第57話 暗闇で明かされた新事実【2】







 とりあえず俺は、喋らないし物音もほとんどたたない表情も見えないという怪しさ三拍子揃った、少しどころか控えめに言ってもかなり不気味なフードの男の指示に従い立ち上がる。

 フードの男は立ち上がった俺に近づくと、背中を押すことで次は外へと出るように促してきた。

 動いても動かなくても身体があちこち痛むので不用意に触れないでほしいが、そんな文句も言う暇もなく、リーダーの男を先頭に俺はプティ君を大事に抱きかかえ荷馬車の外へと出るのであった。



「…………何してるんだ?」



 自分たちが閉じ込められていた荷馬車の外へと出ると、そこはどこかの木々に囲まれた広い道の真ん中のようで。今、俺の前と後ろに立っている男達の仲間であろう他の男達が、薄暗い闇の中ランプの灯りを頼りにそれぞれの荷馬車や飛竜の檻に入れられていたであろう牛達を忙しなく移動させていた。

 その男達の行動を探ってみてみると、おそらくここまで乗っていたであろう荷馬車とはまた形の違う一回り大きな荷馬車へと乗り換えているらしい。

 飛竜はこの先使わないのだろうか、飛竜が引いていた檻の牛達も大きな荷馬車へと乗り換えてるし、飛竜も同様の大きな荷馬車へと乗せていっている。


 そんな様子を伺っていたら視界に入ってきた何かに脳の情報処理が追い付かず、綺麗に二度見した。


 移動する男達の隙間、大きな荷馬車の馬を男達が持つランプの灯りがチラチラと照らす際に見える姿をこの薄暗い中でも目を凝らして見てみると、これまで小さめの荷馬車を引いていたであろう普通の馬よりも格段に大きくてどっしりとした体躯を持っている生き物の姿が見える。

 ただそれだけだったら、異世界だから体躯の大きめな馬がいるんだな。

 で納得できるが、その言葉では納得ができないものがその馬にはあった。

 馬にはなんと、かなり目立つ大小二本の角が額から生えていたのだ。


 え、なんだろう、あの生き物。

 一瞬、ファンタジーあるあるで有名なユニコーンかと思ったけどユニコーンは一角獣って書くぐらいだから一本角だろ?

 それにユニコーンのイメージは白いイメージだけど、目の前に居るユニコーンもどき達は黒だったり茶色だったり、白い馬は一匹もいなかった。



「何してるって、荷馬車を乗り換えてるんですよ。今までの荷馬車の馬や飛竜達は酷使しすぎましたから、これ以上の長距離逃げ切るには無理ですからね、今度は更に馬力もあって耐久力も魔力もあるバイコーンの荷馬車で移動させてもらいます」



『この乗り換えが済めば、今回の作戦の成功はほぼ確定ですねー』と、リーダーの男は俺をチラリと見ながらそう言った。


 バイコーンってなんか聞いたことがあるような、無いような。

 そもそも俺が馬かどうか疑っていた動物は馬で合ってたんだな。


 ぼんやりとそんな事を思い浮かんでしまっていた俺の背中を、なんと後ろにいるフードの男がグーで小突いてきた。

 ガツンと。

 ガツンとだぞ?


 それはもう小突くという可愛い言い方でいいのかと疑問に思うレベルだが、先程は軽く押す程度の力で触れてきたくらいだったのに、打って変わって触れてくる強さレベルが上がった衝撃で傷だらけの身体にはめちゃくちゃ響いた。

 フードの男はどうやら進めと言いたかったらしく絶対わざとグーで小突いたに違いない。

 痛みが響いている名残に身体が痺れるが、フードの男に促されたので進もうと前にいるリーダーの男に視線を向けると、先程まで俺の目の前に居たはずリーダーの男が今は数メートル先に居るではないか。

 しかも、俺がついて来ていないのに目もくれずにずんずんと進んでいっている。


 そりゃあ、小突かれるわ。

 小突いた犯人であるフードの男に文句なんて言えないなと、俺は慌ててリーダーの男の後ろについて行く。


 淡い月明かりとリーダーの男の持っているランプの灯りを頼りに、俺達は木々の合間を縫って進んでいると、進行方向の先にサラサラと流れる川が現れた。



「はい、これどうぞ」

「わっ、ちょ!」



 突然掛け声と共に、前を歩いていたリーダーの男が俺の方に振り返り、何かをひょいっと投げてきた。

 もちろん、プティ君を大事にしっかりと両腕で抱きかかえていた俺にはキャッチできるわけがなく。

 投げられた何かは弧を描いて、プティ君に当たらないように咄嗟に背を向けた俺に軽く当たるとポトリと地面へ落ちてしまった。







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