第131話 消えたトリスト

「なんだってぇっ!!」


 俺は思わず叫んだ。


「嘘だ!どう考えたって、奴は死んだはずだ!」


 だめ押しのケルンドグスも喰らわせたんだぞ。


 それでもピクリともしなかったんだ。


 なのに消えただと!?


 そんな馬鹿なことがあるものか!


 リリーサが心配そうに俺をのぞき込む。


「本当に確実に倒したの?」


 俺はすかさず答えた。


「ああ!間違いなく倒したはずだ」


 俺は改めて先程のトリストの様子を思い起こした。


 だが確かにトリストの身体に触って確認したわけじゃない。


 見落としたのか?


 本当はまだ生きていたのか?


 するとリリーサが俺の顔をのぞき込みながら大声を出した。


「ねえ!ちょっと!とりあえず確認にいくわよ!」


 俺は戸惑いながらも同意した。


「あ、ああ。そうだな。行こう」


 するとリリーサが、ジトー侯爵に振り返って言った。


「ちょっと二人で行って見てくる。おじ様はネルヴァとレイナをとにかく回復させて!」


 そう言いつつリリーサは既に駆けだしていた。


 俺は慌ててその後を追う。


 くそっ!


 本当なのか?


 トリストは本当に生きていたのか?


 俺は自問自答しながら、全速でリリーサを追いかけた。


 リリーサは飛ぶように走る。


 追いかけるだけで精一杯だ。


 左肩の傷口がうずく。


 くそっ!


 俺は必死で階段を駆け上った。


 すると先を行くリリーサが階段を上りきり、そこにいたジトー侯爵の部下に問い掛ける。


「どっち!?」


 部下たちは一様に中庭を指さした。


 リリーサは無言でうなずき、そのままの勢いで中庭へと向かう。


 俺は左肩を右手で押さえながらその背を追った。


 するとジトー侯爵の部下たちが十人ほどで中庭にいた。


 リリーサが大声で問い掛ける。


「そこなの!?そこで消えたの!?」


 リリーサは問い掛けながら、あっという間に現場に到着した。


 部下たちは皆厳しい顔でうなずく。


 リリーサはうなずき返し、焼け焦げた芝生を睨みつけた。


 俺はようやく追いつき、リリーサと共に芝生を見た。


「くそっ!本当に……いなくなりやがったのか……」


 俺の力ないつぶやきを聞いた部下が答える。


「はい。我々は貴方の戦いを注視しておりました。そして貴方が戦い終え、地下に向かった後、トリストの身体がうごめいたのです」


 俺はその部下を見つめ、その先を急かした。


「それでどうした!?」


 部下は厳しい顔つきのまま、答えた。


「我々がうごめきに気付いた直後、霞が散るように、トリストの身体が虚空に消え失せたのです」

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