第25話 ケーキ
ホーキンス公爵邸ではお夕飯もいただき、その頃にはみなさまも今までのように接してくださり楽しく時間を過ごしました。
夕方にお戻りになったホーキンス公爵夫人はわたくしの姿を見ると大変お喜びになってくださりそのままこの美しいドレスをいただけることになりました。
エイムズ公爵家の馬車と護衛でわたくしとパティ様とカリアーナは寮へと送られてきました。
「明日の昼過ぎに迎えにくるね」
エイムズ様はそう言って公爵家の馬車は去っていきました。
パティ様とわかれ部屋に戻ると湯浴みの用意がされお化粧もキレイにとりました。
部屋に入るとなんと化粧台に鏡がついていました。ほっほぉ、これが本来の化粧台の姿ですわね。わたくしも昔を思い出してきました。
鏡台に映るわたくしは昔のわたくしでした。
「学園にお通いになる頃です。旦那様はお嬢様の美しさに惹かれる殿方を排除したいとお考えになりました。『嫁に行かずともよい』は本音だと思いますわ」
カリアーナはわたくしの髪を漉きながら話してくれました。
「それはそれは、ゆっくりと毎日少しずつお化粧を変えていきました。お嬢様にはお化粧後のお顔だけを見せるようにしていきました」
「ソバカスは?」
「ふふふ、ソバカスを消すお化粧ですと言っておりましたが、あれはソバカスを書くお化粧だったのですよ」
わたくしは、カリアーナのテクニックにびっくりしました。
「明日からどうしたらいいの?」
わたくしは頭を抱えます。
「明日は学園はお休みですし、エイムズ様には知られているので普通のお化粧にいたしましょう。そして学園へ行くときには少しずつこの美しいお嬢様のお顔に近づけてまいりますね」
わたくしはカリアーナのテクニックに頼ることにいたしました。
〰️ 〰️ 〰️
翌日はクローゼットを見て再びびっくりしました。知らないドレスが何枚も入っています。
「お嬢様は昨日まではありえないコルセットの使い方をしておりましたの。本来の使い方ですと、このようなドレスになりますわ。制服もそちら用にしてありますのでご安心くださいませ」
お化粧をすると確かにキレイにはなりますが素顔とそんなに変わらないと思われます。それより昨日までの化粧の方がミラクルです。
「明日のお化粧はドキドキするわ。だって、カリアーナのテクニックを見るってことですものね」
「ふふふ。そうですね。はい、できました。美しいお顔のお化粧の方がずっと楽ですわ」
真新しいドレスを着せてもらいお支度ができました。いつの間にか用意された姿見を恐恐と覗きます。
そこには昨日からのわたくしがおりました。
「お嬢様。本当にお美しいですわ」
自分の姿にフワフワした思いのまま、カリアーナに玄関まで連れて行ってもらいました。
そこにはそれはそれは大きな花束を持った美丈夫が、花束より美しい笑顔で立っておりました。
「こんにちは。コレッティーヌ嬢。今日は一段と美しいね。こんな花束では君の引き立て役にもならないな」
まあ、なんとお互いに同じことを考えておりました。
わたくしはそれを受け取りカリアーナに渡しました。
「お水にお願いね」
「かしこまりました」
カリアーナは目を伏せて口元は笑顔でした。と、思っていたらカリアーナの目からポロリと涙が落ちました。カリアーナはそれを花束で隠します。
「え? カリアーナ? ごめんね、重かった? わたくしが部屋まで持つわ。お願いよ。泣かないで」
カリアーナは右に左にと何度も首を振りました。
「違います違います。わたくしは嬉しくて。この日をずっと待っていたのです。旦那様からの指示とはいえ、お嬢様を美しく飾ることもできず、お嬢様がお顔を気にしてらしたのに、お慰めすることもできず。わたくしは花束を受け取られた時の輝くようなお嬢様の笑顔を見られて本当に幸せでございます」
あら…照れてしまいますわ。わ、わたくし、そんなに笑顔だったのかしら?
ああ、今はわかります。わたくしの顔は真っ赤でしょう。その花束を奪いわたくしが隠れたいですわ。
「カリアーナさん。コレッティーヌ嬢をお預かりしますね。コレッティーヌ嬢」
エイムズ様から差し出された手をとりわたくしはエイムズ様と一緒に馬車に乗り込みました。
どうやら到着したようです。エイムズ様のエスコートで馬車をおります。
「ここは僕の家だよ。ほら、隣を見てご覧」
そこはマーシャ様のお邸でございました。本当に近いのですね。
玄関を入りますと多くの使用人たちが頭を下げて待っておりました。公爵と侯爵では、こんなにも違うのですね。
わたくしの戸惑いを察して、エイムズ様は「大丈夫だよ」とお優しく声をかけてくださいました。
案内されたサロンは入室しただけで甘い香りが漂い、それだけで幸せな気持ちになれそうです。
「以前、マーシャの家の東屋で、君はケーキを食べられなかったろう。今日はあのケーキを用意したよ」
わたくしは嬉しくなってエイムズ様のお顔を見ました。エイムズ様は満面の笑みを返してくださります。わたくしはまだ長い時間そのお顔を直視することはできず、すぐに視線を逸してしまいました。でも、エイムズ様は怒られたご様子はなくクスリと笑っておりました。
二人でケーキの置かれた丸テーブルにつきました。
「まあ! キレイ!」
香りだけでなく見た目もとてもキレイなのです。チョコレートもツヤツヤでフルーツもキラキラで飾り花は可愛らしくてもうワクワクしてしまいます。
よく見るとすべてのケーキが三つほどにカットされております。それをメイドがその真ん中だけを取皿によそいわたくしの前に置いてくださいました。
「まあ、ありがとう! ステキね」
「お気に召したものがございましたらおっしゃってくださいませ」
年若いメイドが気を配ってくれます。
「こんなにあれば充分よ。でも、どうしてカットしてあるの?」
「アハハ、だって、どれも食べてみたいだろう? 僕だっていろいろな味を楽しみたいしね」
エイムズ様のお皿にもわたくしの半分ほどのケーキが並べられておりました。なんて素敵なアイディアなのでしょう。
「まあ! 素晴らしいですわ。嬉しい! ありがとうございます!」
「では、いただこう!」
「はいっ!」
それはもうどれもこれも美味しくてひとつ食べてはお話をしてひとつ食べてはお話をして本当に楽しいです。
そして、そろそろと思ったタイミングで淹れたてのお紅茶が運ばれます。
お紅茶をいただき驚きました。
「エイムズ様。このお紅茶は!」
「うん、マーシャからの受け売りだけどこれは本当にケーキに合うからね」
お紅茶はケーバルュ厶王国のものでした。
「それより、コレッティーヌ嬢。そろそろ僕を名前で呼んでほしいな」
『コホコホ』わたくしは少しむせました。エイムズ様は慌てて背中を擦ってくださいます。
「ゼ、ゼンディール様。ありがとうございます」
ゼンディール様は一瞬驚かれましたがすぐに笑顔になりました。その笑顔は今までの中で一番キラキラなさっていて、わたくしがその笑顔にさせたのだと思うと心が温かくを超えて熱くなってしまいました。
『ドキンドキン』して苦しいです。
一通りケーキをいただくとメイドが下がります。わたくしはその際とても美味しかったのでみなさんで食べてくださいとお願いしました。メイドはとても驚きゼンディール様のお顔色を見られます。ゼンディール様もわたくしに賛成してくださりメイドは喜んで下がっていきました。美味しいものは人を幸せにします。幸せのおすそ分けはこちらも嬉しくなりますわね。
ゼンディール様のエスコートで今度はソファーへと案内されました。ゼンディール様はまたお隣に座っておられます。
「あのね。空回り男の話には続きがあるんだよ」
ゼンディール様はわたくしの手を握りその手を見ながらお話を始められました。
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