第52話 逸る気持ち 前編【1】






 ――――――――ひっ……ィ…………。




 ぁ?…………俺、どうした?




 ――――リ……ぃちゃ……。




 そうだ、俺、あのリーダーの男にボコられたんだっけ。

 でも、その後どうなった……?


 さっきから、ちょっとだけ聞こえるこの声は?




 ひぅっ、リンにぃちゃ……!






「ぁ…………、プティ、君?」


「っひ、うぅわぁあ! リィンにぃちゃあああ!」



 俺はどのくらい気を失ってしまっていたのだろう。

 寝そべっている体勢から、身体に力を入れて起き上がろうとするも、ズキズキと激しく痛む身体に起きる気を削がれてしまう。



「っは、プティ君……! 怪我は? 怪我はない?」



 つい先程は痛む身体に起きる気を削がれたと思ったが、そんなことよりも今も泣き叫び続けているプティ君の様子が気になった俺は、痛みに身体をふらつかせながらも這い上がり、薄暗い視界の中に入ってきたプティ君の身体を抱き寄せて怪我がないか確かめた。



「ぅっく、ひぅ、うぇっく、っふ」

「大丈夫?痛い所はない?」



 俺の言葉にプティ君はフルフルと首を横に振って、痛い場所はないと教えてくれる。



「はぁ、良かった。痛い所はないんだね」

「っひぅ、でも、リンにいちゃ、痛い痛い! プティ、リンにいちゃ、痛い痛い、治そうとしたけど、ぅっく! 痛い痛いきぇなぃ! 何回やっても消えない! ぅぁああああん!」



 そう言って再び泣き叫び始めたプティ君の両手には、薄暗い視界の中で更に暗い色をした見るからに重さのある手錠のような物。

 今更気づいたが、俺の両手にも同じものが付けられている。

 

 俺はこの物が何かすぐに理解した。

 何故ならつい最近まで魔力操作を学び始めた頃からずっとつけていた物と同じ感覚がしたからだ。


 そういえば、俺は襲われた時に付けられたんだった…………。

 

 これは間違いなく、魔力制御装置。

 俺がつけていた物とはどこか違いがあるような気がするが、この独特な窮屈さを感じるのは制御装置だ。


 そんな魔力制御装置をプティ君も両手に付けられている。

 この制御装置のせいで治癒ができない中でも、きっと懸命に何度も何度も俺を治そうと試みてくれたのだろう。

 本当に優しくて良い子だ。

 恐怖などいろいろ気持ちが耐えられない事があっただろうに、俺の事を気遣ってくれていたなんて。



「ありがとうプティ君。俺、大丈夫だよ。」

「ふぇ、っく、ひっく、ほんとう?」

「本当。プティ君のおかげで痛いのなんてどっかいっちゃった!」



 本当ならば痛みなんて引いたわけではないのだが、こんなにも優しい子の気持ちを精一杯向けられたのだ。

 その気持ちのおかげで、痛覚なんて無かったかのように痛みが引いた気がしたのは本当。


 俺はプティ君を抱きしめながら、周りを見渡してある程度の自分の現状を把握した。

 ぱっと見ただけだと小さな小屋にも思えるが、ガタゴトと揺れているこの場は、おそらく荷馬車なのだろう。

 荷馬車の側面上部にある、ほんの小さな鉄格子から月明かりが差し込んでいるおかげで薄暗いながらもこの場がどういう場なのかが把握できた。

 さすがに時間までは分からないが、日が沈み夜はとっくに迎えているのだろう。

 そんな月明かり差し込む荷馬車に居る俺達の手錠から連なる鎖は、狭い荷馬車の隅に繋がれていて、荷馬車からは出られそうにない。

 プティ君も同様だ。


 プティ君と俺は、考えただけで気に食わないが、あの後あいつらに連れ去られてしまったのだろう。


 俺が状況把握をしている最中、抱きしめながらあやしていたプティ君がだんだんと泣き止み始めたので、落ち着いたのかと思い再び様子を見ると、プティ君は顔を真っ赤にしてぐったりとしてしまっていた。

 俺は慌ててプティ君の顔に手を添えると、どうやら熱があるようだった。

 どれくらいプティ君が泣いていたのかは、俺自身気を失ってしまっていたので分からないが、プティ君が熱を出してしまったのはそれだけが理由ではなく、きっとこの経験した事のない恐怖や混乱が折り重なってしまったのも相まって熱を出してしまったのだ。

 俺が慌てる間にも、プティ君の息は徐々に荒くなっていき、体温も上がっていっている気がする。


 子供が熱出してしまう状況なんて、俺が前の世界から今まで経験してこなかった事が悔やまれるが。これは、すぐに何か対処しないといけないという事は俺でも分かる。





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