第20話 魔力解放【2】







「――――あ、あったかい」

「これが俺の魔力。このままリンタロウの中に入る」



 掌に伝わってくる温かい《何か》が、イケメンの言葉の通り俺の中にゆっくりと心地よい速度で入ってくる。

 その《何か》はイケメンの魔力とのこと。


 不思議な感じだ。

 俺の中に俺のではない魔力が入ってきているので異物感など感じるかと思ったが、全くもってそんなのは感じられず逆にとても落ち着く。


 そして、あたたかい魔力が俺の中心と思われる部分に触れた瞬間、俺の身体の中なのに知らない俺の中の魔力の存在に俺は気づいた。

 何て言うんだろう、俺の身体のある部分に俺の魔力らしきモノが塊で存在している。

 殻の中に入っているイメージ。

 なんとなくだけど、この殻が破れたら俺の魔力が出てくるんだと、ふと思った。



「――――感じ取れたみたいだな」

「うん、俺の中にあるよ、魔力。でも、殻の中にある。結構厚そう…………」

「大丈夫。俺ならその殻を破れる……、そのまま身を任せて」



 イケメンの言葉に頷き、そのまま身を任せる。

 そうすると、あたたかいイケメンの魔力が俺の魔力の殻に優しく触れていく。

 ――――いつも、俺に向けてくるあの優しい瞳と同じ優しさ。


 イケメンの魔力が俺の魔力の殻を優しく起こしてくる。

 すると、少しだけ殻にヒビが入ったのがわかった。

 そして、そこから俺の魔力が少し漏れ出る。



「あ、魔力が…………」

「俺の魔力と一緒にリンタロウの魔力をこのまま殻の外に引き出す。俺が引き出さすその勢いで魔力の殻を全て破って身体の外まで引っ張るから、抵抗せずにリンタロウも感じ取っている魔力を解放させるイメージを持って」

「……できるかわかんないけど、やる」

「その意気だ。…………さあ、これが最後」



 俺は思わずごくりと、唾を飲み込んで覚悟を決める。

 その様子を見たイケメンはそれを合図とみなしたのか、俺の殻から少し漏れ出ている魔力に自分の魔力を絡め、少し殻の中にまで入ってきて勢いよく引き出していった。



「――――――――っ!ぁ!」



 俺は抵抗せずに引き出されるまま殻の中にあった魔力を身体の外に解放した。

 魔力が身体の中心から外に流れ出ていく。

 己の一部が解放されて息がしやすくなったような…………。


 そんな気がする。











 ――――魔力が解放され、俺の身体の外に魔力が放出され流れ出ると。




 一瞬で、俺を中心にしてたくさんの花々が咲き誇ったのだ。


 花は見たことあるのもあれば、見たことない花もある。

 見たことない花はこちらの世界の花だろう。


 俺の周り半径五メートルくらいに広がる花々。

 その先もよく見てみると花は生えていないが、牧草が生き生きとしているような……。

 遠目なので勘違いかもしれないが。



「わぁ、ファンタジー…………。これ、俺がやったの?」



 俺は目の前に広がる光景に感動していると、不意打ちでドン!と身体に突然衝撃が走った。



「おぅ! なになに!?」



 そこまで強い衝撃ではなかったけど、衝撃の原因を見てみると…………。


 俺の身体に双子お兄ちゃんズとプティ君が抱き着いているではないか。

 あとベルトラン君もさり気なく俺の背中に引っ付いてる。



「え、なに、どうしたの」

「「「「…………」」」」

「なんで黙ってるの。どうした? 具合悪くなったのか? 俺のせい?」



 黙り込む子供たちに俺は何かやらかしてしまったのかと不安になり、子供たちの頭を撫でたりいろいろ試みる。


 すると。



「「「「すぅうううう、はぁー…………」」」」

「えっ!?俺、なんか吸われてる!?」

「「リン、いいにおーい!!!」」

「リンにいちゃ、いいにおいぃー」

「お会いした時からリンタロウ様はいい香りが少しするなと思ってましたけど……これはいい香りですぅ……」

「へっ!?」



 え、何、匂い?香り?


 俺はすぐさま自分の匂いを嗅いでみるが、香りなんてしない。

 無臭だ。



「匂いなんて何もしないけど……」



 俺はもう一度自分を嗅いでみるけど、やっぱり無臭。

 しかも会ったときから香りがしてたって。

 俺、香水とかつけないし割と無臭なほうだと思ってたんだけど。


 俺にくっついている子供たちは、深呼吸したり、スンスンしたり、すりすりゴロゴロとまるでマタタビに引き寄せられた子猫みたいだ。


 俺って今マタタビの匂いでもしてるのか?



 ふいに俺の目の前に影ができて、その影にデジャヴを感じた俺は勢いよく前を見ると。


 すると、俺の目の前に居たイケメンがそのご尊顔を近づけてくるではないか!

 しかも重ねていただけの手をいつの間にかもの凄い力で握られていてビクともしない!



「近い! 近い! 近い! 寄るな! 無駄にイケメンが!」

「リンタロウ……」



 まるで花に吸い寄せられるかのように近づいてくるイケメンに思いっきり顔を背けるが、意味がない。

 声を張り上げて静止を促しても、惚けた表情のイケメンは聞いていない。



「――っ!のぉ!目ぇ覚ませ!!!!」



 ゴツン!!!!



「ぃっ!!」



 近づいて止まらないイケメンのご尊顔に俺は思いっきり頭突きをかましました。

 イケメンの顔に傷が! とか思うだろ?


 そんなの気にしてられるか!!!

 こいつには前科があるんだ! そうやすやすと二度目ましてがあってたまるか!



「ぁー……、リンタロウ、君ね、どんだけ硬いの頭……。久しぶりの痛みだ。結構効いた

「そりゃあ加減しなかったからな! 俺も痛いわ! それよりこれをどうにかしてくれ!」



 ごろにゃんごろにゃんと先ほどから俺にすり寄って離れない子供たち。

 彼らをイケメンと同じように頭突きをかまして引き離すわけにはいかない。



「ふむ、まるでマタタビにすり寄る子猫だな」

「俺もそれは思ったよ!!ていうか、この世界にマタタビあるのかよ!」



 出たよ!こっちの世界と前の世界の謎の共通部分!


 そんなことよりお前の手もいい加減に離せ!

 そして、この状況を終わらせてくれ!


 手をすりすり触るなぁあああああああ!!!!!














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