第14話 これから【2】
「リンタロウ」
ふと、目の前に影が迫ったと思ったら自分の頬に暖かく柔らかい何かが触れた。
「ぇ……」
「……そんなに不安な顔をしなくても大丈夫だ。俺がいるだろう? お前がどんなに不安や恐怖を感じても、それを全て助け守れる力を持っている。頼ってくれ」
そう言うとイケメンはとても自然な動作でその秀麗な顔を寄せて、俺の頭に口付けをした。
さっきの頬の暖かいものはこのイケメンの唇だったことに今気づく。
「なっ!なにすんだよ!」
顔が熱い。
こんなイケメンの顔が近いことも恥ずかしいのに、こいつ、俺にキスした!
距離をとろうと腕を振り回すが、上級冒険者だというイケメンにもちろん当たるはずもなく、俺の腕は空振るだけだ。
「リンタロウは威勢がいい方が可愛いよ」
「誰が可愛いだ!!!」
一発、そのイケメンの面でもひっぱたいてやろうと思って手を振り上げるが、簡単に掴まれて笑われる。
もう片方の手も使うがもちろん掴まれてしまい、挙句の果てには笑いながらちょっと遊ばれた。
ムカツク!!!
次は足でも出してやろうかと力を入れようとしたが、コンコンと扉をノックしてプティ君が入ってきた。
「…………ぇと、ごはん、たべよう?」
「だそうだ、リンタロウ。夕飯にしよう」
「お前、後で覚えてろよ」
「覚えてたらな」
くっそう!
めっちゃいい顔でイケメンは先に出て行き、俺はプティ君と一緒に夕飯に向かうことに。
夕飯に向かう際に。プティ君が俺の手を引いてくれたのが癒しだった。
その後の夕飯の席では、パルフェット様の旦那様でここの領主様であるドゥース様とプティ君の兄弟君達にお会いした。
一番上のお兄さんは今都心部の学校に通っており、寮生活をしているらしいので会えなかったが。それぞれ自己紹介やら、俺は今回お世話になってる件などなどご挨拶とお礼を言うことができた。
ドゥース様とプティ君の兄弟君達は濃いブラウンの髪にライムグリーンの瞳を持った落ち着く外見の方々だった。
まあ、落ち着く外見ってどういうことだよ。って話だと思うけど。言い方悪くなるけど、日本でいう平均よりちょっと良い中の上的なお顔立ちだったのと。ドゥース様の爽やかで快活な性格がクラスに一人はいる爽やか運動部員みたいな雰囲気で、プティ君の兄弟君達も一般的な中学生、小学生みたいな雰囲気で馴染みがあったので落ち着くという表現に至ったのだ。
今まで超絶イケメンの人外的な容姿と、パルフェット様とプティ君の異常な可愛さしか目にしていなかったからこの世界には美しい者しかいないのかとちょっと怖く思っていたので、心の隅で安心したのは内緒にしておこう。
大勢で賑やかに食べる食事はとても美味しかった。
執事のセリューさんが今まで眠りっぱなしだった俺のためにと、皆とは別に食べやすいものを作って心配りしてくれたり、初めましての俺のことを暖かく迎え入れてたくさん話しかけてくれた。
とても気さくで本当に優しい人達だ。
こんな賑やかな経験はしたことがなかったので、実はかなり戸惑ったが。そんな俺の様子を感じ取り気を使ってくださったパルフェット様が、ほどよく質問攻めから解放してくれたり、合いの手を入れてくれたりしてくださったので居心地は悪くないどころか、とても良かったと思う。
これも初めての感覚だった。
食卓の話の中で、この領地が農業で成り立っていることを聞いた。
主に畜産農業を行っているとのこと。
耕種農業も行っているがこちらは主に自分たちの食料確保や動物たちの飼料のために行われているらしい。
なんと、領主様であるドゥース様達自ら動物たちを世話して育てているという。
だからちょっと日焼けして健康的だったのか。
パルフェット様は肌が白くて力仕事なんてできそうにないなと思ったら、やっぱりほぼ外の仕事はしないらしい。
代わりに彼は皆が外で働いている間、書類仕事系はすべて行っているそう。
最初はパルフェット様も力仕事をしようとしたらしいけど、結婚する際にドゥース様が『俺の可愛いパルフェットに力仕事なんてさせられない!』と言い、やらせてくれない事になったそうだ。
愛されてるなあ、パルフェット様。
そしてどうやらここに滞在する間、イケメンは皆様へ協力のお礼にと農作業の手伝いと冒険者の経験と力を活かして近隣の警備をするらしい。
というか俺が眠っている間からしてるらしい。
明日からはそれに加えて俺の教育もするという。
イケメン忙しいな。
「あの、それなら俺もここにタダで滞在させていただくのも忍びないので、イケメン……えほん! じゃなくて、えーっと、ゼン? さん……? が俺の教育にあたる以外の時間は何かお仕事とかお手伝いさせてください」
『普通にゼンでいいのに』とクスクス笑ってるイケメンは無視だ無視。
ドゥース様やパルフェット様は、来たばかりで病み上がりだし無理しなくていいと言ってくださったが。これ以上優しさに甘えるのは違う気がして俺は折れなかったので、明日から簡単な仕事から手伝わさせていただくことになった。
皆で食事を終えて、パルフェット様は明日から仕事を手伝いながらいろいろと学んでいく予定の俺を気遣って早めに部屋で休めるよう取り計らってくれた。
こうして話は冒頭に戻るのだが、今日一日だけで今までの人生の中で一番と言っていいほど濃い時間を過ごしたような気がする。
多すぎる初めての経験ばかりで疲れてしまった俺は、ベッドに倒れこんだ状態のままいつの間にか意識を飛ばしてしまっていた。
*********
ガチャ……。
「ふむ、こんなことだろうと思った」
凛太郎の眠る部屋に入ってきたのは、月明かりが差し込む薄暗い部屋の中でも輝いて見えるような美しい顔をしたゼンであった。
ゼンは着の身着のままで、ベッドの中にきちんと入らず眠ってしまった凛太郎の傍に寄り、彼を起こさぬように抱えて温かいベッドの中へと丁寧に寝かせた。
「おやすみ。良い夢を」
優しいとろりとした声でゼンは凛太郎に囁き、眠る凛太郎のすっと通った鼻に口付けを送ると静かに部屋を去っていった。
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