第70話 異世界とこちらの世界 終編【2】










 決意が出来た俺は、前後に居るリーダーの男とフードの男の様子を、気配だけ探ってみる。

 こちらが怪しい行動しないか、変な抵抗をこれ以上しないかと警戒されているのは当たり前だが、それはあくまで俺の身体の動きに対しての警戒だ。

 なので、目に見えない身体の中の動きであれば、あいつ等は気づけないのではないのだろうか。

 想像ではあるが、さらに魔力制御装置を付けられているので、漏れ出てすらいないであろう俺の魔力の動きは、おそらく分からないのではないかというこの状況。


 今しかないよな……。


 やったことないけど、やってみるしかない。

 俺は吹き出そうになる冷や汗さえ、犯罪者達に見られたら勘ぐられるのではと、汗が出てしまわないように慎重に抑える。

 気持ちが焦って走り出しそうな心臓の音は静かにさせる為に、水を浴びせるイメージで落ち着かせて、その反対にこっちの世界に来てから初めて知った、自分の身体の中にあるその存在を勇ましく苛烈になるように燃やしていく。

 目立たぬように、身の内に忍ばせながら、粛々と。


 初めての事をやる時というのは、どうしてこうも良い意味でも悪い意味でも気持ちが高揚してしまうのだろう。

 その高揚のせいで、犯罪者達に気取られませんように。

 思考の海に沈んでしまっていた時と同じで、慎重に事を進めているので感覚的には時間が長く感じているけど、実際に経過しているその間の時間は約三分程。


 もう、これくらいでいいのでは?


 身体の中で煌々と燃えるその存在に、身の内に秘め続けることが困難に感じてきたその時。








「おい、お前。何を考えてる」

「っ!」



 俺の背後に居たフードの男から、突然声をかけられる。

 ……ていうか、こいつ、喋れたのかよ。

 でも、フードの男の問いかけは当たり前か。

 さっきまで小さな抵抗とかをやってた奴が、三分程とはいえ何もしなくなったのだから。

 

 しまったな。

 つい集中しすぎた。



「…………あんた、喋れたんだ」

「答えろ。何を考えた」



 苦し紛れに話題を逸らそうとしても、そりゃだめか。

 ここまでだよなあ。

 でも、準備はできた。










「………………べーっ! 誰が答えるかよ!」

「っチ! シェイ!」



 何かを察したフードの男が大声を上げて、俺の前を歩いているリーダーの男に伝えようとするが、そんなの大人しく待つわけないだろ。






 その瞬間、俺は身の内で燃え上げれるだけ燃え上げさせた自分の魔力を、力の加減なんて考えずに思いっきり身体の外へと放出した。






 バキィィィン!!!!






 激しい破壊音と共に俺の手錠は粉々に破壊され、力一杯身体の外へと放出された俺の魔力は勢いの凄い衝撃波となって近くを歩いていた犯罪者二人を一気に吹き飛ばした。

 腕の中に居たプティ君はできる限り守りたいと思い魔力を放出したおかげか、俺の魔力放出にぽかんと驚いた顔をしてしまっているが、影響がなかったのかどうやら無事の様子。

 腕の中のプティ君が無事だと確かめられた事で、少しだけ安堵の息を吐く。

 けど今はそんな油断も危険な状況なので、すぐさまキュッと身を引き締めて、現状把握のために周りを見渡す。



「ぁ……うわー、ちょっとやりすぎた?」



 辺りを見渡すとそこは、イキイキとした草花や木々が踊る摩訶不思議な光景が広がってしまっていた。


 俺の周りどこを見ても薄暗い森の中であったはずの光景は消え去り、何故かちらほらと光を発している植物もいるおかげか周囲の明るさが増してしまった森。

 今更やっちまったなと思っても後悔はしない。


 吹き飛ばしてしまった犯罪者達はどうなったか。

 確認のために周囲を深く探ろうとしたその時、腕の中にいるプティ君の重さがぐんっと増した事でプティ君が気を失ったことに気づいた。



「プティ君!!」



 慌ててプティ君の顔を覗き込んで容体を見てみると、何故か熱にうなされていた時とは違う頬の赤みと表情で、目を回してしまっているではないか。



「きゅぅ…………」

「しまった! プティ君! 大丈夫!?」



 さっき確認した表情では影響がないと判断してしまったから油断した!

 そういえば、俺の魔力は匂いがするとか言われてたっけ?

 もしかして、匂いに酔った?

 というかこの場合は、魔力に酔ったと言った方がいいのか。


 体調が悪い所に、さらに魔力酔いという負担がプラスされた事でプティ君は目を回してしまったのだと推測はできるけど……。

 そんな魔力酔いを起こしたなんてファンタジーな症状。

 今まで一般ピーポーだった俺だぞ。

 どう対処すればいいかなんて分からないに決まってる!

 ただでさえプティ君くらいの年齢の子が熱を出してしまった際の対処法なんて詳しくないのに、そこにファンタジーな異常事態が起こってしまえばもう手に負えない。



「どうしよう。早く、誰かに診てもらわないと」



 吹き飛ばしてしまった犯罪者共の存在なんて頭から吹き飛んでしまった俺は、その場を走って逃げようと一歩足を踏み出したその時。


 ガサガサっと大きな音を立てて、前方からリーダーの男が吹き飛ばされた先から草花をかき分けながら這い出てきたではないか。



「っくそ、いったい……何をした…………」



 一瞬捕まるかもしれないと身構えたが、何やらリーダーの男の様子がおかしい。

 息も絶え絶えで起き上がる事ができないのか、こちらに向かって這いつくばって来て絞り出された声が、なんか今にも息絶えそう。


 もしかして、こいつも魔力酔いしてるのか?

 じゃあ、フードの男も?










 という事は…………。









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