第129話 掌合わせ

 トリストの鋭い切っ先が、俺の目の前まで迫る。


 半ば死を覚悟した俺は、一瞬のひらめきで両掌を顔の前でバチンと合わせた。


 手のひらに冷たい金属の感触が広がる。


 と同時に鋭い痛みが走った。


 そして両の掌から鮮血がほとばしる。


 だが俺は挫けず、渾身の力を両腕に込めた。


「うおぉぉぉーーーーー!!」


 俺は全身の力を使って、身体をよじった。


 すると、ギリギリのところで切っ先が俺の顔を通り過ぎた。


 俺はすかさず身体を屈伸して、トリストの身体を蹴る。


 するとその反動で俺は身体のバランスを崩すも、トリストから距離を取ることに成功した。


 そして俺は身体を反転させつつ飛行術を発動して空中に止まり、静かに下降して着地したのだった。


「ぶふうっーーー!」


 俺は大きく息を吐き出すと同時に寸前の窮地を思い起こし、全身に鳥肌を立たせた。


「あぶねえ……今のは本当にあぶなかった……」


 するとそこで、切り裂かれた左肩の痛みが俺を襲った。


「ぐぅ……」


 俺はすかさず右手を左肩にかざし、治癒魔法をかけた。


 するとゆるやかに痛みが和らいでいく。


 だが肩の傷は深く切り裂かれており、俺の治癒魔法ではすぐにそれをふさぐ術はなかった。


「くそっ!治癒魔法だけは不得手なんだよな……」


 俺はそう愚痴をこぼすも、対するトリストはそれどころではなかった。


 トリストの腿から先は、ディヴァインシールドの発動によって切断されている。


 トリストはおびただしい血を流しながら、地面にうつぶせに突っ伏していた。


「死んだのか?それとも、死んだふりか?」


 俺は左肩の治療を続けながら、ゆっくりとトリストに近付いていった。


 トリストは微動だにしない。


 だが先程のこともある。


 これ以上不用意に近付くのは、危険だ。


 俺はトリストまで五メートルほどのところで立ち止まった。


 そして、無慈悲に雷帝爆撃を繰り出したのだった。


「ケルンドグス!」


 雷光が煌めき、トリストを襲う。


 爆発音と共に炎が上がる。


 だがトリストは動かない。


 やはり死んだのか?


 俺は目をこらしてトリストを見た。


 やはり微動だにしない。


 だが俺は念のため、もう一度雷帝爆撃を敢行した。


 幾条もの光が降り注ぎ、爆発音を立てる。


 炎はいや増し、黒煙が噴き上がる。


 だがやはりトリストは動かなかった。


 俺はそこでようやくトリストの死を確信し、安堵の吐息を漏らすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る