第40話 見えてなかった陰【1】







「ぅーん……これは?」

「それだと少し大きいから扱い慣れるまで時間がかかると思うな……こっちの方が小さいが、切れ味も悪くないみたいだしリンタロウの手の大きさにも合うだろう」



 ふーん。と俺はゼンからオススメされたナイフを手に取ってみる。

 いろいろ買い揃えないといけないのは主に俺で、ゼンは冒険者だから旅装束などは元々揃っているのでポーションなどのアイテムを二人分買い加えるくらいでいい。


 それにしても初ポーションを見れて、でたよ、ファンタジー。とちょっとだけ感動した。

 だって、ポーションの効果を店の人の好意でお試しさせてくれたのだけど。

 店の人が自分で手の甲を軽く切って傷をつくり、それをポーションを一滴垂らしただけで綺麗に治ったのを目の前にしてみろ?

 魔法のマの字も知らなかった俺からしたらそりゃあ感動モノだ。

 でもパルフェット様の治癒魔法を目にしてるから感動が半減したのでは?と思うだろう。

 そんなもん、それとこれとじゃ話は別なんだよ。


 この市場には農業関係がメインではあるものの、冒険者向けの品も結構出店している店も多かったのでゼンが言うには買い揃えるのには問題がないそうだ。


 もう今の時点でいくつか買っているが、俺は何をどこまで買い揃えないといけないか全く分からないのでゼンにお任せしっぱなしだ。


 とは言えども!

 ゼンはああ言ってたけど、本当に良かったのかなあ。






 *********






「兄ちゃん! 旅に出るならこれは必需品だ! どうだい? この世界に帰ってきた記念に安くするぜ!」

「ん? バッグ? ……えぇ、旅用にしては小さくない?」



 今より少し前の時間、別の出店で品物を物色していたら商売根性逞しい店のお兄ちゃんと言うよりかおじちゃんが俺に一つの鞄を差し出してきた。

 シンプルで使いやすそうな鞄だが、旅用にしては小さいし、色も乳白色というかクリーム色、もしくはアイボリーと言われる色で旅をしているとすぐ汚れると思うし落としきれなかった汚れが目立ちそうだ。



「何言ってんだ、兄ちゃん! これは魔法の鞄マジックバッグだぜ! 見た目に騙されちゃあいけねえ。小さく見えても中の収納力は見た目の数倍! たくさん入るのに重さもほとんど感じないっていう優れものだ! 異世界人ってのは本当に何も知らないんだなあ」

「お、おぉー……これが、マジックバッグ!」

「お? どうやらちょっとは知ってるみてえだな。どうだ? 旅には必需品だろう!」



 おじちゃんが言うにはマジックバッグはやはり特殊な品物らしく、手に入れるのには苦労する事もあるみたいで、今回おじちゃんの店にあるのも二点のみ。

 しかも、その中でも一番の収納能力で別性能も付いている良品を安値で売ってくれると言う。

 まだ数店しか出店を見れていないが、他の店ではマジックバッグなんて無かったし、おじちゃんも今回の市場で出品しているのはここくらいだと言う。


 こ、これは買うべきなのでは?



「……ちなみに、おいくらで??」



 この世界でのお金の感覚は、ゼンがかけてくれた感覚共有の魔法により数字の数え方や金銭感覚は一緒で、こちらの世界のお金の名前はゲールだという。


 一番大きいお金が一万ゲール札、その次が千ゲール札、百ゲール金貨、十ゲール銀貨、一ゲール銅貨とお金の種類が分かれている。

 ちょっとしたプラス知識だが、教えてもらった通貨より大きな金額を取り扱う場合は、貴金属や宝石など一つ一つが価値が高いもので取引をしたり、貯金をしたりするらしい。



「そうだな! 今回は……四十万ゲールでどうだ!」

「げっ! よ、四十万!!!」



 さすがに高い!!!

 でも貴重なマジックバッグというし、安い方なのかな……?

 かと言って、支払いは全てゼンが払ってくれているので、自分で支払うわけではない俺としては買うとは言い出せない金額だ。



「元値の半分以下にはしているが……高いか?」

「えっ!? そんなに値下げしてくれてたの? むしろ大丈夫?」

「無事こっちに帰ってきた祝いでもあるからな! 本当は無料と言いたいところだが、さすがにマジックバッグは無料ってわけにはいかなくてな」



「すまんな!」とおじちゃんは言うが、そもそもそんなに高額な品を無料にしようという話はそりゃあ無理な話だ。

 半分以下にしたと言って四十万ゲールだろ? ということは元値は約八十万ゲール以上。

 だって前の世界でいうハイブランドのボストンバッグ並みかそれ以上だぞ。

 考えただけで震えがくる。


 ただ、おっちゃんの好意も嬉しい。

 これは、どうしよう…………。

 かと言ってゼンに相談するにしても勇気がいる。


 俺はマジックバッグを見つめながらうんうんと唸った。



「――――確かに、妥当な値段を更に半額以下にしてくれているのはとても嬉しいが……」

「っ! ゼン! ……あの、これ」



 いつの間にか俺の後ろにはゼンが居た。

 ゼンは言い淀んでいる俺の肩を気にするなという風に軽く叩く。



「ご主人、すまないが、既にマジックバッグは別で作ってもらっているところなんだ」

「なんだ、特注品か? それならこれ以上に性能がいいはずだ! 良かったな! 兄ちゃん」

「ぇ……えぇ!? そうなの!?」



 なんと既にゼンによってマジックバッグだけでなく、その他にも旅装束なども手配済みで作成中であるという。

 その辺の品を買うより、マジックバッグや旅装束などは特注したほうが長持ちして性能が良いし、なにより一生ものになるので厳選した素材で用意しているだとか。


 でも、厳選した素材で特注してるということはこのマジックバッグより値がかなり高くなるのでは!?



「ま、待てよ! ゼン、俺そんな高価な品受け取れない!!」

「うん、リンタロウはそう言うと思ってたから勝手に注文した」



 ケロっとこいつ全て解ってますって顔でしれっと言いやがった!

 めっちゃいい笑顔しやがって!


 この野郎! ありがとよ!!!!








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