第63話 異世界とこちらの世界 前編【4】
「ここまでの話を聞けば、さすが慈愛の神、カリファデュラ神の創りたもうたこの世界です。と世の皆様は称賛の拍手と喝采が止まりません」
まるで舞台の語り部のように喋るリーダーの男だが、その荒んだ暗い影を残しつつ不気味に口角を上げて語るものだから気味悪さが増していくので注意を怠れない。
それに加えてこちらは、リーダーの男の話を聞きながら怖気づいているなどと思われたくなくて取り繕う、という二重、三重に器用なことをしなくてはならないので神経がすり減っていく。
ゴリゴリと俺の神経が削られていく音を感じながら、リーダーの男が続いて話した内容はというと、今まで話したのはあくまで転移者の話で転生者は例外だという話だった。
転生者の場合は、魂の器である肉体が無く、魂だけが傷ついた状態でカリファデュラ神に保護されているので、彼らは神の腕の中でその魂を一度、綺麗に癒しと浄化を施されリセットした後にこちらの世界の転生の輪廻へと戻されるそう。
そうして一度まるっと、転生者達はリセットされているので、異世界の知識など一切思い出すことなく、こちらの世界で生を謳歌し終える者も多いのだとか。
とても稀に、生まれる瞬間から異世界の知識を覚えたまま生まれる者や、成長していく過程で何かしらの刺激により異世界の知識を思い出す者もいたりする場合もあるという別例もあるが。
こういった事情があるため、転生者は転移者と違ってカリファデュラ神によるお告げもないので、転生者の自己申告で発覚するという。
ここまでの話を大人しく聞いていたが、まだ転移者や転生者の奪い合いがあったという核心の話ではない。
だが、ここで話したという事は何かしら意味があるのだろう。
「まあ、俺からしてみたらカリファデュラ神がこうやって様々な手を尽くしていることが気が利いているのか、お優しいのか、理解しがたいですけどね。もとはと言えば、あの神が初めにやらかしたからこういう事態になったわけであって、手を尽くすのは当然と言う感じもしますし。というよりか、どうせなら転移者も転生者も全部まるっとまとめてリセットしてしまえばいいのに。何か理由があるのかもしれませんが、どこか無駄というかなんというか、いろいろやらかしてる時点でこの神大丈夫かと疑っているので本当に理解しがたいですね」
こいつ、理解しがたいって二回言った。
話の合間に、ふとリーダーの男が溢したのは完全なる神に対する不満で。
犯罪者と同じ考えだなんて嫌だが、二回も言いたくなるそれに関しては俺も激しく同意してしまう。
こんな状況でなければ首を縦に激しく振っていただろう。
「しかし、そんな拍手喝采お涙モノのめでたしめでたしな話は初めのうちです」
薄暗い森の中でもそこだけが輝いている夜空を暗い瞳で見つめながら、リーダーの男が続いて語った内容に、俺も関係しているからなのか、それとも前の世界と似ているようで似てない、もしくは似てないようで似ている、俺が幼い頃から経験し浴びてきた複雑な感情や欲望を持ってしまった生き物の暗く重い面に、両手が塞がっている状態だが頭を掻きむしり抱えたくなった。
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