第50話 再び現れた陰【2】
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「っうぐぁ!!!」
リーダーらしき男が手にしていた拳銃が撃ち抜かれる。
俺が考えていた予想は当たっていたのだ。
パルフェット様がリーダーらしき男を撃ち抜いてくれた。
「皆! 今のうちに逃げよう!」
俺はまだ何が何だか分かっていない様子の子供達を立たせると、第一の安全の為に逃げさせた。
子供達は俺の言うとおりに屋敷の方向へと走り始め、俺もその後ろに続いて背後から子供達を守れるように走る。
「くそがぁ! このまま、逃がすわけがねえだろ!!」
そのまま無事に逃げ切るために走っていると、後方より苦悶しながら吐き出される声が聞こえたので俺は走りつつもその声の方向へ振り返る。
すると、パルフェット様に撃たれ、苦悶していたリーダーらしき男が拳銃を持っていた手とは逆の、ローブの中にいれていた手を振りかざし、何かを地面に叩き付けていた。
パリィン!
地面に叩き付けられた何かから、ぶわりと黒っぽい靄のようなものが広がり、まだ近くを走っていた俺達の所までそれは瞬時に届いてしまう。
「しまっ、ぐっ!!!」
俺はすぐさまにまずいと思い何か行動に移そうと瞬時に動くも、黒っぽい靄の勢いには勝てずに子供達と一緒に靄の中へと入ってしまう。
そしてその瞬間、靄が晴れていない視界の悪い中でも分かった。人間らしき誰かが、俺の背に乗って思いっきり地面に押さえつけてきたのだ。
どうにかして身を動かして逃げようと試みるも、かなりの力で押さえつけられており無理だった。
そんな状態でも、次に何かできることはないかと考えたその瞬間に靄が一気に晴れていく。
靄が晴れた瞬間、目に差し込んでくる夕暮れ時の日差し。
その眩しさに俺は少しだけ目が眩むが、光に馴染み視界がクリアになった光景は、黒っぽい靄が晴れたはずなのに絶望の黒で染まっていた。
目の前に広がっていたのは、凄まじい数の先程まで居なかった顔ぶれの男達。
子供達は囲まれて、俺達に近づいて来ていたセリューさんの方にもおそらく黒っぽい靄から現れたであろう男達が襲い掛かっている。
どうやら今現れた男達は先程まで居た男達とは違い、戦闘や魔法の手練ればかりなのだろう。
先程まで居た男達に対しては余裕をみせて戦っていたセリューさんが、人数におされているのもあるだろうが、非常に戦いづらそうである。
そして何より気になる事が、パルフェット様の援護射撃が無くなったのだ。
逃げ走っていた牛達もまた次々と荷車や檻に詰め込まれていき、どんどん状況が悪化していく。
「いやぁ、思っているより早い出番になってしまいましたねぇ」
どこかで聞いた声。
その声は俺の背後、俺を押さえつけている人物から聞こえる。
「先日ぶりですねぇ、おにーさん」
俺を押さえつけていたのは、先日の市場で声をかけてきた。
――――――あの幻覚と思いたかった、人を値踏みする汚い瞳をした男であった。
「あんた……あの時の」
「また会いましたねぇ。ささ、おにーさん。これを付けましょうねえ」
あの時、市場で会った男はそう言うと、先程別の男達が持っていた同じ手錠を俺の手首に取り付けた。
この男に話しかけられていると言うだけで鳥肌が立つのに、触れられている事実に吐き気がしてくる。
だが、男から手錠を付けられた瞬間、吐き気とはまた違う別の凄い違和感に襲われる。
その違和感はつい先日まで俺がずっと感じていた違和感だ。
「これって、もしかして制御装置!」
「せーいかーい」
男は俺に手錠を付けると、簡単に俺を押さえつけることを止めて離れていく。
「おにーさんはまだこの世界に来たばっかりだけど、もう魔力操作は制御装置つけなくてもある程度できるんでしょう? 魔法も何か習っていたみたいだし。念のため制御装置は付けておかないとねー。もちろん。子供にも」
俺はこのリッシュ家の敷地から出て魔力を出した事は一切ない。
だから俺の魔力操作が制御装置外せるようになったとか、つい最近の治癒魔法を習っていた出来事までリッシュ家の人達以外は知らないはずなのに、どうしてこの男は知っている?
俺がそう考えを巡らせている間にも、市場で出会った男は他の男達に指示して子供達に手錠を付けさせるつもりだ。
「く、くるな!」
「お前らなんて、お前らなんて! 母上が!」
「その母上様はー? おっかしいねぇ? さっきまでバンバン撃ちまくってたのが無くなっちゃったねぇ? あっれぇ? ……どうしてだろぉうねぇ」
「「ひっ!」」
「ひぅ、ぅうわぁああああん!」
嫌な笑顔で子供達に迫る市場で会った男の放つ言葉の感じだと、パルフェット様が発砲しなくなった理由は絶対にこいつが何かしたせいだと分かる。
分かってはいるが、その事も、セリューさんの事も、笛を鳴らしたベルトラン君の事も、もちろん気になるが、今は子供達だ!
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