第13話 これから【1】






 時は過ぎて今は夜。

 部屋に戻った俺はベッドにポフリと倒れこみ、目覚めてからこれまでの出来事を振り返る。


 パルフェット様とプティ君に風呂に入れてもらってからもいろいろあった…………。














 可愛いセット二人に風呂に入れてもらって、しかも髪まで乾かしてもらってしまった。

 お風呂場で試しに水を出そうとしたが、やっぱり俺には出せずパルフェット様とプティ君が蛇口を捻ると水が出た。

 不思議だ。さすがファンタジー。


 あまりお風呂場で魔力とか魔法の実感は水が出なかっただけなので湧かなかったが、感動したのがパルフェット様が髪を乾かしてくれた時だ。

 そこで初めて俺は魔法らしい魔法というものを目にしたのだ。

 なんと、髪を乾かす時にパルフェット様が『風よ』と唱え俺の髪に向かって手をかざすと温風が出たのだ!

 思わず『おぉ!』と声が出た。

 パルフェット様が言うには簡単な基礎魔法らしいので俺もすぐ使えるようになるとのこと。










「さっぱりしたか?」



 部屋をノックしそう言って部屋に入ってきたのは超絶イケメンだ。



「うん。いいお湯だった」

「そうか。よかった」



 イケメンが部屋に入ってくると、入れ替わりでパルフェット様とプティ君が夕飯の支度があるらしく、夕飯ができあがったら呼びに来ると言って部屋を出て行った。

 どうやら執事さんが一人いらっしゃるそうなのだが、今はその方が一人で準備しているそうで仕上げるために手伝いに行くという。


 去ってしまう前にもちろん二人にお礼を言ったが、部屋を出て行く際のプティ君がまた可愛かった。

 ばいばいと手を振ってくれたのだ。

 それはもうデレデレと手を振り返しましたとも。はい。



「リンタロウは可愛いものが好きなんだな」

「んー?そりゃあ……可愛いは正義だろ」



 あまり好き嫌いにこだわりはない方だと思っているが、皆可愛いのは好きだろ?



「それもそうだな。さて、風呂で癒されたところさっそくで申し訳ないが、リンタロウの今後について夕飯前に話しておこうと思う」



 あー、確かに。

 俺ってこれからどうすればいいかさっぱりだな。

 たった一人で異世界に来たわけだし。



「わかった。でも、さっきみたいに話長いか?」

「はは!今度はなるべく簡単にするよ」



 そう言うとイケメンは本当に簡単に説明してくれた。


 どうやら、こちらの世界で異世界人は向こうの世界の知識やアイディアを次々に出してくれるからとても大事にされるらしい。

 今までに異世界人は何人も来ているのでその保護方法なども確立されていて、異世界人のその後の身分や生活をある程度は保証してくれるし、やりたいことをさせてくれるそうだ。




 ちなみに異世界人がこちらに来る際は、場所などバラバラで。

 カリファデュラ神の前もってのお告げによって、大体の出現場所や時期などはすぐに分かるという。

 保護に行く者には基準があるらしく、異世界人に説明する必要な知識。その他、保護に向かう者の武力、魔力など力をもっている人物が保護に向かうらしい。

 だいたいは身分の高い者、国の王族関係や騎士や魔法士などの人物があたるが、基準に合えば場合によっては上級冒険者なども保護するそうだ。


 イケメンは上級冒険者だという。


 そして、その保護した人物がそのまま異世界人の後見人になる。

 ……ということは、このイケメンが俺の後見人なのか。



「なるほど。お前の役目と任務ってそういうことか」

「そう、そういうこと。まずはリンタロウの身分証を発行しなきゃいけない。それがないと、これから生活するうえで不便だからな」

「そっか。じゃあ、身分証ってのはすぐに発行できるのか?」

「いや、君が出現したのはこの近くの山奥だったんだが、この地では身分証は発行できない。発行できる場所は決まっていて、この近くだと都心部に行けば国の役所や冒険者ギルド、教会などで発行できる。この地にも教会はあるが、小さいから身分証まで発行できない」

「へぇー、身分証発行できる所っていろいろあるんだな」



 国の役所は分かるけど、冒険者ギルドと教会って、さすがファンタジー。



「最初は教会だけで発行していたんだが、異世界人は割とあちこちに来るし、こちらに来たら国に仕えたり冒険者になる者が多くてな。必要に応じて発行できる場所は増えた」

「ほうほう」

「ちなみにここから都心部まで、いろんな移動方法を使っても最速で一週間はかかる」

「え゛!!」



 まじで!?どんだけ遠いんだよ!



「ここに来るもの苦労したよ。今回俺が保護者に選ばれたのも、ここが遠方かつ、なかなかの旅路を歩まないといけなかったから、それなりの冒険経験者のほうが都合が良かったからなんだ」

「それって……俺、冒険経験とかないけど、都心部に向かうの大丈夫なわけ?」



 こいつって上級冒険者なんだろ?

 そんな上級冒険者がなかなかの旅路って言うくらいだから、人より運動神経がいい方とはいえこんな一般人の俺じゃあ旅なんて無理なんじゃねーの。



「まあ、すぐには向かえないな。俺の力でリンタロウを守るから絶対大丈夫! と言えなくもないんだが」



 あ、こいつ今さらっと俺強い発言してない?



「リンタロウはここに来て間もないし、こちらの常識などの知識もない。急ぐ旅でもないからリンタロウがここの生活方法に慣れて、最低限必要な知識や魔法とかを教えてから出発しようと思ってるから、約二週間くらいはここに滞在する予定だ」



 おぉ、いろいろと教えてもらえるのはありがたい。

 特に魔法!

 ちょっと楽しみ。



「それに…………」

「ん?」



 イケメンはさり気なく俺に距離を詰めると、さらりと俺の髪を撫でとても優しい瞳で見つめてくる。


 …………なんだよ、無駄に顔がいいな。



「君がこちらに来てやりたいことを見つけるためには時間が必要だろう。ゆっくりと、今後の人生どう歩んでいきたいか考えるといい。

 君は本来あるべき人生を歩めなかったんだ。それくらいの権利はある」

「…………今後の、人生」



 俺はこれまでの人生、やりたい事も見つけられず、ただ孤立して時を流して生きてきた。

 急に、選択肢を広げられても何をどうしたいかなんて考え付くはずもない。



 俺って……ほんと、何もないよな…………。

 急に気持ちが暗くなる。


 暗い気持ちに、心が冷えていく感覚は慣れているはずなのに。今日出会ったパルフェット様とプティ君が与えてくれた優しさのせいか、その冷えていく感覚が鋭く感じ、チクチクと痛む。








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