第4話 超絶イケメン 【1】
空がまだ夜の静けさを名残惜しそうにしているところに、その空の隅から夜を優しく照らす太陽が姿を現し始める早朝。
山奥の大きな湖畔は濃い霧で覆われており、そのすぐ近くの木の上には湖畔を静かに見つめる一人の影があった。
放射冷却で冷える空気に影の人物は、ふぅ、と息を漏らしながら湖畔に目を逸らさずに見つめ続けている。
もうすぐ太陽が空の隅から三分の一ほど見えてくるかと思われたその時、冷えていた空気がより一層キンッっと冷たさを増し空気が震えた。
「――――――っ」
湖畔の中心に近い部分の空中。
まるで雷雲を凝縮したような人の拳ほどの渦が大きな音とともに現れ。
渦は徐々に大きさを増していき最後に一際大きな音を立てると、渦の中からずるりと人影が落ちてきた。
「ぅ、ふぁ!?」
どっぼん!
*********
世界がぐるりと大きく回ったと思った次の瞬間には、俺の身体は浮遊感を感じ冷たい水の中に叩き付けられていた。
上も下も分からない水の中、俺は空気を求めて水面に上がろうとするが思いのほかこの水の中は深かく、なかなか水面へと上がる事ができない。
くそ!息が持たない!
がぽりと口から更に空気が漏れて、もうだめかと思ったその矢先、もがきながら無意識に上へと伸ばしていた手を力強く誰かに掴まれて引き上げられる。
「――――っヒュ!げほ!ごほ!」
水面に引き上げられた俺は空気を求めて息を吸い込むが、むせて咳き込んでしまい呼吸がままならない。
そんな俺を力強く引き上げてくれたであろう人物は、激しく咳き込んでいる俺をこれまた力強く支えると湖の外まで泳ぎ、陸まで引き上げてくれた。
「げほっこほっ!……はぁ、はぁ」
激しく咳き込む俺の背中を、水の中から助けてくれた人物は優しく叩きさすってくれて。
そうしてもらっているうちに、だんだんと呼吸が楽になってきて、ようやく周りを見る余裕ができた俺はまだ息苦しさを感じながらもそろっと見渡してみた。
後ろを向くと大きな湖。
俺はあそこに落ちたのか。
そしてその周りは鬱蒼とした森が広がっていた。
……おかしい。
俺はさっきまで、コンクリートジャングルのど真ん中の大学にいたはず。
なんだここは。
どういう状況で、正反対の森林の中に来たというのだ。
混乱していく思考の中、いまだに俺の背を優しくさすってくれる人物に目を向けると、その人物は優しい手の持ち主に相応しい眼差しで俺のことを見ていた。
……………………いやいや、なんだこのイケメン。
思わずまじまじと見入ってしまうほどの絶世のイケメン。
暖かく優しい太陽のような黄金の金髪にまるでアメシストのように美しく輝く瞳。
陶器のようにつるりとした肌にすっと通った鼻は高く、薄くもなく厚くもない唇は優しく弧を描いていた。
イケメンが着ている服がノースリーブなのでしっかりと鍛えられている腕がまる見えだし、それにつられて見てみた上半身は水に濡れて服が身体に張り付いているのでその形がはっきりと見え、腕と比較して遜色のないほど美しく鍛えられた逆三角形であるのが解る。
そして、何よりその男の後ろで上っている眩しい太陽が、男をさらに神々しく魅せるように演出していた。
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