第68話 異世界とこちらの世界 後編【3】
亀裂…………?
古い手錠故なのか元々の汚れや細かな傷があるせいでとても分かりにくいが、ほんの少し、明らかな亀裂ができているのを、俺の目が確かに捕らえた。
こんな亀裂、あったっけ?
そもそも、亀裂がある手錠なんて使いまわすか?
たらればや可能性などの様々な言葉が頭に流れたその時に、後ろ髪を一本、ピンと引かれたように突然思い出した。
気絶から目が覚めて初めに感じた、この手錠とパルフェット様からお借りした魔力制御装置とはどこか違うと感じた違和感。
その違和感と、この亀裂は関係してる。
自分の勘違いかもしれないのに、核心を持ってそういう考えに至った自分の勘が外れたことはあまりない。
俺は、自分の身体中の血液がどくどくと脈打ち身体を巡って頭に集まり、さらなる思考を深め、速める手伝いをしているのを感じながら、その思考の海に入ってしまう事に抵抗せずにどっぷりと浸かる。
外界と断絶された思考の海の中で、ぐるぐると回る言葉と映像を一つ一つ丁寧に並べていく。
自分の勘が言っている、今手に付けられている魔力制御装置と借りていた魔力制御装置の装着している感覚が違うと感じた違和感。
そして古い手錠にしかと見つけた小さな亀裂、この二つを繋ぐ糸がこの状況を解決に導く糸口になると。
では、その違和感とこの亀裂を繋ぐ関係の糸はなんだ?
今付けている魔力制御装置と借りていた魔力制御装置が違うと感じた正体とは。
いったい何に違和感を感じている?
魔力制御装置に亀裂ができる前、手に僅かに感じた衝撃のようなモノ。
おそらく、感じたそれは亀裂が起こった時のモノで、何故それが起こったか。
初めにリーダーの男に付けられた古いと思われる魔力制御装置。
それに違和感を感じた時はそれどころではなかったという事もあって、すぐに重要視する余裕がなかったけれど、思考の海に入る事の出来た今はそれについて深く考えることができる。
まずは二つの魔力制御装置の違いの正体。
お借りしていた魔力制御装置と何が違うと感じたか。
パルフェット様から借りていた魔力制御装置は見た目から高価で、おそらくその見た目にたがわず効果も確かな品物だったんだろう。
魔力の流れを感じ取る事に慣れてきていた今だからこそ気づけるが、魔力制御のブレスレット一つ付けた瞬間に自分の魔力が堅く押し止められている感覚がしていた。
それに比べて今付けられている魔力制御装置は、両手に付けられているにも関わらず魔力を身体に止める力というか、堅固さが無いような、少し柔らかいというか脆く感じる印象である。
ということは、魔力制御装置の堅固さの違いが違和感の正体。
次に亀裂が起こった原因。
亀裂が起こり、衝撃を感じたその時の状況を振り返ってみる。
その時は俺がリーダーの男に煽られ頭に血が上ってしまい、歯を食いしばり手に力を込めて握りしめることで気持ちを落ち着かせようとしていたのは覚えている。
まさか手に力を込めた事で筋肉が膨張し、装置を押し広げたことによって亀裂ができたというわけではないだろう。
俺そんな事できるほど筋肉ムキムキじゃないし、手錠型の装置は手から抜けはしないけど少し余裕のある隙間があって絶対無理。
じゃあ、何が原因か。
でもそういえば、その時にもう一つだけ、俺は必死になって落ち着けようとしていたモノがあった。
それは、俺の身体を突き破り、爆発するんじゃと強く暴れまわっていた
そう。
悪戯大好き双子お兄ちゃんズに名付けられた、破壊神というその名の通り。
容赦なく物をぶっ壊す、俺の魔力だ。
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