第3話 君の笑顔につながった

日々髪を伸ばし、手入れを怠らないよう努力して一年が経っていた……。

私は、癖っ毛があるから少し短く見えるものの……、何とか腰まで髪を伸ばすことができた。


「良い感じに伸びたね」

従姉は髪を撫でた。

「そろそろ、できるかな?」

「ええ、良い長さになったわ」

「じゃあ、お願いね」


従姉は私を椅子に座らせる。

「でも、本当に後悔しない?」

「しないよ」

「切ったら、戻してって言われても戻せないからね」

「うん、大丈夫。もう私の心は決まってるよ」

「そっか……。じゃあ、やるよ」


従姉は髪をいくつか分けて、小さいゴムで結んで小さな束にした。

ザクッ! ザクッ!

髪が落ちていく感覚とは違って、伸ばした髪を少しずつ落としていく感覚がする。

これが、ヘアドネーションのドナーになるということなんだな……。

私はそう思いながら、従姉のカットにゆだねていた。


「終わったよ」

私は、すっかりと短くなった髪を見た。

小さなヘアゴムで束ねられていた髪を、小さい袋に入れている従姉を見た。

「ショートも似合う?」

私は思わず従姉に尋ねた。

「うん、良いじゃん!」

従姉は笑顔だった。


「これ、どこに送るとか決めてる?」

「どこって……?」

「ヘアドネーションをしている団体はいくつかあるのよ」

「じゃあ、東北の方にない?」

東北は、私の故郷でもある。

故郷の誰かの助けになれるなら、やっぱり嬉しい。

「あるわよ。そこに送る?」

「うん、そこにしたい」

従姉は笑顔で手続きをしてくれた。


そして、今年も健康診断を受けに同じ病院を訪れた。

「ウィッグ、似合う?」

「ええ、可愛いわよ」

「えへへ……」

その声に、私はふと声の主を探す。


その声の主は……!

一年前、長い髪が良いと言っていた、あの萌華という少女だった。

「東北のところで予約していてよかった」

付き添っている母親と思わしき女性は、そんな彼女に笑顔を向ける。

そして、私は彼女のヘアウィッグを見て気付いた。


特有の、癖のある毛が混ざっていることに……。

「ここのさ、ウエーブしてるところが本当におしゃれポイントだよね」

萌華ちゃんは、そういって笑顔になる。

そして、私とたまたま目が合う。


「あなた、短い髪可愛いね。あ、ウエーブしてる! おしゃれ好きなんだね」

「私、昔っから癖っ毛なの。それもね、決まってウエーブしちゃうんだ」

「いいねー、私の髪、医療用ウィッグなんだけど……、でも可愛くウエーブしててさ。いつかは自分の髪でおしゃれしたいな」

「きっとできるよ! 信じて」

「ありがとう」


私は気付いた。

運が良いことに、彼女へと自分の髪を譲ることができたことに。

そして、彼女の笑顔につながっていることに。


「よしっ! また伸ばすかー!」

私は新たな目標を胸に、前に進む。


きっかけは、何気ない一言。

でも、それは彼女にとって大きな勇気。

私にとっても、大きな一歩だった。

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