第128話 噴き上がる黒煙

 トリストの身体が炎に包まれながら、落ちていく。


 俺はその様を見て、勝利を確信した。


 俺はゆっくりと息を吐き出し、トリストを追って静かに降下していった。


 トリストは炎と共に噴煙を巻き上げながら落下し、ついに館の中庭へと墜落した。


 巨体と大地の衝突に、凄まじい衝撃音が鳴り響く。


 だが周囲には建物らしきものなど何もないため、騒ぎになるようなことはなかった。


 俺はさらにゆっくりと降下していき、いまだもうもうと真っ黒な噴煙を巻き上げるトリストのすぐ近くに着陸した。


 見るとトリストはうつぶせで倒れ伏し、微動だにしない。


 俺はゆっくりと余裕を持って近付いていった。


 一歩、また一歩と近付いていく。


 その時、突然悪寒が走った。


 何故だかは判らなかったが、嫌な予感がした。


 俺は思わずそこでピタリと歩みを止め、立ち止まった。


 その瞬間、噴き上がる黒煙の中から黒い影が飛び出してきた。


 トリストだった。


 トリストは巨体を脱ぎ捨て、元の身体でもって煙の中から剣を突き出し、突進を仕掛けてきたのだ。


 俺は咄嗟に瞬間移動を発動し、右に逃れようと試みた。


 だが、俺の動きよりも敵の動きの方が速かった。


 銀色の煌めきが、俺の心臓目掛けて迫り来る。


 俺はわずかに身体をよじって、繰り出された剣先から逃れようとした。


 鋭く光る剣が、俺の胸をかすめる。


 だが俺は完全には躱しきれず、左肩を切り裂かれてしまった。


「ぐっ!」


 俺は痛みを堪え、そのまま瞬間移動でもって距離を取ろうと試みた。


 だがトリストはすかさず方向転換を図り、さらに俺目掛けて突進を仕掛けてくる。


「ボルテックスピアー!」


 俺はすかさず最速の雷撃戦槍を放った。


 電光石火の一撃がトリストを襲う。


 爆発音が鳴り、トリストが炎に包まれた。


 だが、トリストの突進は止まらない。


「ディヴァインシールド!」


 瞬間、俺の目の前に半透明な盾が展開されるはずだった。


 だがトリストの突進の方が速かった。


 そのためディヴァインシールドは、トリストの脚の辺りで展開されることとなった。


「ぐっ!」


 トリストがうめき声を上げる。


 見るとディヴァインシールドの展開によってトリストの脚は無残にも切断され、おびただしい鮮血が噴き上がっていた。


 だが、それでもトリストは止まらなかった。


 後方に向かって全速で飛ぶ俺を追いかけ、鋭い切っ先を向けてくる。


 万事休す!


 俺はその瞬間半ば諦め、死を覚悟したのであった。

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