第15話 常識とは……【1】
「「起きろー! リーン!!!」」
「ぐぉっはぁ!」
なんだ! 何が起きた!!! めっちゃ苦しい!
俺はもがきながら上半身を起こそうとするが、何かが腹に乗っていて重くて無理だった。
辛うじて動かせた頭を起こして腹を見ると、そこにいたのは昨日の夕食の席で会ったプティ君の双子のお兄ちゃんズで、三男のシャルル君と四男のサロモン君だった。
「起きろ! リン! 朝の仕事に行くぞ!」
「行くぞ!」
「え!もうそんな時間!?俺寝過ごした!?」
昨日の夕食の席でまだ当分この地にお世話になるので、少しでもお礼になればと簡単な仕事から手伝わさせていただくということになったのだが。そのお仕事というのが主に、ドゥース様達のお子様達がやっているというお仕事の手伝いを任されることになったのだ。
パルフェット様から子供達の仕事は朝早いと聞いていたのに、昨日はいつ寝たのかも覚えていない俺は寝過ごしてしまったとめちゃくちゃ焦った。
「おはようリンタロウ。まだ仕事の時間には余裕があるから大丈夫」
そう言って、ベッドの端に腰かけていたのはイケメンだった。
「ほんと? ……焦ったぁ」
「リンはお寝坊さんだな」
「お寝坊さんだな」
メインで話す三男のシャルル君に、その言葉を復唱する四男サロモン君。
君たちね、驚いたじゃん。
ていうか俺、ベッドの上でぶっ倒れた覚えはあるけど中に入った覚えはないのに、しっかりと掛け布団を掛けて寝てる。
ちゃっかり寝ぼけながら入ったのか?
「ちなみにこの二人をけしかけたのは俺」
「お前かよ!」
「リン、カリカリすんな。牛乳飲むか?」
「飲むか?」
このイケメン、しれっと自分の罪を吐き出しやがった。
純粋な子供二人をけしかけるとは何事か。
牛乳、今はいいよ。
ありがとう二人とも。
腹の上にいる二人の頭を撫でて、起こしに来てくれたお礼を言う。
すると二人は気持ちよさそうに、ゴロゴロとまるで猫みたいにすり寄ってくるではないか。
…………可愛いかよ。
「はいはいリンタロウ。デレデレしないで、支度しないと仕事に間に合わないよ」
「で、デレデレしてない!」
「支度するぞリン!着替え持ってきた!これに着替えろ」
「着替えろー」
俺の腹の上から降りた双子お兄ちゃんズは、つなぎを渡してきた。
ありがたい!というかこういう服ってこの世界にもあるんだな。
日本でよく見るような作業着だ。
「着替え、俺が手伝おうか?」
「結構だ! 自分で着替えられるわ!」
「早く着替えろよー。置いていくぞ?」
「置いてくぞー」
「ちょ、待って。置いていかないで」
いらない事ばかり口にするイケメンを部屋から追い出し、俺は急いで着替えて双子お兄ちゃんズに連れられて屋敷の外に出た。
屋敷の外はめちゃくちゃ広い牧草地になっていて、俺はその広さに感動した。
早朝ということも相まって少し肌寒いが、その寒さも気にならないくらいの感動だ。
「リンこれを持つんだ」
「持つんだ」
「え、なにこれ」
シャルル君から手渡されたのは俺の拳より大きくて四角形で、取っ手がついてるのでそこを持ってさらに謎の物を観察すると、取っ手がついていない片側が大きく開いて空洞になっており、中を覗くと中心から棒がぶら下がっている。
あれ、この構造って…………。
「牛を集めるベルだ!」
あ、やっぱりベルなのか。
見慣れたベルの形じゃないけど振ってみるとカコンカコンと、ちょっと振ってみただけなのに結構大きな音が鳴る。
おぉー、これは遠くまで聞こえそうだ。
「これを振りながらルールルルルルって言うんだぞ。そうしたら牛が集まってくる!」
「集まってくるー」
「え、ちょっと待って。その掛け声ってキタキツネ呼ぶ掛け声じゃあ……?」
「何言ってるんだ?キツネはそんな掛け声で集まるわけないだろ」
「集まるわけないだろー」
うそー…………。
なんかちょっと俺が知ってる知識と違う。
でも、その掛け声はキタキツネ呼ぶ奴だろ?俺より前に来た異世界人が間違った知識でも教えたのだろうか。
それともこの世界独自にできた掛け声でたまたま俺が知ってる知識と呼び方が一緒だったとか???
まあ、そんなの考えても仕事にならないので、ちょっと脇に置いといて。
双子お兄ちゃんズに連れられて、牧草地の奥に進んでいく。
この広大な牧草地に散らばっている牛を呼び集めて、獣舎で栄養価の高い飼料を与えるらしい。
牛たちはもちろん牧草地の草も食べるが、一日に朝と夕にきちんと栄養の考えられた飼料を他の家畜達と一緒に与えるとのこと。
子供たちの仕事はそんな家畜達の餌やりが主な仕事だという。
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