第43話 鳴り響く笛【1】









「はいはーい! 今日もゼン君に代わって私がお勉強会の先生ですよー。皆、昨日勉強したことは覚えているかなあ?」

「「「「「はーい!」」」」」



 そう、楽しく市場で一日過ごした次の日からゼンは、以前ベルトラン君から聞いた半年前から問題になっていた窃盗事件に付きっきりになっているのだ。

 俺達の旅の出発予定であった二週間はその事件のせいで多少過ぎてしまったが、事件が無事に解決し次第、旅に出ることになっている。

 ちょうど先日市場が終わったそうで、市場に割いていた警備の人員をまた元に戻せることになったらしいのと、どうやら窃盗事件を犯していた窃盗団の尻尾を掴んだらしく、とうとうそいつらを捕縛する計画になり事件も佳境になっているのでとても忙しそうなのだ。

 それに加えてドゥース様も窃盗事件に参加されていて、二人はここ最近朝早くから夜遅くまで働き通しなので少し心配。


 今朝も…………。











「――――――ゼン、もう行くのか?」

「リンタロウ? こんな朝早くにどうした?」



 子供達もまだ起きていない早朝というよりも、まだ夜の時間帯だがゼンとドゥース様は支度を済ませて玄関から外に出るところだった。



「……うん、最近顔見れてなかったから見送りをって」

「そうか、ありがとう。一緒に竜舎までくるか?」

「うん」



 俺はドゥース様とゼン、そして俺と同じで主人を見送るために居たセリューさんと一緒に竜舎まで向かった。



「リンタロウ、朝早かったのによく起きれたな」

「それはお前もだろ。俺だって早起きできる」



 別に俺は寝坊助というわけではないが、未だに朝は双子お兄ちゃんズに起こされている。

 俺だってだらしないと思われたくなくて、何度か双子お兄ちゃんズより早く起きようと時間を調節して目覚ましをセットして寝ているのにもかかわらず、あいつらどうしてか目覚ましが鳴る一分前に起こしに来るんだよ。

 俺はあいつらを寝かしつけてから、自分の部屋に戻って目覚まし時計を設置しているので何時に俺が起きるかあいつらは知らないはずなのにおかしいだろ?

 そんなあいつらが俺を大声で起こした後に鳴り響く目覚まし。

 まじでカオスだぞ。


 今日はセットしていた目覚ましより自然と早くに目が覚めてしまったのだ。

 そのおかげかさすがに双子お兄ちゃんズは寝ていたので、自然に起きれた俺は最近まともに顔を見ることができていなかったドゥース様とゼンを見送ろうと思ったのだ。


 竜舎に着いて、ドゥース様とゼン、セリューさんは飛竜に鞍を付けて出発準備をしている。

 もちろん、俺も鞍付けを手伝っている。

 飛竜達はセリューさんが事前に食事などを済ませてくれているらしいので、鞍を付けるくらいで準備が簡単に済むそうだ。



「おはよう、カリスタ。今日も綺麗だね」



 俺はゼンの相棒の飛竜カリスタに挨拶をし、優しくその顔を撫でた。



 最初カリスタと出会ったのはあの《発覚!飛竜がトカゲ事件》の時だ。

 実は本来カリスタはゼン以外の人間には懐かず触れられるのを嫌うのだが、初めて会った時にさり気なく背に触れた俺は嫌がられるどころか、もっと撫でろと強請られた。

 もう、その時の周りの反応と言ったら目ん玉零れ落ちるんじゃないかっていうほど目を見開いて驚いており、その事を聞いた俺も驚いた。

 世話になっているリッシュ家の人達でさえ、カリスタに触れようとすると噛まれるそうだ。

 ちなみに真っ先に噛まれたのは双子お兄ちゃんズと思われそうだが、そうではなくドゥース様が一番最初に噛みつかれたらしい。

 それもそれで驚きだよな。



 朝なのに、きちんと目が覚めているらしいカリスタは俺にもっと撫でろとすり寄ってくる。

 もちろん俺はそれにしっかりと応えてやる。

 なんてったってこれからお仕事頑張るんだぞ? しっかりと労ってやらんとな。

 俺はカリスタの黒曜石のように艶々とした美しい鱗に覆われた頭をわしゃわしゃと撫でて最大に甘やかす。



「カリスタはすっかりリンタロウに懐いたな」

「いいだろ? そのうちゼンを上回る、フラれても知らんからな」

「はは、それは困るなあ」



 そうやって俺のつまらない言葉にもゼンは笑ってくれる。

 俺は近くに垂れていた手綱を掴んで、カリスタに『今日もよろしく頼む』と言いながら優しくその頭を撫でてやっているゼンに渡した。



「ありがとう、リンタロウ」

「…………気を付けて行けよ」

「もちろん。今日には方が付く。帰ってきたら労わってくれるか?」

「……そりゃあ、もちろん。


 ………………頑張って仕事して帰ってくるカリスタをな!」



『そこは俺だろう?』と言いながら笑っているゼンの言葉は聞かなかったことにした俺は、もう竜舎から出て飛竜に乗る直前のドゥース様にも挨拶をする。



「ドゥース様、お気をつけて」

「あぁ、リンタロウ殿、見送り感謝する」



 ドゥース様は挨拶をした俺に続いて竜舎から出てきたゼンを見ると飛竜に乗り、本格的に出発する体制に入った。

 それに倣ってゼンもカリスタに乗り出発準備を完了させた。



「二人とも! 本当にお気をつけて!」

「リンタロウ殿、家族に今日は早く帰ると伝えてくだされ」

「リンタロウ! 二度寝をするんじゃないぞ!」



 そう言って、二人はまだ星が輝く月夜の夜空へと飛び立っていった。







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