第24話:人に取り入りたいなら周りから
話の展開が早いと読者は置いてけぼりになりがちだ。
だから説明を付け足したり、要所要所の描写を太くするんだって誰かから聞いた覚えがある。
今の展開はおおよそその「展開が早い」にあたるのではないだろうか。
ちょっとー! わたしが読者だったら真っ先に声上げてますよー! ネット弁慶を舐めるな。
「えーっと、尊花さんが何でここに……」
「なんで、って心配だからに決まってるよ! さっき美鈴ちゃんが寝苦しそうにしていたから、タオルを濡らしに行こうと思ってキッチンに行ったら、ちょうど咲耶さんが帰ってきて話し込んでたんだ!」
え、なにその偶然にしても出来すぎている話は。
というかわたしのお母さん(異世界)の名前って『咲耶』だったんだ。初めて知った。
「わたしもね、最初は誰かしら。強盗? みたいに思ったんだけど、話してみれば美鈴ちゃんのお友だちっていうじゃないですか! あの美鈴ちゃんにお友だちができるだなんて……。そう思ったらお友だち、尊花ちゃんと話していたんです」
つまり、尊花さんは近所のおばさま感覚でわたしのお母さん(我が家のおばさま)と話していたと。
コミュ力化け物か。
「ごめんなさいね、尊花ちゃんのことばかり聞いてしまって」
「いえいえ、いいんです! わたしも美鈴ちゃんのお母さまと話せて嬉しかったですし!」
「……よく出来た子。尊花ちゃんのお母さまともお話しないと」
「あ、じゃあ……」
あっという間に距離感を詰めていくお母さんと尊花さん。
なにこれ。これが陽キャの距離感なの? 怖い。陽キャ怖い。
尊花さんのコミュ力は知っていたけれど、まさかお母さんもこれほどとは。
いや、わたしが『相沢美鈴』を乗っ取っただけで、お母さんは元からこうだったのかも。陽キャの母はコミュ強。なるほど、一理ある。
「尊花ちゃんもお夕飯食べます?」
「いいんですか?! ぜひ! お母さんに連絡入れておきますね!」
いつもの5倍か、それ以上か。
エプロンを上から着て、腕まくりする母に違和感しかない。
これが本当の相沢咲耶。これがわたしのお母さん(転生後)……!
「ふっふふ~ん♪」
もはやついていけなさすぎて、とりあえずリビングのソファーに座った。
どうしよう。脳の処理がぜんぜん追いつかない。右を見ても陽キャ。左を見ても陽キャ。わたしはもう窓だけ見てればいいかな。あー、なんという夕焼けなんだ。キレイダナー。
「美鈴ちゃん、もう大丈夫なの?」
「あ、はい。もう平気です」
唖然としているわたしを優しく触るように、尊花さんがわたしの隣に座る。
改めて、わたしには縁遠い存在なんだな、と自覚する。ギャルゲーのヒロインだったとしても、こんなにコミュニケーション能力が高いとは知らなかった。
そんな彼女を尊敬の念で見つめるわたしに何を思ったのか、ピースする尊花さん。
うっ?! なにその可愛いポーズは?! かわいすぎるだろ反省しろ!
「ど、どうしたんですか……?」
だが動揺を表には出さないのが淑女のたしなみである。
努めて冷静に返事をしてみた。
「なんか見つめてくるなー、って思って! 元気出た?」
「それはもうハチャメチャに!!!!!!」
冷静ではなかった。
「えへへ、そう言ってくれると嬉しい! ……って、どうしたの?!」
思わず頭を抱えた。
かわいい。最推しがこれでもかっていうぐらいかわいい……。
かわいすぎて、発作を起こしてしまう。急性尊花摂取症を!!!!!
「やっぱり風邪がまだ……」
「い、いえ!!! その。なんでもないので……!」
「う、うん……」
すごいドン引きされた気がする。
最推しにドン引きされる。その界隈ではきっとご褒美なんだろうけど、わたしにとってはメンタルダメージ大である。
なんとか話をそらそう。努めてわたしは冷静に話のネタを探す。
「そ、そういえば。さっきお母さんと何の話をしていたんですか?」
なんという自然さ! さっきの発作がなければ、さらに良かったとも言える!!
「んーと、学校ではどんなことをしているのかー、とか。どんな子と仲がいいの? とか! まゆちゃんも紹介してほしいって、お母さま言ってたよ!」
「……そういえば学校の話とかしてなかったなぁ」
ん? 今わたしのお母さんのこと、お母さまって言った? 気のせいか。
「美鈴ちゃんはお母さんと喋らないの?」
「まぁ、うん。気まずいっていうか……」
何しろ自分の家に他人がいる感覚が1年もあるのだ。
感覚には慣れたけど、交流ができるかは違う。引きこもったこともあって、少し気まずいんだ。
「わたしから自分のことをあまりしゃべらないし」
「……そっか」
地雷を踏んだと思われたかな。実際その通りだけど、そんなにしょんぼりされるとちょっと困ってしまう。
ここは軽快なジョークで笑い飛ばすか? ムリだ。わたしには転生ブラックジョークしかできない。
「そうだ! まゆちゃんのことを話したら、お母さま嬉しそうだったよ! 尊花ちゃんだけじゃないんだー、って!」
「どんだけコミュ障だと思われてるんだか……」
「そうじゃないと思うけどなー」
え? それってどういうことだろうか?
漏れてしまった言葉に、思わず目線をそらした尊花さんがキッチンを見る。
まだお母さんは料理を作っているみたいだった。
「なんだろうね、今日のご飯!」
「え? うーん、オムライスとか」
「いいねー! 美鈴ちゃんは好き?」
「ま、まぁ……」
陰キャに「好き?」とか言わないでほしい。惚れてしまう。
話の流れでそうではないと確信できるが、それは別として好きなものはあまり気軽に言えないのも陰キャだ。
何しろ好きって言ったものを否定されたら怖いから。
ちなみにオムライスは大大大好物です。
「こ、子供っぽいとか、思いますか?」
「ううん、ぜんぜん! 私も好きだし、オムライス」
「その、どんなのが……」
あぁ、質問がめちゃめちゃチグハグだ。
もっと「洋食屋さんのオムライス? それともレストランとかのオシャンなやつ?!」って食い気味に言うべきだ。食い気味は余計か。
「んー、私はオムレツみたいなやつかな!」
「へー。もっとオシャレなやつが好きだと思ってました」
「もうー、私をなんだと思ってるのさー!」
そりゃ陽キャの中の陽キャですけど!?
「あの洋食屋さんに出てくるみたいなオムライスが、親しみやすくて好きだなーって」
「……わかります! 素朴だけど綺麗で、ケチャップを飾るだけですごく輝いて見えるから!」
「えへへ、一緒だね!」
はうっ! 最推しの笑顔! 死ぬ!
まぁわたしは死んでるんですけどね! はい転生ジョーク! 自分でサムいと思ったので、却下かな。
「嬉しいな、美鈴ちゃんと同じ好み」
「そうですか?」
「そうなんです! 美鈴ちゃんはもっと自覚を持ってください!」
「え、なんの……?」
「そういうところだよ?」
何の話だ? わたしと同じ好みだったからと言って、何の特典があるんだろうか。
自覚って、陰キャの自覚しかないが……。
「ふたりとも、ご飯できましたよー!」
「じゃ、行こっか!」
「え?! は、はい」
終始置いてけぼりだった。
同じ好みが嬉しいのはわたしの方なのに。それが言えなくて残念だ。
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