第21話 メタモルフォーゼしたらしい【1】






「それにしても、この香りは甘美ですねえ」

「どこかで嗅いだような気がするぞ?」

「どこだっけ?」



 すり寄ってなかなか離れなかったが、イケメンに離れるよう促されてベルトラン君と双子お兄ちゃんズは、しぶしぶとだが俺から離れてそう言った。


 プティ君はというと。

 双子お兄ちゃんズが『『プティずるいぞ! 離れろ!』』と無理矢理俺から離そうと試みたのだが、イヤイヤとすごい力で俺に抱き着いて離れなかったし泣き出しそうだったので、コアラの親子みたいに抱っこ状態をキープとなっている。

 そのせいで双子お兄ちゃんズはぶうぶうと文句言ってるが。



「俺、どんな匂いしてんの? ていうか魔力出しただけだよね? 魔力の性質特化ってこういう匂いの違いもあるのか?」

「魔力に匂いなんて感じたことないぞ」

「ないぞ」



 双子即答だよ。

 こりゃまたこの世界の常識外れ発言したっぽいな。

 双子の顔がまたかよ。と語っている。



「そうですねえ。確かにシャルルとサロモンの言うとおり、魔力に匂いを感じるなんて今まで聞いたこともないし経験もないですけど…………」

「でも、この香りの元はリンタロウの魔力だろうな」

「ですよねえ……しかもこの香りって」



 魔力から香りがするって…………。

 なんかちょっと芳香剤にでもなった気分。

 できればお手洗いに置く系じゃない香りだといいが、自分だとどんな香りか分からないので確認のしようがない。

 ベルトラン君はどうやらこの香りに身に覚えがあるっぽいが………………。


 お手洗い系じゃないよね…………?








「ゼンさん。この香りって、あの香りに似ているというか、一緒というか……そう思いませんか?」

「ベルトラン君もそう思うか」

「はい。母上が弟たちを身籠る前に食べている所を見ましたし……」

「え?なになに、何か食べ物の匂いなの?」

「えぇ、まあ食べ物といえば、食べ物ですけど……」



 あ、良かったー。

 とりあえずお手洗い系ではないのね。

 ちょっとベルトラン君の歯切れの悪さが気になるけど、食べ物ならそんな悪い匂いでもないのではないか?


 …………でも待てよ。

 食べ物の匂いによっては人によって好き嫌いが出てくるのではないのだろうか。

 気になった俺はどんな食べ物か確認のため聞いた。



「リンタロウ。昨日の創世記の話は覚えてるな?」

「そりゃあ、もちろん。昨日の話だしな、記憶力はいいほうだし」

「その中に世界樹の話が出てきただろう」



 あぁ、あの五匹の竜が育てたっていう大樹の話か。



「それが? どうしたんだ」

「あの、リンタロウ様からはその世界樹の果実の香りがするのです」

「……へ? どーゆーこと?」

「えっと、リンタロウ様から発せられている香りは、母上が弟達を授かる前に世界樹の果実を教会から持ってきて食していた時や、果実を食したばかりの母上から一定期間香っていた世界樹特有の果実の香りに似ているというか……。世界樹の果実の香りそのものというか。でも、リンタロウ様の香りは記憶の中の香りより遥かに強いです」

「え」



 何それ。

 なんで俺からこの世界の樹の実の香りがするわけ?


 こっちに来たばかりだし、そんな実なんてまだ見たことも食べたこともないけど。

 もちろん拾い食いなんてしてないからな!



「なんで俺そんな匂いしてんの?そもそも世界樹の実って食べて良いモノなんだ」

「あぁ、この世界で子を作るにはその実を食べる必要があってな。世界樹の実を食べることで食べた者の身体が子供を成せる身体に変わるんだ。そして、その実を食べた者の身体が作り変わっている期間中は世界樹の実の香りがする」

「でたよ、ファンタジー。男しかいないのに子供ってどうやってできるのか疑問だったけど、なるほどね。ていうか、俺ってそんなの食べたことないよな……?」



 衝撃の事実。

 イケメン曰くこの世界で子を成すには果実を食べて身体を作り変えるのだという。

 この世界の不思議が一つ解決したよ。



「お出ししたことないですし、そもそも世界樹の果実自体簡単には手に入りません」



 ベルトラン君が説明してくれた内容はこうだ。









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