6

 彼女は、何かを書いているようだった。

河川敷にいる時の彼女の過ごし方は日によって様々だが、その内の一つが、点字盤と点筆を使って紙に点字を打つ、ということだった。

 一体、何をあんなに一生懸命書いているのだろうと、俺は思っていた。

 俺は、彼女と五メートルほど距離を空けた所に腰を下ろして、彼女を眺めていた。傍から見れば、そんな俺は酷く不審に映ったことだろう。俺はこんなことを何年も続けて繰り返してきた訳だが、幸いなことに、不審者として警察に通報されるようなことはなかった。

 俺は無遠慮に、盲目の彼女を眺める。自分の網膜に、焼き付けるように。

 彼女の顔は真剣で、その手付きはスムーズだった。

そういう彼女を見て、目が見えていないのに、よくあんなに淀みなく点字を打てるなと、俺はいつも感心していた。もしかしたら、こんなことを考えてしまうのは、彼女に対して失礼にあたるかもしれないと思いながらも、それでも、そう思っていた。

 彼女は一枚の用紙を点字で一杯にすると、点字盤から用紙を取り外し、傍らに置いているカバンからファイルを取り出して、その中に収納し、新しい用紙を取り出すということを繰り返していた。

 たくさんの用紙が収められたファイルが不格好に膨らんでいるのが、確認できた。

 俺は昔から視力だけは良くて、夜中にスマホをいじったりなど目に優しくない生活をしていても、その視力が落ちることはなかった。だから、遠くにいても、彼女の子細な様子はハッキリと観察することができた。

 その日は、風がない日だった。

 そのくせして太陽の主張はギラギラと激しく、蒸し暑かった。うだるような暑さの中に、セミの鳴き声だけが響き渡っていた。

 彼女は折り畳み式の黒い日傘を肩にかけながら作業をしていたけど、俺は日傘なんて持ってきていなかったから、だらだらと汗をかいていた。

 全身にべたべたした汗が浮いていて、服はじっとりと湿り、唇を舐めると塩の味がした。

 我ながらバカなことをやっているなと思ったが、この場を去って日陰に行こうとは思わなかった。

 俺は着の身着のままで、水すら持っていなくて、その内、頭がぼんやりとしてきた。熱中症や脱水症状に近付いているなという感覚があった。

 まとわりつくような熱があった。気怠いことこの上ない。それでも、彼女を眺めていられるという事実だけで、俺の心は軽かった。そして、頭上に広がる空は清々しいほど青と白だった。

 ふとした瞬間、風が吹いた。

 全く風の吹かない日に、突然吹いた強風。夏の風。

 彼女も油断していたのだろう。

 彼女が肩にかけていた日傘は風に煽られて遠くに転がっていき、ちょうどファイルに用紙を収めようとしていた彼女はそれに動揺して、ファイルを手放してしまった。落ちた拍子にファイルから用紙が顔を覗かせ、また風が吹く。

 用紙を救い上げるように吹いた風によって、たくさんの白がその場に舞い散った。

 あとになって考えてみると、この時の不自然な風は、いつまで経っても彼女に話しかけようとしない俺をじれったく思った夏が起こした風だったのかもしれない。

 我ながら、呆れる程バカな考えだと思うけれど。


 〇


 風に遊ばれ、至る所に用紙が散った。

 彼女は見るからに焦って、大慌てしていた。いつもひとりで飄々と、ひなたぼっこする猫のように気まま過ごしている彼女ばかり見てきた俺は、そんな彼女のことを新鮮に思った。

 彼女は立ち上がって、覚束ない足取りで、手探りで用紙を拾い集めていた。

 何枚か拾い集めたあと、全てを拾い切るのは無理だと悟ったのか、彼女の顔が泣きそうに歪んだのが見えた。

 周囲には、俺と彼女以外には誰もいなかった。

 彼女の泣きそうな顔を見ていると居ても立ってもいられなくて、俺はそこら中に散らばった用紙を拾い集め、随分遠くまで転がっていた日傘を拾いにいった。

 彼女の側にそっと置いて逃げれば、気付かれないだろうと俺は楽観的に考えていたのだけれど、流石に彼女も気配で俺の存在を感じ取ったらしかった。まぁ、いくら静かに動いていたとはいえ、彼女の近くを歩き回っていたのだから、気付かれても仕方ない。

彼女の側に用紙と日傘を置こうとしていた俺に向かって、彼女は口を開いた。

「あの、誰かいますか?」

 心臓が高く跳ねた。

 彼女の澄んだ声音が俺に向けられているという事実に、体が震えた。

 一瞬、用紙と日傘だけを彼女の前に置いて、無視して逃げようかと思った。そうすべきだとも思った。俺のようなヤツは、彼女のような人と関わるべきではない。

 その時、鬱陶しいほどやかましいセミの声に混じって、彼の声が頭に響いた。「君がやりたいことは、なんだ?」と。

「あ、いや」

情けないほど震えた声が、俺の口端からこぼれ落ちた。

「もしかして、拾ってくださってます?」

 彼女の口調は、どこか迷うようだった。不安がそこに滲んでいるのが分かった。いつも見てきた彼女と違って、なんというか、人間らしかった。

 彼女を夏の妖精のようだと思い、幻想めいたもの感じていた俺は、そこで初めて彼女も自分と同じ人間であると理解したのかもしれない。

 それでも、それでもやっぱり、彼女が彼女であることは変わらなかった。

「あ、うん……、これ。えっと……」

 そう言って、俺は彼女に用紙の束と日傘を差し出した。彼女は一瞬、呆けたように固まったが、すぐに何かに気付いたように「あ、はい!」と言いながら、手を伸ばした。用紙の角が彼女の手に触れた時、彼女の肩が小さく跳ねた。彼女はそれの手触りを確かめるように、用紙と日傘をしっかり掴んで、受け取った。

「よかった」と、小さく呟いてから、彼女は顔を上げて、微笑んだ。「ありがとうございます」

 眩しい笑顔だった。明るくて、目が眩むようで、温かくて、熱くて、夏のようだった。

 そんな彼女の笑みが自分に向けられている今を、俺は夢だと思った。白昼夢を疑った。夏が見せた都合のいい幻想だと、形のない陽炎か何かに違いないと思った。

 何も言わない俺を不思議に思ったのか、彼女は少し首を傾げて、俺に手を伸ばした。細い指先が、汗にまみれた俺の腕に触れた。俺の肌に触れた彼女の熱は、紛れもない本物だった。

「わっ。あ、すみません。あの、私、目が、見えてないんです。だから、本当に助かりました」

 彼女は深々と、礼儀正しく頭を下げた。

「……どう、いたしまして」

 何を話せばいいのか分からなかった。とりあえず、俺はその場しのぎのようにそう言った。

 そのあと、妙な沈黙がその場に落ちた。俺は耐え切れなくて、バクバクと煩い心臓を落ち着かせるように胸を押さえながら、「じゃ、あ、俺はこれで」と、一歩後ずさった。

 すると彼女は「あっ」と、驚いたように口を開いて、続けてこう言った。

「あの、もしよかったら、少しお話しませんか?」

「え、あ、いや、でも俺」

「あ、このあと用事とかあります?」

「いや、用事は特に……」

「じゃあ、お話しましょう! たぶん、歳近いですよね。高校生、ですか?」

「あぁ、うん、高校生」

「何年生?」

「三年生」

「ほんと!? じゃあ一緒だ! 私も三年生。君は、この近くの高校に通ってるの?」

 戸惑いながらも俺は頷いて、そのあとで「あっ、あぁ、うん、そう」と声に出して言った。

 何が起こっているのか分からなかった。

 情けなく狼狽している俺に、彼女はぐいぐい話しかけてきた。俺が困惑しているのは伝わっていただろうけど、そんなのお構いなしに。

これは、少しあとになってから彼女に聞いた話なのだけど、彼女はこの時、俺のことを、不安を抱えている人だと感じたらしい。だから積極的に、空気を読まず話しかけた、と。他でもない彼女自身が、そうしたかったから、と。

彼女は、この時の俺が抱えていた不安めいた何かを見透かして、何とかしてやりたいと思ったからそうしたのだ。人と人の会話が不安を和らげ得ると、彼女は知っていたから。

そうやって、人の気持ちなどお構いなしに、暑苦しい光を振りまき照らす夏のように、彼女は振舞った。

俺が俺だから、話しかけてくれた訳ではない。

この時、俺と似たような不安を抱えて、冷えた心を持っている別の誰かが彼女の前に現れていたとしても、やっぱり彼女は同じように、積極的に距離を詰め、話しかけたことだろう。

彼女は、そういう人だ。

ただ、のちに彼女はこうも言った。

「君が君だったから、今の私があるんだよ」



 彼女は芝生の上に腰を下ろして、「座りなよ」と、自分の隣を叩いた。

 俺は戸惑いながらも、少し距離を空けて彼女の隣に座り込んだ。

「今日、暑いよね」と、彼女が空を見上げながら言った。

「そう、だな」

「入る?」 

 俺が畳んで渡した日傘をもう一度差しながら、彼女は言った。「あ、でもこれ小さいかな」

「いいよ、俺は」

からからになった喉を震わせて俺は言った。

当たり前のように彼女と会話しているこの状況に戸惑い、緊張し過ぎて、返って冷静になった。夢じゃないことは分かったが、夢の中にいるような気分だった。

「暑いのには、慣れてるし」

「そうなの? もしかして運動部とか?」

「いや、部活は、入ってない」

「あ、もう引退したってこと?」

「いや、そもそもやってなかった」

「そうなの? 私は入ってるよ。何だと思う?」

 いたずらっ子のように微笑んで、彼女は言った。

「えっと、いや、何だろう」

「私はね、文芸部に入ってるんだ」

 得意げに、彼女は言った。

「……文芸部?」

「うん、そう、文芸部」

「ごめん、あんまりどういう部活なのか分からない」

 ウチの高校にもあった気がするが、何をやっているのかは知らない。興味すら持たなかった。文芸と付いているので、何となく活動を想像できるような気もするが。

「文芸部は、そうだね、小説を読んで感想を書いたり、自分でも小説を書いたり、俳句とかをつくったり」

「小説を、書くの?」

「うん、そうだよっ」

「君の通ってる学校って、その、目が良くない人が、通う学校……?」

「うん、そう。あ、でも、目が見えない人だけが通う訳じゃないの。だから正確には、視覚に何か問題を抱えている人が通う学校かな。知ってた?」

 知っていた。彼女のことを眺めるようになってから、そういうことを調べたことが何度かあった。といっても、本当に少しくらいのことしか知らないのだけど。

「だからね、目が悪くても、墨字、えっと、点字じゃない文字を読める子もいるの。図書室もあるし、図書室には点字以外の本もあるんだよ」

「へぇ」

 それは、知らなかった。

「あとね、音声の本をダウンロードできたりもするの。オーディオブックって知ってる?」

「いや、知らない、かも」

 何せ俺は、普通の本すらほとんど読まない。

「本の文章をね、読み上げてくれるの、朗読みたいに。点字の本ってあんまりないんだけど、オーディオブックはけっこう色々種類があるから、私みたいに目がほとんど見えなくても、色んな本を読めるんだよ?」

「へぇ、すごい」

「すごいでしょ」

「君は、さ」

「うん」

「文芸部で、小説を書いてるの?」

 ついさっきまで、熱心に点字を打ち込んでいた彼女の姿を俺は思い出していた。

「うん、書いてる」

 得意げに、彼女は言った。

「もしかして、さっきの紙って」

「そうだよ! 私が書いてる小説。部内でもすごい評判いいんだよ、私が書く話」

「他にも、書いてる人はいるの? その、文芸部で」

「うーん、いるっちゃいるけど、しっかりちゃんと書いてるのは私だけかな。他の子たちは、好きな本の感想を言い合ってたり、あ、俳句とかをつくってる子は結構いるよ。コンクールに出して、表彰された子もいるの! すごいでしょ?」

「それは、すごいかも」

「すごいよね」

 俳句のことは、というか文芸のことはよく分からないけど、きっとすごい。少なくとも、何も成していない俺よりはずっと。そして、小説を書いているという彼女も。

「君も、すごいと思う。小説を書けるとか、その、すごい」

 何か他意があって言った台詞ではなかった。

 例え、彼女の目が見えていたとしても、俺は同じことを言っただろう。ただただ純粋に、俺にはできないことをやっている彼女のことをすごい、と。

でも、俺はそう言ったあとで、彼女はこの言葉を違う意味で受け取ってしまうかもしれないと気付いた。俺は焦って、言葉を続ける。

「あ、いや、今のは変な意味じゃなくて、純粋に君が凄いと思って……。俺にはさ、小説なんて、書けないから」

「うん大丈夫、気にしないで。分かってるから」

 そう頷いて、彼女は笑う。

「君が変な意味で言った訳じゃないのは分かるけどさ、でも確かに、目が見えないと大変なことも多いからね。だからその上で、小説を書いてる私は、本当にすごい」

 彼女は胸を張って、そして、「でしょ?」と、俺に顔を向け、明るく微笑んだ。

 彼女の笑顔が眩しくて、思わず目を細めた。

「あぁ、本当にすごい」 

 心の底から、俺は彼女という少女のことをそう思った。


 〇


「私ね、小説家になりたいの」

「それは、夢、ってこと?」

「うん、そう、夢。私の夢」

 噛み締めるように、彼女は言った。そして、俺に聞く。

「君は何か、夢はある?」

「……なんだろう、俺は夢っていうのが、よく分からない。昔は色々あった気がするけど」

「例えば?」

「例えば、正義のヒーロー、とか」

「うん」

「サッカー選手とか、宇宙飛行士とか、パイロットとか、警察官とか、消防士、とか」

「うん」

「テレビとかで見て、ちょっとでもカッコいいとか、すごいとか、良いなって思ったものは、なんでも。まぁ、子供だったから」

「うん」

 彼に言われたことを思い出す。やりたいことはないのか? と聞かれた。

 俺は彼に「ない」と答えたが、あれはウソだ。

 俺は変わりたいと思っている。今の自分を変えて、彼女の側にいても自分を許せるくらい立派な人間になって、彼女の側にいたいのだ、俺は。でも、どうやったら変われるのか、分からない。そしてそれが夢と言っていいのかどうかも、分からない。

俺の話に、彼女はただ頷きながら耳を傾けてくれた。

 俺は、彼の前では取り繕ったりすることはしないが、変なところで素直にはなれない。意地のようなものを張ってしまう。それは俺が、彼を嫌っているからだろう。

 一方、彼女の側に居ると、俺は自然と素直になれた。清流のように、淀みなく、本心が口から流れ始める。

「今の俺は大人じゃないけど、子供でもないから、見たくもない現実が見えてしまう。昔はキラキラ輝いて見えた夢も、その裏にある物凄い苦労だとか、辛い一面とか、誰もが成功できるわけじゃないっていう現実が見えて、やりたいとは思えない。夢を見れない」

「うん」

「子供じゃなくなった俺たちくらいのヤツらが見る夢っていうのは、そういう現実を全て承知した上で、もしかしたら叶わないと思っていながらも、それでも諦めきれないから、目指すものなんだと思う。俺には、そこまでして成し遂げない何かがない」

「そっか」彼女は頷く。「そっかぁ」

 彼女は感心したようにほうっと息を漏らして、「すごいね、君は」と言った。

 俺は驚く。「何が?」

「私と違って、ちゃんと現実に向き合ってる。私は何というか、そういうものを、見ないようにしてるから」

「でも、君は、小説を書いてるんだろ?」

「まぁねっ」

「少なくとも、夢を見ずに言い訳ばかり並べて何もしてない俺よりは、夢を見て、少しでも前に進んでる君の方が、偉いと思う」

「ふむ、なるほどなるほど」

 ふんふんと彼女は頷いて、「君は、私が小説家になれると思う?」と俺に問うた。

「どうだろ。俺、文学のことは全然分からないから」

「え、そうなの? もしかして本とかあんまり読まない?」

「読まないな」

「えーっ! もったいないなぁ。面白いお話がいっぱいあるのに」

 そのあと、俺は彼女が好きだという本のことを聞かされたり、他愛もないことを彼女と話したりした。幸せな時間だった。こんなに幸せでいいのか、というくらい。

 同時に、俺は彼女の隣にいてもいいのだろうか、とも思っていた。

 日も暮れて、別れ際、彼女は俺にこう言った。

「そういえば、君の名前を聞いてなかった。教えてよ、名前」

「俺は……」

 俺が名前を言うと、彼女は「そっかそっか」と嬉しそうに頬を緩ませていた。そして、自分の名前を俺に教えてくれる。

 その時初めて、俺は彼女の名前を知った。夏のような彼女によく似合っている、いい名前だと思った。

「ね、よかったら明日もここでお話しようよ。私、この河川敷で過ごすのが好きで、夏休みは大体いつもここにいるの」

 知っている。とてもよく、知っている。

「こっちには友達もいないし、いっつもひとりで暇だったんだよね。だから君がいてくれると、嬉しい。もちろん暇だったらでいいんだけどさ、ダメかな? あ、塾とかあったりする? それとも就活とか……?」

 はにかむように微笑んで、彼女は首を少しだけ傾けた。

「いや、塾は行ってないし、就活もない。……いいよ。君が、俺でいいなら。俺も大体暇だし」

 あぁ、どうしようもないヤツ。自分が彼女のストーカーだったことを棚に上げて、今のこの状況を、俺はただひたすらに喜んでしまっている。

「ほんと!? やった。じゃあ、また明日ね」

 そう言って、白杖を突きながら、一歩一歩踏みしめるように歩みを進める彼女を見て、俺はその背中に思わず声をかけた。

「送ってくよ」

 彼女のストーカーだった俺が、彼女と話をするようになった経緯と言えば、こんな感じである。


 〇


 三年生になってからの俺は、ほとんど勉強をしていなかった。

 周りが受験生として勉強に励み始めてからは、どうにも勉強する気になれなかった。

 先述の通り、俺という人間は、周りに追い越されるのを恐れたからだ。周りに追い越されたとしても、勉強していなかったのだから仕方ないという言い訳をつくろうとしていた。全くバカな話だ。あるいは、天邪鬼のような何かとも言えるかもしれない。どっちにしろ、俺がどうしようもないマヌケであることに、変わりはないのだけど。

 しかしながら、彼女と話をするようになってからは、俺は少しずつ勉強をするようになった。

 日中は、彼女と話をするために河川敷に行って、帰ってから余った時間を勉強にあてる。そうやって机に向かう時間は、今まで以上に集中することができた。

 受験をすると決めた訳じゃないが、彼女の隣にいるからには、少しでも自分を、彼女の隣にいるに相応しい人間にしたかった。

 俺が、自分というどうしようもない人間を、少しでも高められる手段は、勉強しかなかった。それしか、今の俺にやれることはなかった。

 全く以って、気持ち悪い。お前は一体、彼女の何なのだ。彼女はお前に、そんなことは求めていない。お前は彼女の単なる話し相手でしかない。

 これほど自己満足という言葉が似合う行いもないだろう。

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