第51話 再び現れた陰【3】









 シャルル君とサロモン君は男の言葉に怯え、恐怖に我慢が出来なくなったプティ君は泣き叫び出した。

 市場で会った男に指示を出されて、手錠を持った子供達を囲んでいた男の一人が、無容赦にプティ君の腕を掴み上げる。



「まずは、目当ての末のチビだな」

「っふぇえええ! にいちゃぁあああああ!!!」

「「プティ!」」


「くそ! 子供に手出してんじゃねえぞ!」



 俺に背を向けてプティ君の腕を掴み上げている男にむかって、俺は倒れていた体勢から己の腕を軸にして思いっきり足を振り上げた。


 だが、その足は狙っていた男に当たる事はなく、まだ近くにいた市場で会った男に掴まれてしまう。



「っち!!」

「うーん、いい蹴りしてるね。おにーさん、さっきの動きもそうだけど少しは護衛術か何かを習っていた感じだねぇ」



 本当に、この男はいつからどこで見ていたのか。

 俺の魔力操作の事も、ついさっきまでの出来事もどうやって見ていたのかこの男は知っている。

 おそらく、さっきまでのリーダーらしいと思っていた男はそうではなく。

 こいつが本当のリーダーなのだとはっきりと分かる。

 何故かというと、周りにも指示を出していたこの男、先程までリーダーと思っていた男とは違い、俺の蹴りに瞬時に反応し対応して防ぐその動きや視線、言葉の端々などから全く隙を感じないのだ。


 そして、そんな男に掴まれた足を無造作に投げ捨てられたが、俺はその反動を利用して転がり起きた。



「やっぱり良い動きするねぇ」






 ボコッ!

 ――グシャ!



「…………ん?」

「プ、プティをかえせ!」

「リンタロウに、二人に手を出すな……!」



 シャルル君とサロモン君が、魔力を使いプティ君を掴み上げている男とリーダーの男にむかって土の塊をぶつけたのだ。


 凍り付いてしまうその場の空気。






「っぎ!!」

「ぐぅっ!!」


「子供だからって、容赦しないよ?


 ――――――大人しくしてないと、このまま潰しちゃうかも?」



 男の力で蹴り上げられ地面に叩き付けられるシャルル君とサロモン君。

 リーダーの男はその勢い止まないうちに大人の大きなその手で二人の頭を掴むと、二人が倒れこんでいる地面に、更に押し付け不気味に囁いた。


 俺はそんな光景を目にして、正気でいられるほど大人ではなかった。



「くそ野郎がぁあああ!!」



 ――――――パァン!



 子供達に駆け寄ろうと足を踏み出したその瞬間。

 熱を持つ左脚。


 そう、俺は撃たれたのだ。

 目の前に居るリーダーの男に。

 男が所持している銃からは僅かに硝煙が昇っている。


 撃たれた痛みで力が入らなくなった脚のせいで崩れ落ちる俺の身体。

 咄嗟に力の入る上半身で身体を支えたため完全に地面に倒れこむことなく、どうにか上半身を起こす形で撃たれた左脚を見る。

 どうやら、脚を掠めるように撃たれたようで傷は浅いようだが、慣れない痛さに傷口が脈打っている。



「売り物になるのに傷を付けたくなかったけど、思ったよりおにーさん厄介だから大人しくしてもらうね」



 俺が、撃たれた脚に気が向いている間に近づいていたリーダーの男。

 男はそう言葉を放つと俺の頭に己の足を振り下ろした。


 逃げる暇なんてなかった。


 何度も、何度も。

 頭だけでなく、腕も、胴体も、銃弾を受けた脚までも。


 振り上げられる足の数が増えるたびに、消えていく俺の意識。


 あぁ、ダメだって。

 このまま気を失ったらどうなる?

 声が聞こえなくなってしまったシャルル君とサロモン君は?

 それとは反対に響くプティ君の泣き叫ぶ声。

 それに、パルフェット様、セリューさん、ベルトラン君…………。



 駄目だと分かっていても、俺は暗い意識の底へと落ちていった。








 *********








「ふぅ、可愛い顔しながらおにーさん意外としぶとかったなぁ。やっと落ちたよ」


「おい! あんた!」


「んー? 今度はなーにー?」

「この家の領主夫人が銃を使うとは計画の話で聞いてたが、こんな遠距離を撃てるなんて聞いてねーぞ! おかげで俺の右腕は使えねえし部下は何人もヤラれちまった!」

「あぁ、君は第一陣を任せた人かぁ」



 リーダーの男に向かって来るボロボロの一人の男。

 それは先程、黒い靄を発生する前まではリーダーと思われていた男であった。



「どうしてくれるんだ!! こんだけ被害がでりゃあ俺の方が大損じゃねえか! あんたが良い稼ぎになるっていうから手を貸してやったってぇのに、責任取ってくれるんだろうなぁ!!」

「あーはいはい。分かってますよー。ちゃんとそこのところは考えていますって」

「ぇ…………、っはは、なんだ。話が分かるじゃねぇか」



 頭に血が上っている勢いのまま怒鳴り散らした男は、自分が怒鳴り散らしたところで目の前に詰め寄っている男がすんなりと責任取るだなんて言わずにごねるのではと思っていたので、リーダーの男が逆にさらっと理解を示したことに拍子抜けしてしまう。



「そうですよー、分かってますよー。


 全て、計画の内ですから」


「っへ?」



 ――――――パァン!

 ドサッ…………。








「さて、さくっと撤退しますよー」











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