第34話 免許皆伝?そして楽しいイベントへ【2】







「うかつに移動してイケメンに見つかってもなあ」

「そうだな。賢い判断だ」

「だろ? やっぱり相手の動向を把握するっていう、のは…………」



 え?

 今俺誰と喋ってた……?



「って! やば!!」

「はい、リンタロウ捕まえた」



 気づいた時には遅すぎて、俺はイケメンに後ろから抱きしめられる形で捕まえられてしまった。



「あぁー! くっそ! どうしてここが分かったんだよ! 捕まらないように計算したのに!!」



 あと抱き着くな!

 俺はイケメンから離れようとジタバタしてみるが、さすがは上級冒険者。

 ピクとも動かない。

 こんなところで上級冒険者の力を発揮しなくていいと思う。



「はぁ、もう。この腕ピクともしねえ」

「はは、リンタロウは冒険者じゃない素人のはずなのになかなか良い線いってる。

 隠れるのも上手いが、魔力の使い方もかなり良くなった。筋が良いよ」

「こうやって追い詰められて、捕まっている時点で誉め言葉に聞こえない」

「十分褒めてるよ」

「っちょ! すり寄るな!」



 このイケメンは隙を見てはこうやって首筋にすり寄ってきたりなどスキンシップが多い!

 俺はイケメンの顔を思いっきり手で押しのけて少しでも距離をとる。

 抱きしめられたままではあるが、顔の距離をとるだけで気持ちはだいぶ違う。



「それよりイケメン、どうやってここが分かったんだよ」

「うーん? 名前を呼んでくれたら教えるよ」

「はぁ!? なんでだよ!」

「なんででも。リンタロウはいつまでたってもそのイケメンって呼ぶか、ドゥース様やパルフェット様の前ではゼンさんなんて他人行儀だからな。」



『さあ、ゼンって呼んでくれ』と言いながらイケメンの顔を押しのけていた手にしれっと唇で触れてくるではないか!

 ギャッとなった俺は反射で手を引っ込めたが、顔が自由になったイケメンはその顔を首筋だけでなく頭から俺の頬にまですり寄ってくる。

 鬱陶しい!!!



「――っ! ゼン! やめろ! 鬱陶しい!!」

「フッ、はいはい、よくできました。今度からそう呼ぶんだぞ」



 イケメン…………ゼンはそう言うとすんなりと俺から離れていく。

 こいつはこうやって俺を揶揄うくせに俺が怒る手前で大人しくする。

 こう上手い事俺との距離感を保ってくるから怒るに怒れないし、調子が狂う。



「――――ったく! はぁ…………俺、不合格? 制御装置付けたまま?」

「いや、合格。もう三十分経ってる」

「まじで!?」



 ぃよっしゃあ!制御装置卒業!!!!

 でも、ちょっと待てよ?



「ていうか、どうやって俺を見つけたんだよ?」

「ん? あぁ、リンタロウの香りを辿って見つけた」

「…………え、変態なの?」

「……ちょっとその言い方は心外だな。俺は人より鼻が利くんだ」

「えぇ? だって、俺魔力収めてるから匂いしないはずだろ?」



 俺の魔力を収める魔力操作はかなり上手くなったらしく、双子お兄ちゃんズやプティ君など皆から制御装置を付けていなくても魔力操作で魔力を収めている時は匂いがしなくなったと言われるようになったのだが。

 そんな俺の匂いを嗅いで辿り着いたってどんな嗅覚だよ。

 変態かな? って思うだろ?






「「あ! リーンみっけ!!」」

「リンにいちゃー、みっけ!」

「あー、でもちょっと前に三十分経ってるから俺達の負けだよ」

「「「えぇー!」」」



 ゼンのちょっぴり変態発言のやりとりを遮る形で俺は子供達に見つかった。


 だがしかーし! 俺はもう三十分逃げ切っている!

 ふふん! 俺、勝った!

 ちょっと大人げないかと思ったが、制御装置からの解放の喜びの方が勝ってしまった。


 まあ、制御装置あった方が魔力が漏れ出る心配はないからそっちの方がいいと思うけど、なんて言うか、ちょっと、あれを付けていると窮屈なんだよな。


 ぶうぶうと文句を言っている双子お兄ちゃんズとそれを真似してぶうぶう言っているプティ君が可愛い。

 そして、文句を言うなと窘めるベルトラン君。

 やっぱりしっかりしたお兄ちゃんだなあと思っていると、ベルトラン君は何かを思い出したのか『あ』と声を上げた。



「ゼン様! 父上がお呼びでした。何やら警備の件でお話があると」



 え、もしかして俺が家族の仲間入りするとかの話のときに上がっていた警備の相談ってやつ? 本気で?

 冗談の範囲で止めておいた方がいいのでは? と思った俺はそれとなーくベルトラン君に聞いてみる。



「ねえねえベルトラン君。それってこの前、俺がここの家の子にって言う話が出た時のドゥース様が言ってた警備の話……?」

「え? いえ、おそらく最近領地で多発している窃盗事件に対する警備の話かと。ゼン様にはここに滞在している間、警備関係をご協力していただいておりますので」



 ほっ。

 なんだ、俺の思い過ごしだった。

 けど窃盗事件とか、穏やかじゃないなあ。







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