第66話 異世界とこちらの世界 後編【1】
「とまあ、これだけ話せばおにーさんなら自分が攫われた理由と、異世界人に対しての制度がこちらの世界でしっかりと組み立てられた理由は分かるでしょう」
「…………痛いほど分かった」
本当に、頭が痛んで仕方がねえよ。
なんで生き物の中で複雑な感情やなんやかんやを持ってしまった人間ってやつは、こうも簡単に醜くなることができるのだろうか。
人間って例えはしたが、こっちの世界はファンタジーで? なんか俺が魔力制御を教えてもらった時にチラッと聞いたけど、人間以外の知性や感情などを持った生物がいるっぽいみたいなので? その方々も全部まとめて人間と言わせていただきますけどね。
前の世界での俺は、俺の存在に恐怖や不気味さ、その逆で畏怖に近い感情を持たれて差別されるか、差別しない奴もいたがほとんどが異常な好意を寄せてきて、誘拐や強姦未遂、暴力沙汰とかの犯罪者などに付きまとわられたり、そんな俺を逆手にとって利用しようと様々な謀略の駒として道具のように扱われる日々。
詳細については思い出したくないけど、ちょっと振り返っただけでろくな人生してないな、俺。
それなのに!
こっちの世界に来てまで、また似たような目に合わないといけないのかよ!!
目の前で上手に語ってくれちゃった男の話の内容を要約すると、元々誘拐予定のプティ君と、ちょうどいい所に帰ってきた貴重な情報を持っているかもしれない、こちらの世界にとってお宝な存在である異世界人の俺、そしてリッシュ領の牛をたんまり盗んで一石二鳥どころか三鳥で、こいつらは大儲けしますって事だろ。
ふざけんな!!!!
プティ君も! 俺も!! モノじゃねぇ!!!
牛達も! リッシュ家の皆が大事に育ててるんだぞ!!
「おにーさんの異世界の知識がどれほどのモノかは知りませんが、それでも欲しいという強欲者はいましてね。リッシュ家のご子息と共に闇オークションにかける予定ですが、なんとあなたの開始価格はそのお坊ちゃんより倍以上の値段の予定なんですよ! いやー、さすが異世界人様ですね」
そう言いながらこちらに向かって両手を擦り合わせながら、感謝の言葉をぶつぶつ言って拝み始めるリーダーの男。
……………………むっかつく!!!!
こいつ、俺がイラついてる事分かっててこんな行動してやがる! 人を逆上させていい度胸だなあ!!
顔色変えないように気を付けていたけど! 無理だ! そんなもん!
俺の顔色が変わったのをクスクスと笑い、笑い終わったと思ったら胸糞悪い笑みでこちらを見下ろしてくる超絶嫌味な男。
「いやあ、おにーさんのその顔見たら今回の重労働が少し報われました。最終的にはおにーさん達が高値で売れてくれさえせすれば、今回の苦労なんてあのクソS級様の事と一緒に吹っ飛んで忘れ去れる事でしょう! これぞめでたしめでたし!」
静かな川の流れる音と森の葉が擦れる音の中、まるでスポットライトのように月明かりに照らされたリーダーの男の愉快に歪む顔がはっきりと見え、その歪んだ口元から心底止められないという気持ちのこもった機嫌の良い高笑いが川と葉の音をかき消すように響き渡る。
苛立ちが隠せてない俺は、歯を強く食いしばる事で、怒りで高ぶる気持ちと、悪い事ばかり考える頭の中と、自分の中の魔力が怒りでぐるぐると暴れまわっているのを必死に抑えようとした。どれくらい魔力が暴れまわっているかというと、ボッコボコ身体を暴れ巡る魔力を必死に抑えないといけないくらいだ。
今ここで、怒りに任せて目の前のムカツク野郎に噛みついても、魔力制御装置の手錠を付けられ、高熱を出しているプティ君を抱きかかえている状態では、どんな返り討ちをくらうか分からない。
あー!
落ち着け―、落ち着けよー俺ー。
必死に落ち着けようと集中するが、耳に入ってくるリーダーの男の高笑いで邪魔されてすんげぇ不愉快極まりない!
感情につられて身体の中を暴れまわる魔力が、今にも身体を突き破って爆発しそうだ。
せっかく魔力制御できるようになっていたのに、こんな安い煽りで制御を失うなんて癪に障るにもほどがある!
…………落ち着きたいけど! めっちゃくちゃムカツク!!!!
思わず我慢できない怒りの感情にまかせて、歯が欠けてしまうのではないかというくらいギリィッと歯を鳴らし、プティ君を大切に抱えていた両手の一つを離して、爪が食い込み、血が流れるのではないかというくらい強い力で拳を握り込む。
――――――ミシィ……。
…………………………ん?
今、なんか手に違和感が……?
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