勇者帰還(半人前)

第35話 真実は伝えない方が良いときも悪い時もある。

この世界にきてから冬を経験したが暖房が効いている基地の中と違い外は地獄のように寒くなっていた。

この星にも日付はあるが今日がクリスマスイブであってもあのボスのことだサンタなんて実在しないものの為に何かをするとは思えない。

「さて、今日も1日訓練をがんばるぞなぁー!?」

曲がり門で麻袋を被されて拉致される。

なんだ!

副総司令の悪口言ってるのがバレたか!?

チクショウこんなことならもっと上手く悪口か褒めてるか分からないように言うべきだった!!

どこかの部屋に連れていかれ麻袋から解放されるとそこにいたのはボスを含めた数人の大人達だった。

「タクヤ、いきなり連れて来させてすまない。実は今回ある作戦を君がきたことで本格化させることに決めた。」

そんな重要そうな作戦なら目隠しも納得だけど…どんな作戦なんだ!

「その作戦とは…サンタクロース誘致作戦だ!!」

「解散!!」

ボスが馬鹿にしてんのかという作戦名を言った瞬間に解散宣言をしてしまった。

だが、ボスの表情も他のメンバーも真剣な表情でおかしい人扱いされる…もしかしてマジなのか?

副総司令がいつもの腑抜けた感じ無しの口調で訪ねてくる。

「解散というが何故そんなことを言う?こちらは既に5年もの歳月をこの作戦の為に費やしている。」

5年やって存在しないとは思わなかったのだろうか?

「タクヤ、君は地球にいた同胞ならわかるだろ?今日がクリスマスイブだということを知っているだろ?私は彼をこの星の子供達にプレゼントを配ってほしいんだよ!」

……嘘だろ?リアリストの塊みたいなボスが何故こんな単純な嘘を見抜くことができないのか謎である。

味方がいないこの状況でも以外にも俺の脳は冷静だった。

ボスがサンタクロースを呼びたいとしてそれには理由があるはずだ根拠無しにそんなことを言う人ではない。

今度は理由を探るべくボスに質問することにした。

「あのぉ~ボスってサンタクロースが実在するって証拠はあるんですか?」

「証拠はないが実在はしているだろうA国にはわざわざクリスマスにサンタクロースを追跡して大統領にホットラインがくるほどだ何より私もプレゼントを貰ったことがあるからだ!!」

思ったより説得力のない内容に驚いたタクヤだがそもそも何故ボスこと小林ソウタがサンタが存在すると確信してしまったのはA国での訓練中のことが原因である。



A国訓練施設内にて…

「サンタクロースなんて迷信です。実在しないものにプレゼントを求めるなんて非論理的です。」

可愛げの無いガキだ。その場にいた教官を含めた大人達全員がそう認識していた。

「どうするよサミュエル?アイツは頭がいいからすぐに察知されちまう…ここは大人しくプレゼント手渡しするべきだろ?」

ケニーの言うことはもっともだと思う。

だが、誰しも子供の時には夢や幻想を信じ大人になって現実を知る。

一見残酷に思える過程だが彼はまだ子供なのに大人の残酷な世界を理解している彼は夢も幻想も見ることはない。

だからこそ今一度彼が夢を抱けるようにしてあげたいのだ!

「サンタクロースからプレゼントを貰うこと大統領のノーラッドへの直通電話のテレビ放送を見せれば完璧だろう。」

杜撰な計画であるはずのこの作戦が成功してしまった。

主な理由は二つあり一つは大統領のテレビ出演とノーラッド職員達の本気のおふざけによるリアリティーある映像。

もう一つは、人生でおそらく初めてであるプレゼントを貰うということだが少しの違和感でバレる為に密室殺人並みのトリックを利用しプレゼントを届けることに成功したことから完全に信じてしまっている。

ちなみにプレゼントとは彼のサイズに合わせた指ぬきグローブであり今は使用していないが大切に保管されている。

以上がサンタクロースを否定しない理由である……素直に渡せば面倒事にならなかった気がする。



「ボス?そんなにサンタにきてほしいなら………そうですよ!ボスが先にプレゼントを配りこの星ではボスがサンタにとって変わるんです!!そうすればいつか悔しがって現れるかもしれません!」

「誘致が目的だぞ?」

「来ないなら…代役確かにいいかもしれんな。」

意見は別れているがどうにかサンタを呼ぶ作戦から離すことが出来たようだ。

ただボスは少し不満なようで難しい顔をしていたが思うところあったのかその案を採用してくれた。



この星にきてから初めてボスのお茶目な所をみたが正直これで良かったのかは微妙に感じたが真実を明かして悲しまれるのも嫌だったし…。

とりあえず部屋に戻るかそう思っていると

会議に参加していたライコフ少佐が俺に質問してきた。

「なあ、タクヤ怒らねえしボスにも言わないけどよ…サンタいないだろ?」

「な!?」

「図星か。」

分かっていたなら助け舟を出して欲しかった。

「今回はこれでいいかもしれないけど後で事実を知ったら怖いぞ。ちゃんと隠し通せよな。」

「ちょ!?少佐は手伝ってくれないんですか?」

「俺は、サンタ知らないし触らぬ神に祟り無してな!頑張れよ。」

少佐の言う通り知らせなかったことが後々サンタ事変と血のバレンタインならぬ血のクリスマスが起こるのはまた別の話であった。


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