第132話 誇り

「……なんてことだ……」


 俺はあまりのことに言葉を失った。


 何故なら完全に倒したと思い込んでいたからだ。


 念のために追い打ちの一発も放った。


 にもかかわらず生きていたというのか。


 信じられない思いだった。


 すると沈み込んでいる俺を励ますようにリリーサが言った。


「仕方がないわ。それ以上気にしないことよ」


「……だけど……」


「貴方はよくやったわ。トリスト相手に戦えるのは貴方だけだし。ネルヴァとレイナですらトリストには敵わなかったのよ?その相手に貴方は勝った。それは誇っていいはずよ」


 リリーサの慰めは心に沁みた。


「ありがとう」


 俺はリリーサに対し、心からの感謝を込めて言った。


 するとリリーサが何やら照れたような笑みを浮かべた。


「そんな……素直にお礼の言葉なんて言わないでよ……」


 うん?


 何で?


 どういうこと?


 俺がリリーサの真意を測りかねて戸惑っていると、何やら思い出したように問い掛けられた。


「そうだ。ところで黒幕の正体はわかったの?」


 ギクッ。


「それは……その……」


 俺が答えに窮していると、背後から良く通る声が響いた。


「それならば、此奴に聞いてみよう」


 ジトー侯爵であった。


 後ろにはネルヴァとレイナもいる。


 それに、ジトー侯爵の部下たちが何やら見たことのない丸っこくてブヨブヨとした生物を連れていた。


「え~と、それは、何?」


 戸惑う俺に、ジトー侯爵が明快に答えた。


「トリストの部下の悪魔だ。名をジャイロという。部屋の隅に隠れていたところを見つけて、連れてきた」


「お!じゃあ!」


「そうだ。黒幕の正体を知っているはずだ」


 するとジトー侯爵が右手を前に出し、ジャイロを前に突き出すよう指示を出した。


 侯爵の部下たちは無言でうなずき、ジャイロを引っ立て、俺の目の前に引き出した。


「お前、黒幕を知っているのか?」


 俺の怒気を孕んだ問いに、ジャイロは少し怯えたように身体を反らした。


 俺は少しイラッとし、さらにもう一度尋ねた。


「おい、聞いているんだ。黒幕の正体を知っているのか?」


 だがジャイロは身体ごとそっぽを向いて答えなかった。


 俺はトリストを逃がしてしまったこともあり、気が立っていた。


 そのため、早々と強硬手段に打って出ることにしたのだった。


 俺は右手を突き出し、意識を集中させた。


 すると俺の右手から電光がほとばしり、バチッバチッと放電の音が鳴り響いた。


 ジャイロはその様子を横目でチラと見て、怯えている。


 俺はニヤリと笑い、とどめの一言を言い放ったのだった。


「これで答えなければ次はない。お前はあえなく黒焦げだ。わかったな?では聞くぞ。黒幕は一体、誰なんだ?」

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