第130話 地下室へ

「ふう、勝った。ギリだったけど」


 俺はもう一度大きく息を吸い込み、一旦止めてから、ゆっくりと吐き出した。


 だがそこで、リリーサたちのことを思い出した。


「そうだ!リリーサたちはどうなった?」


 俺は慌てて踵を返して駆けだした。


「ネルヴァたちはいたのか?くそっ!手間取った!」


 俺は一目散で建物の中へと入ると、とりもなおさず地下室へと向かった。


 すると前方に、階段下をのぞき込むジトー侯爵の部下たちが見えた。


「おい!ネルヴァたちは見つかったのか?」


 駆け寄りながら問い掛ける俺に、ジトー侯爵の部下が慌てて答えた。


「わかりません!我らは待機するよう命じられましたので」


「そうか!わかった。俺が行く」


 俺はそう言い捨てると、地下へと続く階段を急いで駆け下りた。


 すると目の前に切り裂かれた扉が。


「リリーサか?それともジトー侯爵か?」


 俺はその凄まじい切れ味に舌を巻きつつも、そのような考察をしている暇はないと思い、一気に廊下を駆け抜けた。


 すると前方に何やらうごめく影が。


「リリーサか!それにジトー侯爵!」


 するとその奥に傷つきながらも、しっかりと顔を上げたネルヴァとレイナの姿が見えた。


「ネルヴァ!レイナ!」


 すると四人が一斉に振り向いた。


「アリオン!無事かッ!」


 リリーサが厳しい表情ながらも、わずかに笑みを浮かべながら言った。


 俺はすかさず答えた。


「当たり前だ。そっちも良かった!無事だったか」


「ふん!こちらこそ当たり前だ!ていうかお前、かなりの深手じゃないか」


 リリーサが俺の肩口を見やりながら心配そうに言った。


「ああ、でも大丈夫。問題ないよ。それよりネルヴァたちは大丈夫?」


 するとネルヴァが微笑みながら答えた。


「ええ、大丈夫ですよ。今、ジトー侯爵に治療してもらっていたところです」


 続いてレイナが言う。


「わたしも大丈夫だ。心配掛けたな」


「いや、良かった。本当に良かった」


 するとリリーサがすかさず言った。


「貴方もついでにおじ様に治してもらったら?」


 俺は眉尻をピクリと上げた。


「いいよ、別に。自分で治せるし」


「本当かしら~?貴方治癒魔法は得意じゃないでしょ?」


「得意ではないけど、これくらいは治せるさ」


「そう~?」


 リリーサが懐疑的な目を俺に向けてくる。


 うるさいな。


 大丈夫だって言ってるってのに。


 俺が心の中でぶつくさと文句を垂れていると、ドタドタと大きな足音が近付いてきた。


 何だろうと見ると、先程のジトー侯爵の部下の一人だった。


 彼は、俺たちの姿を確認するや、大声を張り上げたのだった。


「大変です!トリストが……トリストの姿が忽然と消え失せました!」

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