第2章:風邪引き→交流→グラフィティ

第19話:精神は健全な肉体に宿る。つまり陰キャは弱い

 山というものは基本的にずっとは続かない。

 続いたらいつかは宇宙にだって行けてしまうけれど、世界一を誇るエベレストでさえ宇宙には辿り着けていない。だからずっと続かない。


 人生においてもその通りだと、常々思っている。

 この20年+1年で得たことは幸せはみんなが思っているよりも、ものすごい勢いでいなくなるということ。


「あー、体調だる」


 人生山ありゃ谷がある。昨日、友だちと街に行った翌日の朝。

 そう! 今わたしは昨日張り切りすぎて、体力を使い果たし……。


「これは風邪かな」


 熱を出しました。

 あー、自己管理能力のなさが悔やまれるーーーーーー!!!!!

 いつも通りお母さん(転生後)は朝早く仕事に出かけてしまった。要するに、いま家にいるのはわたしだけ。学校に電話をかけるのもわたし。でも知らない人に電話をかけたくないわけでして。


「無理して行くしかないか」


 鉛のように重たい四肢と頭を一生懸命動かして、制服へと着替えていく。

 多分いま世界一頑張ってる。だって風邪なのに学校に行こうとしてるんだよ? 引きこもりだった頃に比べたらめちゃくちゃ優等生。

 それもこれも全てクラスの見本足りえる委員長がそばにいるから。

 要するに尊花さんに会いたいだけなんだ。


「大丈夫。尊花さんに会えればそれでいいんだから」


 会って、ちょっと喋って、そうしたら体調悪いってことで早退しよう。

 頑張らないがポリシーのわたしちゃんなんだ、大丈夫。引き際は分かってる。今はまだ行けるんだから。


 思うように体が動かないし、気のせいか目の前がぼんやりと眩んでいる気がするけど、きっと気のせい。

 わたしが悪いんじゃない。周りの環境がなんかそんな感じにぼやけてるのだ。


 外は涼しい。春頃も5月ともなればだいぶ過ごしやすくなってくる。

 火照った体にはちょうどいい。ナイス天候。話せば分かるじゃないか。

 もったり、もったり。足取りがあまりにもゆっくりだ。ちゃんと前に向かって歩いてる? ホントに?

 本当です。決して壁に数回当たったり、車の走っている道路にはみ出しそうになったりしてません。


「……美鈴ちゃん?」


 どうやら神様の神託を得る時が来たのかも。

 神様、というか天使のささやき? このわたしが天使である尊花さんの声を間違えるわけがない。

 でもどうして尊花さんがここに? 確かに同じ方向だから登校経路がどこかではぶつかると思うけど。

 あれ、委員長のお仕事はどうしたんだろう。もっと早くに出てると思うし……。あれ?


「美鈴ちゃん大丈夫?!」

「え? 尊花さん? なんでこのじかんに」

「こっちが聞きたいよ! って、身体熱っ!」


 熱いかな。熱いかぁ。だって外の風が冷たいし。

 いつの間にか冬の終わりに来たみたいだ。吹く風がなんだかちくちく刺す痛みに変わってるし。天候さん分かってるのぉ?


「……っ! 美鈴ちゃん、家はこの辺?!」

「え? がっこうはあっち」

「美鈴ちゃんの! 家は?!」

「あー。あっちかなー」


 あ、尊花さんの身体、ひんやりしてて気持ちいい……。

 尊花さんがわたしを肩で抱いているような感覚がする。ひゃぁ、顔がかわいいんだからそういうことしたら男の人はみんなイチコロですよぉ。

 こんなところ見られたらまゆさんに誤解されちゃう。はなれなきゃ。


「わあっ! 美鈴ちゃん動かない!」

「いやだー、かんちがいされちゃうー!」

「ほら、大人しくして! あとでジュースおごってあげるから!」


 じゅーす。そっかじゅーす。何がいいかな。

 やっぱりイチゴミルクかなぁ。でもオレンジジュースも捨てがたいし。


「おうちはここ?」

「あれ、もどってきてる。なんで?」

「ここみたいだね。ごめん、カバンもう1回漁るよ!」


 いえもちかいし、きょうはもうねようかな。

 とうかさんも いっしょに いる し……。


「とうかしゃん、ひんやりしてるぅ」

「美鈴ちゃんが重傷だ! えっと鍵。鍵……。あった!」


 なんか おばあちゃんの かいごを、されているきぶん。

 さっきより あしもとが おぼつかないし。

 かってに とびらがあいた。すごーい。いつのまに 家がおーとろっく? になったの?


「お母さんは?」

「いせかいにいるよぉ」

「いないんだね! 部屋は?!」


 もう きりょくもないから 2かいの かいだんを ゆびさす。

 なんか あたまが ぐるぐるする。じぶんのいえなのに だんじょんに もぐりこんだきぶん。


「ここだ!」


 ……。そういえば とうかさんって わたしのへや、を……。

 もうだめ。いしき、が……。


「美鈴ちゃん? 美鈴ちゃん! もう、無茶するんだから!」


 それ以降の記憶はない。

 だって、目を覚ましたのは数時間後のことだったから。

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