第41話 見えてなかった陰【2】
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とまあ、そんな事があったので俺がこの市場で買う品は小物やその他消耗品などがメインだ。
今思っても高額であろ品を作成中って事が頭にチラつくが、気にしすぎたら俺の胃がいかれそうなのでほどほどにしないとな。
「確かに持ってみると持ちやすいかも」
「じゃあ、これにしよう。俺はこのナイフを買ってくるから俺の目の届く範囲にいるんだぞ」
「その俺を心配しているのか子供扱いして揶揄ってるのか、分からない絡みやめろ」
「はいはい、噛みつかない、噛みつかない。でも他を見てもいいが本当に俺の目の届く範囲で頼む」
「わかった」
今見ていた出店がかなり大きく広くて、テントを四つ繋げている出店であったので購入する為に店員に話しかけるのもちょっと一苦労なのだ。
品物を買いに行くゼンの後姿を眺めるのを止めて俺は周りを見渡した。
この市場を見ているとやはり目に入るもの全てが物珍しいと思ってたら、たまにふと目に入る品が前の世界で見たことある品があったりして思わずおっ、と視線を止めることが間々あった。
例えばだ、前の世界で共通の皿とか人形とかそういう品は見慣れてはいるがやはりこっちの世界のテイストに変わっていてデフォルメされた牛さん人形があった。
もちろんこっちの世界の牛だ。あれはなかなかに触り心地が良かったので聞いたら本物の牛の毛を使っているとの事。値段を聞いてそっと元に戻したが。
その他にも驚いたのはなんと、前の世界での某ご当地玩具が置いてあったのだ。
赤くなくて白かったが、病魔を払う縁起ものだという。俺はまんまあの玩具じゃん!と心の中で突っ込んだがその玩具の名前は全然違うものだったので黙っておいた。
「おにーさん、おにーさん」
「…………ん? え、俺?」
「そーそー」
俺は他に面白い品がないかと近場を見渡していると、突然向かい側に居た出店の好かれそうな良い笑顔をしているお兄さんに声を掛けられた。
おいでおいでとそのお兄さんに手招きされるので、俺はそのままスルスルと引き寄せられて行ったのだが。
「おぉ、これは」
そのお兄さんの出店には、前の世界でいう中華風の品々がいろいろと広げられていた。
今までどちらかというと洋風の品ばかり見ていたのでちょっと新鮮。
良い笑顔のお兄さん曰く、お兄さんは行商人らしくこの領地の前にこの世界の三大国のバイリュン国で商売をしていて、今回はそこで仕入れた商品を販売しているそうだ。
バイリュンという国は中華風な国なのだろうか、ちょっと興味が湧く。
「そういえば聞いたよ、異世界から来たんだって? 良かったら店の品見ていってくださいな。ご帰還のお祝いにプレゼントしますよ」
「ぁ、いや、そうですね異世界から来たのは確かですけど、今いっぱい贈り物貰っちゃってて……お気持ちだけ頂きます」
「おや、そうかい? そうかぁ…………それは
………………残念だ」
残念だ。そう言った時に薄められていたお兄さんの目が開いて元の形に戻った時に、背筋に走った気持ち悪さに思わず鳥肌が立った。
「………………」
「ん? どうしたの、おにーさん。具合が悪い? さっき一緒に居たおにいーさん呼んでこようか?」
「いえ、結構です」
「――リンタロウ、どこに居る?」
気持ち悪い鳥肌に思わず腕をさする俺の耳に、ゼンがタイミング良く呼ぶ声が入ってくる。
「すみません、呼ばれているので行きますね」
「そっか、また気が向いたら寄ってー」
「…………はい。では」
「…………ゼン」
「あぁ、リンタロウ、そこに…………。
どうした?顔色が悪い」
「何でもない。ちょっと変なこと思い出しただけ」
こっちに来てあまり見せたことないくらい顔色が悪かったのだろう。
ゼンは心配して俺の頬を優しく撫でてくる。
いつもなら触るなと払うところだが、今はそれができないほど俺はショックを受けていた。
何故なら、あのお兄さんの一瞬だけ開かれた目は……。
前の世界で常に向けられていた。
人を値踏みする、汚い瞳だった…………。
こちらの世界では一度も感じなかった不快感。
みんな優しくて温かくて、勝手にそんな人いないと思ってた。
けど、久しぶりに感じた不快感は油断していた身にはとても何とも言えないおぞましさがあった。
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