力がオーバーシュートしてるんですか? んー、どうやらその反応はその通りっぽいですね。まあ、それならそれで好都合ですね」



 オーバーシュート?

 確かそれって株とかだったら相場が予想以上の変動を起こすことだったり、感染症患者が爆発的に増加する事、とかいう意味じゃなかったっけ?

 …………いや、待てよ、もう1個なんか意味があったよな。確か。

 あー、くそ、こんなボロボロの時に頭使わせんなよ。

 ……………………あ、そうか。適正地が超過するって意味だ。

 そーか、俺の魔力は今暴走して通常の魔力制御できる値を超過しちまってんのか。


 ったく、こんな時に使えねえファンタジー設定もいらないっての…………。

 んで、リーダーの男が好都合な理由は。









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