第64話 異世界とこちらの世界 中編【1】






 


 事の始まりは、異世界から初めての転移者や転生者がこちらの世界へと帰還したその後、幾度に渡って転移者の帰還や、転生者の発見、その他にも様々な歴史が繰り広げられた数百年もたった時。


 元来この世界に生きる者達で知力を自在に扱える者達は、種族の分け隔てや仲間割れをすることなどなく、己の存在理由を熟知して、ありのままの姿で自然の摂理に逆らう事なく、己のなすべき役割に徹していた。


 しかし、その均衡はあるきっかけで少しずつ、至極簡単に崩れてしまったのだ。








「本当に、どうしてもっと早くそんな事態にならなかったのか不思議なくらいです」








 カリファデュラ神からの事前のお告げを受けたこちらの世界の者達は、すぐさま転移者達を迎える準備を整え、今か今かと異世界からの転移者達を待った。

 転移者達を待つ時間は意外にも、こちらの世界全体に異世界から同胞が来ると周知してしまうくらいの余裕のある時間であった為、彼らの帰還を待つ時が、一分、一秒と長くなればなるほど異世界からの転移者達の存在に対する興味や関心が世界中で高まっていっていた。


 そして、神のお告げの通り、異世界から数人の転移者達が帰還した。


 帰還する前より、興味や関心の的であった転移者達のようやくの登場に、こちらの世界の者達は皆、まず帰還に対して祝いの言葉を贈り、つい先ほどまで居たはずの世界とは別の世界へと渡り、混乱する転移者達の緊張を解すように、カリファデュラ神のお告げに従い慈しみ癒しながら、転移者達に優しく話しかけ様々な話を聞き交流を交わした。


 そんな話の中でも転移者達の持つ異世界の考えや常識、アイデアは、こちらの世界には無いものだったので、たくさんの者の心をくすぐり好奇心を満たしてくれる未知の宝庫となっていき、そんな未知の宝庫を持つ転移者達に、こちらの世界の者達はどんどん心惹かれ夢中になっていった。     


 だが、その後現れた転生者という存在が再びこちらの世界で波紋を広げたのだ。






 転移者がいるのは当たり前。

 そんな世界になっていた頃、突如自分は転生者だと言う者が現れたことで世界は混乱した。


 転移者の帰還は神より事前にお告げがあったのに、転生者は神より帰還やその存在のお告げがなかったのだ。

 当初、周りの者達は転生者と名乗る者を、転移者の話を流れ聞いた者が偽りを述べているのではないかと疑うのは当然の事。

 しかし、その転生者という者が話す異世界の内容の中身は、少々流れ聞いた程度の者が話せるようなものではなく、疑うに疑いきれない部分があったので、真実を明らかにするべく、神の声を聴くことのできる者がすぐさま神に祈りを捧げ、転生者という存在の確認を試みた。

 すると、転生者と名乗り出た者の存在は偽りではないと判明したのだ。


 世界に少々の混乱を起こした初めの転生者が名乗り出た後、実は自分も転生者であると申し出る者が続けざまに現れるという度重なる混乱が、世界中で起こるのだが、そこは既に転移者という存在に慣れてきていたこちらの世界の者達。

 転生者の存在に慣れるのは早く、転移者同様に転生者達の事も周りの者達は慈しみ育みながら、理解や仲を更に深める為と称して異世界の話をこぞって聞きに行った。


 そんな転生者という存在の者達は、初めから異世界の記憶を持つ者、途中から思い出す者、思い出さないが、時折言葉や考えなど異世界の知識が垣間見えるので明らかに転生者と思われる者がいた。

 そんなバラバラな異世界の記憶の在り方をする転生者達。

 彼らの話は、転移者とはまた違ってこちらの世界と異世界、二つのの道理や倫理を持ち合わせ、こちらの世界の常識や異世界の常識とはまた違った視点から物事を言うことで、さらなる注目の的になっていった。






 こちらの世界の者達にとって興味深い、刺激的な会話のできる転移者や転生者達の話を多くの者が聞きに行き、いち早く耳にした者達の口の戸を閉める者などもいなかったため、異世界の話題は次から次へこちらの世界へと伝染して浸透していった。


 じわじわと、様々な形に変えて。


 異世界の話を直接聞いた者も間接的に聞いた者も、一度くすぐられ、心に灯った熱を簡単に収めることはできず、各々の心に灯ったそれは様々な色や形、重さなどに変化や進化をしていき、自立したそれは今にも心から溢れ出しそうなほどに育っていく。

 あまりにも心の熱に勢いがつきだした者は、その熱に駆られるようにそれぞれが様々な行動を始めだしたのだ。


 ある者は、耳にした話をもとに様々なモノを創りだしたり。

 ある者は、話の内容を自分なりに解釈し、独自の考えを生み出したり。

 ある者は、異世界の者の真似事で国を創り始めたり。

 ある者は、それまでの己の役割が本当に正しいのかと疑問に思いだしたり。

 ある者は、この世界の在り方について考え直す者が出てきたり。


 千差万別な方法によって、皆、熱を持ってしまった心を消火していったり、小さくなった熱の灯火をまた新たな別の形として熱を灯す者も出てきたりなど、何が始まりだったのか分からないうちに世界中で様々なカタチの変化が起こり始める。

 それは、良い方向に変わる事もあれば、悪い方向に変わる事も、もちろんあって。

 一度起こった変化の波紋は止めることはできず、様々な方向に広がり、反射し、大きくなっていったその波紋はとうとう転移者や転生者を巻き込んでいくほどに成長してしまった。








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