第17話:すれ違いレストラン
イタリアンレストラン・タイゼリヤ。
決してバンコクの方のタイではなく、イタリア料理を主に出しているレストランである。
これと言って好きなものがあるわけではないけど、美味しいものは好きなもの。1番はないけど、同率1位が複数存在する、みたいなよく分からないお店だ。
俗に言うファミリーレストラン。それゆえにお昼時は家族連れのお客さんが多い。
あぁ、これが休日の昼間なんだなーと、お冷を一口。はぁ、生き返る。
「美鈴さん、どうする?」
「…………」
「どうかした?」
「いや、タイゼリヤに女神がいるのが信じられなくて」
「どういうこと?!」
前置きはさておき。
どーーーーーーしよ?! 女神と天使が同じソファーにふたり並んでいる。目の前にいる! 目の前でおしぼりを使っているし、メニューを見ている!!
こんな幸せをわたしごときが享受していい展開ではない! それはそれとして、ふたりとも狂乱するわたしを不思議そうに見ないで! もっとメニュー表を見よう!
「まゆさん的には、美鈴さんも十分女神だよー」
「ふぉえ?!」
「わ、私だってそうだよ! 美鈴ちゃんはかわいい!」
やばい、別の意味で死にそう。
1度死んでるんだけど、それとは別に、こう……。罪悪感と恥ずかしさで死にそう。
前者は本当のわたしの見た目ではないこと。後者は褒められて。
ダ、ダメだ。意識をそらさなきゃ。
「えっと、メニューは何にします?」
「じゃー美鈴ちゃんにしようかなー、なんて」
尊花さんがいたずら好きの子供が見せるみたいな笑顔を向けてくれる。あっ!(尊死)
危うく気絶するところだった。これでも上っ面だけは鍛えた陰キャ。なんとか貼り付けた笑顔でその場を切り抜けることにした。
「あはは、そんなメニューないですよ!」
「……そうだよねー! なに言ってるんだろ私、あはは!」
あれ、なんか微妙に空気が凍った?
いや。流石に気のせい? ちょっとした違和感というか、言葉に引っ掛かりを覚えたんだけど。まぁ大したことはないか。
「わたし、モッツアレラチーズ食べたことないかも」
「これ? これってワインと一緒に食べるのかな?」
「まゆさんは食べたことあるよー。おいしかったなー」
話を切り替えるべく、再度メニュー表を開いて反応。
まゆさんも何かを察したのか、それともいつものふわふわとした反応をしたのか。
この際ノッてくれるならありがたい。わたしもそのノリについていこう。
「どんな味だったんですか?」
「んー。さっぱりチーズ」
「さっぱりチーズ?」
「それとどことなく乳っぽい」
それはチーズなのでは?
疑問はふわりとしたまゆさんの笑顔でどうでもよくなった。多分美味しいのだろう。
これと味が濃い目のマルゲリータを頼もう。
注文を挟んで、ドリンクバーからオレンジジュースを持ってきた。
そういえばさっきもオレンジジュース飲んだっけ。しまったな、オレンジジュースとオレンジジュースで被ってしまった。
席に座ると、じーっとわたしの顔を見つめる尊花さんと目が合う。
「ま、まゆさんは?」
「あー、確かトイレに行ったんじゃないかなー。多分ちょっとしたらもどってくるよ!」
元気ハツラツとした返事だ。わたしの先程の疑問も癒やされるほどに。
でも気になる。わたしは尊花さんの上っ面だけしか知らない。
その中にあるなにか。つまるところ、過去や思ってることなんてことが分からないのだ。
メインヒロインとして採用されたまゆさんならいざしらず、尊花さんに関するエピソードはクラスのマスコット。要するにアイドルのようなものだった。
くそぅ。悔やまれるのはちゃんとファンディスクをやれなかったこと。もっと好きになるきっかけぐらいできただろうになぁ。
そう物思いに耽っているときだった。不意に尊花さんが声をこぼす。
「美鈴ちゃんは本当にかわいいよね……」
「え?! そ、そんなことないって」
「そ、そうかなー……。えへへ…………」
あれ、その後の返事がない。
代わりに尊花さんの顔が段々と赤くなっていくのが目についた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫ー! えへへー!」
にへら、と眉をハの字に曲げて笑う。
な、なんというかわいさ! だが流石に騙されない。
「も、もしかしてー。心の声が出ちゃった、的な?」
余計なことだっただろうか。でも脊髄から口に出ちゃったもんだから止まらない。
今後の脊髄反射は律するとして、問題は今。
尊花さんの顔は、さらに赤くなった。
「え、えーっと……」
「おまたせしました、トマトスパゲティでございます」
「「は、はい!!」」
あーびっくりした。
思えばトマトって赤いよね。
なんか、照れてる尊花さんの顔、トマトみたい。
って、何考えてるんだわたし! うぅ、初めての友達とのお出かけだから舞い上がってるのかな。
「おまたせー! あれ、どうしたのふたりとも?」
「な、なんでもないですよ! うん、なんでもない! ですよね、尊花さん!」
「う、うん。そうそう! まゆちゃんも座って座ってー!」
疑問符ふわふわのまゆさんを置いてけぼりにして、わたしと尊花さんはまた貼り付けた笑顔を浮かべた。
あー、もう。ほんと。恥ずかしい……。
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