影たちの時間
神野さくらんぼ
第1話
ワタシは幸子の影。
幸子の影の様な存在。だとか、影になって支えているとかではなくて。
日に照らされて地面に映る影。
晴れた昼間に出かける時はついていかなければならないけど、雨の日や夜は自由の身なのだ!
影は影なりにその世界を楽しんでいる
とは言っても影たちの時間は限られているのだけど。
幸子についている時に、貴子の影と知り合った。
幸子と貴子はただのクラスメイトで特に仲が良いわけではないけど。
本人達と影たちの関係は必ずしも同じとは限らないい。
影の掟は
影が必要な時には必ず着く事!
影ができる場所に単独で行かないこと!
たったこれだけなのだが、簡単そうで割と難しい。
社交的じゃなく、雨の日も夜も常に本人のそばにいる影なら簡単なことだろう。
でも幸子の影のように好奇心旺盛で友達付き合いが盛んだとヒヤヒヤすることも何度もあった。
**********
幸子の影は貴子の影と夜中2時ごろに待ち合わせをした。
それぞれの本人がベットに入って熟睡したことを確認してから公園で落ち合った。
公園の灯りの近くを避け、大きな滑り台の下が2人のお気に入りの場所。
影たちは物体ではないので物にぶつかることもないのだけど、私たちはいつも滑り台の下で膝を抱えて座って話していた。
他愛もない噂話や恋バナであっという間に時間がすぎ、当たりが明るくなってきてしまった。
そしてなんと幸子が朝のランニングに行こうとしていることにきづいた。
元々運動とかには興味なく、朝も苦手な幸子がなぜ急にランニング行こうと思ったのかなど考える余裕もなくワタシはまだ日の当たらない場所を選んで飛んで帰った。
影たちは飛べる。
でも、日の当たらない場所だけを選んでいたら間に合わなかったので、加速して猛スピードで明るい場所を横切った。
その時、身体にビリッッと電気のようなものが走り影が切れたかと思った。
痺れが残る身体を引きずって家まで辿り着きなんとかランニングに間に合った。
危なかった〜
今の感覚は何だったんだろ
やっぱり明るい場所は気をつけなきゃ。
***********
貴子の影は恋をしていた。
貴子が毎朝通うカフェの店員
お店の中では影は薄いのだけど、貴子が帰る時に彼も外に出ていてそこで出会ったらしい。
貴子の影が言うには男らしい影だと。
太陽の位置に関わらず彼の影はスラッとしていてしっかりとした黒なのだと。
いつも同じ時間帯に会うからじゃない?というと、昼間でもスラッとしていたと言い張る。
太陽の位置に関わらず同じなんてあるわけないから、恋は盲目というやつなのだろうか。
貴子がカフェに行ったからといって必ず彼がいるわけでもないし、いたとしても必ず影にあえるわけではなかった。
次にあったら告白してみようと思う。
貴子の影はいった。
なんとかチャンスを狙っていたところ、なんと貴子本人がその彼に告白したという。
カフェに通っていたのはそのためだったのだ。
お友達からということでお付き合いが始まったらしい。
貴子の影は自分のことのように嬉しそうに話してくれた。
これで自分も会える回数も増えるだろうという事もあるのだろうけど。
次第に貴子の影も彼の影もお互いを想うようになって、貴子と彼が手を繋いだ時はもちろん影たちも手を繋いだし、貴子と彼がキスをしたときも影たちもそうした。
ワタシも貴子の影の恋の話を聞くのが楽しみで、何度となく滑り台の下で語り合った。
************
幸子の朝のランニングはあの一回きりだった。
あのあと、影のウワサで聞いたところ
本人の突然の外出に間に合わず、慌てて飛んで帰ったのだけど、慌てすぎて陰を選ばず飛んでしまい
影が裂けた事があったそう。
そうなった場合は、新しい影が着く。
本人にはもちろん気づかれないのだけど、家族の影や友達の影たちはとつぜんの交代を受け入れるしかなかった。
*********
長い夏休みが終わって、学校で貴子に久しぶりに会った。
貴子の影にはあっていたのだけど、本人には久しぶりに。
ワタシは貴子の影をみて、一瞬で状況が分かってしまった。
違うのだ。
毎日のように滑り台の下で膝を抱えて語り合ったあの影じゃない。
数日前、貴子の影ははじめて本人なしで彼の影と会うんだと、それはそれは楽しみにしていた。
新しい貴子の影は言った。
間に合わなかったのよ。
彼の影も。
影たちの時間は限られている。
影たちの時間 神野さくらんぼ @jinno_sakuranbo
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