第16話 常識とは……【2】






「あ! 牛がいたぞ! リン! 牛を呼ぶんだ!」

「呼ぶんだー」

「え、あれが牛なの!?」



 目の前にいる双子お兄ちゃんズが言う牛は、俺が知ってる白黒の牛じゃなかった。

 まず、毛が……めちゃくちゃ長くて全部白い!

 その毛の長さは遠目だが軽く三十センチ以上はあるだろうし、耳は大きく垂れていて、角は太く大きくて立派である。

 前の世界で体毛が多少長い牛もいたことは知っていたが、これは俺の知っている牛とはかけ離れていた。


 こ、これがこの世界での牛なのかぁ。



「早くしないと俺たちの朝食に間に合わないぞ!」

「間に合わないぞー」



 そう言うと双子お兄ちゃんズはそれぞれ持っている鞄からベルを取り出してルールルルルルと掛け声をかけて大きくベルを鳴らす。

 すると、牛たちはゆっくりと反応して動き出したではないか!



「ほら! リンも! ルールルルルル!」

「お、おぉ…………る、ルールルルルル」



 戸惑いながらも三人で手分けして牛を集めて獣舎へ誘導していった。

 広大な土地の隅々に散らばっている牛を集めるのは大変らしいが、俺たちより先に年上組のドゥース様や次男のベルトラン君、あとイケメンが飛竜に乗って牧草地の端から牛を集めてくれているらしく。飛竜に乗れない俺たちは、近場の牛たちを集めるのが仕事とのこと。


 それよりも聞きましたか?


 飛竜ですって!


 思わず口調が迷子になってしまうほど、その単語を聞いてテンションが上がる。

 ファンタジーのお話でその名称を聞いたことある人は多くいるだろう。

 俺は今日もしかしたらドラゴンを見られるかもしれないのだ!

 ちょっとわくわくする。


 土地の中にいくつかある獣舎の中で一番大きな獣舎に牛たちを続々と入れていき、双子お兄ちゃんズと手分けして餌を運んでは牛に与えてとバタバタと動いていると、外から大きな翼がはためく音がした。



「父上達帰ってきた!」

「帰ってきた!」



 双子お兄ちゃんズと一緒に外の様子を見に行くと、そこにいたのは…………。



「あれが飛竜! すげぇ」

「リン! 飛竜を別の獣舎に連れてくぞ!」

「連れてくぞ!」



 大きな体躯の飛竜には鞍がついており、双子お兄ちゃんズはそれぞれドゥース様とベルトラン君の手綱を持っていた。

 俺はイケメンの飛竜を移動させるらしい。

 近くで見る飛竜はとてもカッコ良かった。

 ちょっと男の子供心をくすぐられる感じだ。


「俺、ドラゴンを見れてちょっと感動してる」

「「「「「え?」」」」」」

「…………ん?」



 飛竜の顎を撫でていたイケメンから手綱を受け取ると、素直な感想を言ったのだが。その場にいた俺以外の全員が疑問符を投げかけてきた。

 どういうこと? なんで皆してお前何言ってんのって顔で俺を見るの。



「リン、何言ってるんだ。飛竜はドラゴンじゃないぞ」

「トカゲだぞ」



 双子お兄ちゃんズが俺を引いた眼で見てくる。

 ていうかサロモン君、復唱以外の言葉もちゃんと喋るのね。



「どういうこと!? だって飛竜って呼んでるじゃないか」


「まあ、飛竜と呼ばれてるけど。こいつはトカゲに翼が生えていて空を飛べるくらいで、竜ドラゴンみたいに火を吹けるわけでもないし魔力も持っていない。この世界にドラゴンと呼ばれる存在は創世記を話した時に五匹しか出てこなかっただろう? その五匹しかこの世界には竜ドラゴンは存在しないんだ。飛竜の名前の由来はドラゴンの縮小版に見えるからそう呼ばれてるだけ」

「なんだと……じゃあトカゲだから尻尾が切れたら再生されるとか……?」

「まだ子供の頃は再生されるね」



 イケメンの説明では、子供の飛竜は身を守るために尻尾が切れるようになっているが、大人の飛竜になると尻尾は切れないらしい。


 なんだか俺の世界の知識とちょっとずつずれている所が多々ある。

 飛竜を移動させて餌を与えた後も、もう一つある獣舎で鶏に餌を与えたが鶏が俺の知ってる鶏じゃなかった。


 なんと鶏のオスの見た目が完全に鷲で、その鷲に鶏冠と肉髭がついていたのだ。

 メスは普通の鶏だったけど。


 こちらの世界での基本情報になるがカリファデュラ神の子ではない、魔力を持たない生物には基本的には雌雄があるらしい。

 この世界は俺が知ってるファンタジーとも、ちょっと違うところがある世界だった。


 あと、最後に。



「じゃあ、あそこでお座りしているのは犬ではなく猫とでもいうのか」



 俺は前の世界でいうグレートベキニーズに似た犬らしき生物を指さして言った。

 あの生物は放牧されている牛を探して追い回す役目があるらしい。

 思いっきり役割も犬だが、疑り深くなっている俺は胡乱な目で言ってみたのだが。



「リン、何言ってるんだ。あれは犬だ」

「犬だ」

「犬だね」

「犬ですね」

「リンタロウ。あれは犬であってるよ」



 犬だった!!!!!!!


 分からん!この世界の常識!

 俺は思わず膝をついて項垂れた。


 双子お兄ちゃんズに猫なわけないだろ。

 と少し馬鹿にされて、それを双子お兄ちゃんズの頭を小突いて止めさせるベルトラン君。

 ドゥース様も俺が無知なのをカバーしようと双子お兄ちゃんズを叱るが、そのフォローにちょっと涙でそう。

 イケメンは笑いをこらえようと必死だった。

 お前、マジで覚えてろよ。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る