第58話 暗闇で明かされた新事実【3】
「これって……」
「水袋ですよ。中は空っぽでなんで、そこの川の水は飲めるので水を汲んで子供に飲ませてください。ついでに俺の分の水も汲んでくださいねー」
リーダーの男の言葉に、俺は片手でもプティ君が落ちてしまわないようにと抱きなおして地面に落ちてしまったそれを拾うと、拾ったものは確かに皮でできた水袋のようだ。
意識は多少あるとはいえ、ぐったりしてしまっているプティ君が自力で川の水を直接飲むのは難しいと俺も思うので、こういうのを使うのは正直ありがたい。
けど。
「…………そんなにジャブジャブ洗う必要あります?」
「これに何か仕込まれているかもしれないからな」
「いや、その後俺が使うって言ったのにわざわざ何か仕込みます?」
「そもそもお前なんかが渡してきて、お前が使ってるのか誰が使ってるのか分からない物を洗わずにプティ君にそのまま使うなんてできるわけないだろ」
「そんな人をバイ菌みたいに」
「ばっちいだろ」
「あ、今ばっちいって言いましたね? はっきりと言いましたね?」
リーダーの男がごちゃごちゃ言ってくるが知ったこっちゃない。
投げ渡された水袋を使えるように洗うため、プティ君を川の傍の木に寄り掛からせる。
正直言って、こんな暗い夜の外で固い冷たい地面に体調最悪な状態のプティ君を木に寄り掛からせるだなんてしたくは無いが致し方ない。
プティ君にはもちろん一言断って、念のためリーダーの男が言うとおり飲める水か一口飲んでみて異常がないか確かめてみたが、味や身体に変わったところは無いようなので本当に普通の水だと思う。
プティ君にお水を飲ませてあげるために、主張の激しい手錠が非常に邪魔であったが、丁寧に、しっかりと、ジャブジャブと、手を抜かずに川の水でしっかりと水袋を洗いに洗って、念には念を入れて水袋から一口水を飲んでみて異常がないか確かめ、満足したので、水袋の中に水を溜めてプティ君の元へと運んだ。
「プティ君、お水だよ。飲める?」
体調のせいでぐったりとしてしまっているプティ君を抱き上げて口元にたっぷりと水の入った水袋の飲み口を持っていき尋ねると、俺の言葉に閉じていた瞼を重そうに上げ頷いてみせたプティ君。
その返事を見た俺はプティ君の小さな口に水袋の飲み口を触れさせると、プティ君は弱々しく水袋に触れてこくりこくりと少しずつ水を飲んでいった。
そして、満足するまで水を飲み終えたプティ君はほぅっと息を吐き、顔色を水を飲む前と比べたら少しだけ良くさせる。
そのプティ君の様子に、俺の中で知らず知らずのうちに張りつめていた不安の糸が少し解れた気がする。
だが、このまま治療をせずに放置したままでは回復は見込めないかもしれない。
「なあ、この子がこんなに弱ってるんだ。せめて医者に診せるとか薬とかどうにかならないのか」
「今のこの状況でそんなのできるわけがないって分かってて言ってますよね」
あぁ、そうだよ。
分かって言ってるよ。
お前達は盗賊で俺達は盗品。
だけどな、その大事な戦利品がどうこうなってみろ。
お前達も穏やかではいられないだろ。
「まあ、でもそうですね、その子供にも買い手がついてるので何かあっては困りますからね。今この場にはいませんが、先で待っている合流予定の仲間の中には医学知識のある者がもちろんいますからそいつに診せますよ。
とは言っても、それまでの間にその子供の容体が急変したとしても、それはそれでしょうがない。
買い手がついているとはいえ、その子供が死んだとしてもその子供の死体にも価値はある。その時はその時で別の買い手に売り払えばいい」
「っ!」
「それに、今回の一番の戦利品はあなたですからね。おにーさん」
「…………俺」
このリーダーの男のプティ君を粗末に扱うような発言に、一気に頭に血が上るが、その後の発言は聞き捨てならない言葉だった。
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