第24話
「人間を見放したくせに、なんで魔物討伐に出陣した?」
人間と召喚獣の契約を破棄したのは、まぎれもなく目の前にいる獣王ライズの意向だ。
その本人が魔物討伐に自ら訪れ、討伐の仕方まで世界中の仲間に共有する理由。
言っていることとやっていることが違う、王の真意を知りたかった。
「確かに、我がすべての召喚獣と人間の契約を破棄した。人間同士の争いの道具になるために、古の契約を交わしたわけではないからな。しかし、今まで守ってきた街と人間を魔物に破壊されるのは好かぬ。我らが行ってきたことを無駄にする行為そのものだからな」
忌々しい記憶を思い起こし、不機嫌さを露わにするライズ。その場にいるだけで他者に威圧感を与えられる者が感情を表に出すだけで、空気そのものが重くなったように感じた。
「つまり、人間に思い入れがあるわけではなく、あくまで気に食わなかったってだけか?」
俺のさらなる問いに、ライズは無言を返してくる。それを俺は肯定と受け取った。
確かに、自分たちがしてきたことを無駄にされるのは、誰しも怒りや悲しみを感じる。
特に獣王の場合は、他の召喚獣たちが対処できないレベルの魔物が暴れているのを知り、我慢ならずに出陣してきたということか。
「人間が愚かなことは嫌と言うほど理解した。人間を守りたい者は好きにすればいい。だが、我が王で在る以上、種全体として人間と契約を交わし、召喚に応じることは二度とない」
古の契約をしたのは、現王のライズではない。あくまで契約を引き継いだだけで思い入れがないライズの立場から見れば、契約にないことにまで召喚を使い始めた人間たちを見限るのは当然の流れとも言えるだろう。しかし、
「確かに、人間にはどうしようもない悪い奴らがいる。けど、そいつらより遥かに多くの良い人たちもいる。召喚獣になったとはいえ元人間なら、親や兄弟、恋人や友人。愛情をくれた人たちがたくさんいただろ? そんな温かい心を持つ人間たちが、魔物にやられるのを黙って見てるってのか?」
召喚獣として人間に思い入れが無くなっても、元人間として人間たちに想いはあるはずだと、俺はライズに訴えるように語りかけた。
「どうしても人間を守りたい者は、個別契約すればいい」
「それじゃ、個別契約していない人間や遠く離れた場所にいる者は、魔物の脅威から守れない」
「魔物の脅威が残っていても、我ら召喚獣を用いて人間同士で争うことは実証された。そんな愚行を犯す人間たちを守る気はもうない」
「それなら新たな契約を結べばいい。古の契約は人間の召喚に無条件に応じて指示に従う内容だった。だが、新たに召喚獣側から召喚後に指示に従うか否か、選べる権利を条件に入れればいい。そうすれば人間同士の争いに加担しなくてもよくなる」
「そんなことはすでに検討済みだ。しかし、人間同士の争いに召喚させられた者ほど、召喚だけでなく、契約にすら応じたくないと言っている。王として、彼らの意見も無下にはできない」
俺とライズの言い合いは平行線をたどる。
召喚されること事態が少なかった俺には、人間同士の争いに参加させられた召喚獣たちの思いは当然わからない。獣王が契約破棄するほど、悲惨な状況だったのだろう。
しかし、契約の破棄は召喚獣全員の総意ではないし、選択の自由すら奪われた形。それが俺にはどうしても納得いかなかった。
「それは──」
「──どのような意見やアイデアを言われようと、我が再契約をすることはない」
俺の言いかけた言葉を、ライズは即座に遮って断言する。
彼の意思は固いようだ。ライズ個人を説得するには、機会も時間も圧倒的に足りない。何度も話し合えば考えを改める可能性はゼロではないが、俺は獣王と対等に話し合える立場でもなければ、信頼関係もなかった。
そんな俺が取れる行動はこれだけだ。
「その座席、勝ち取りに行かせて貰うからな」
最強の召喚獣に対し、俺は挑発とも読める宣戦布告の言葉を吐く。
やはり俺自身が獣王となって、新たな契約を人間たちと結ぶのが最善だと改めて思った。
「ほぅ……」
その意味と意図を悟ったのか、ライズは面白いものを見たように小さく呟くと。
「我に吠えたこと、忘れるなよ?」
挑戦いつでも待っているぞ、と言うようにニヤリと不敵な笑みを浮かべ、リュールウと一緒に空気に溶け消えていった。
「ふう……生きた心地がしなかったね」
ライズと俺のやりとりを黙って眺めていたミューが、額の汗を拭う仕草をする。
「シャノバさん……」
パートナーを獣王にさせると決めたとはいえ、現獣王の圧倒的な存在感に委縮したのか、ルアンも心配そうに見つめてくる。
王の威厳と権力。圧倒的なマナ量。
どれもが今の自分にはない強大な力。少しでも自分を疑ってしまえば、たどり着けない境地。
強い意志と多くの努力がなければ、一生成し得ることがないだろう。
具体的で詳細な算段があるわけではなく、きっと実現できるはずだと信じる道をむしゃらに突き進むしかない。
正直、不安がないと言えば嘘になるが、そんな気持ちを吹き飛ばすように、俺はルアンの瞳を見つめながら、力強い声音で告げた。
「今はまだ、ライズを超えるイメージすら湧かないが、俺は絶対に獣王になる。絶対だ」
ライズと考えが違うことはハッキリをわかった。俺と同じ考えの力ある者が、現状を変えようとする動きが見られない以上、誰かがやらなければいけないなら俺がやる。
より明確に重さを増した決意と信念を胸に、俺はグッと拳を握った。
「シャノバさんを獣王にするまで、私も道を違えず支えます。私も、人間たちに手を差し伸べられる人に、獣王になって欲しいです」
ルアンも不安や迷いを振り切ったのか、炎の灯った瞳で見つめ返してくる。
俺とルアンの二人なら高みを。絶対に獣王を目指せる。
そう思わせてくれる小さな召喚獣に、俺は共感を示すように頷いた。
「私はあまり力になれないけど、二人を応援するよ」
近くで見守っていたミューが、元気な笑顔をたたえながらガッツポーズをとる。
「ミューがこの場にいてくれて助かった。改めて感謝を」
「もー、照れるからやめてよ」
命の恩人は恥ずかしそうにしながらも、頬はしっかりと上がっていた。
「ほら、シャノバさんのお母さんを迎えに行ってあげて。人間たちには、私から状況を説明しておくから」
「ありがとう。また店に遊びに行く。今度は母さんも連れてな」
「うん。ぜひ三人で来てね」
ミューはそう言うと、無事だった街のほうへ向かって歩いていく。
街そのものが無くなって、すぐに状況を説明できる映像も証言者もほとんどいないはず。一部始終を見ていたミューが、人間たちに説明をしてくれるのは有難い。
何から何までお世話になりっぱなしのミューの背中に、俺は頭を下げた。
「それじゃあルアン、案内を頼む」
「はい。シャノバさんのお母さんを迎えに行きましょう」
共に瞬間移動をするため、ルアンは手を差し出してきた。
人間も召喚獣も、命は他者の存在によって支えられている。
一人では立ち行かず、成し遂げられないことも、一人が二人、二人が三人と助け合えば、大きなことを達成できると、今回のことで心の底から痛感した。
夢は夢のままで終わらせない。必ず手に入れると誓い、前へ進んでいくからこそ現実となっていく。
俺はルアンというパートナーと、ミューという仲間の存在に温かさを感じながら、彼女の手にそっと手を重ねた。
わらしべ召喚獣~最弱にも最強にも成れる俺が獣王を目指す理由~ タムラユウガ @tamu51
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