第16話:家電量販店は基本カメラの名前がついてる気がする
「すみません、2人とも……」
「大丈夫だよ! ナンパ寸前だったんだもん! まゆさんだって、めまいぐらいしちゃうよ!」
「うぅ、お優しい……」
流石女神。わたしを勝手に転生したカミサマもどきと違って、なんて人に寄り添えるできた人間なんだ。やはりここは何かごちそうした方がいいだろう。例えばタピオカとか? ごめんなさい最近の流行とか分からないです殴らないで。
「ごめんね、わたしが勝手に写真なんて撮っちゃって」
「いえ全然っ!!!!! むしろ尊花さんになら大歓迎です!!!!!!!!」
ついオタクの興奮すると早口になり、声が大きくなるところが出てしまった。反省。
周りに人がいないことにホッとして、尊花さんからのお詫びの品である缶ジュースを口にする。オレンジジュースの酸味の効いた味わい。この刺激が自分を冷静にさせてくれる。
息を吸って、吐いて。大丈夫。落ち着いてきた。
「えっと、尊花さんなら大丈夫、っていうか。その……。大丈夫なので」
「あ、うん……?」
あぁどうして肝心なところで、尊花さんのことを友だちだと言えないのか!
思えば彼女はゲームの中の一番の推し。
まゆさんは攻略対象っていうか、尊花さんとは前提が違う。
好きだけど、それはオタクとしての、人としての好きであり、友愛のそれではない。
邪なわたしの感情を彼女に向けていいのかが分からないんだ。だから大丈夫、だなんて曖昧な言葉で避けた。はぁ、わたしはどこまで行っても陰キャだなぁ。
「でもどうしよっか。私もこの辺には来ないからどこが人が少ないか分からなくって」
「すみません……」
「いいのいいの! 私も人ごみとか苦手だし、ね?」
お優しい……。思わずおばあちゃん(転生前)の優しい肉じゃがの味を思い出してしまった。
ありがとうおばあちゃん(転生前)。先立つ不孝をお許しください……。
「ふっふっふっ、お困りのようですねー、2人とも!」
「まゆちゃん……?」
「木を隠すなら林。郷に入っては郷に従え。だよ!」
「「え?」」
疑問符を重ねるわたしたち2人を置いてけぼりにして、まゆさんはゆっくりと目的地に向けて歩き始めた。
とりあえずついていけばいいか。尊花さんとアイコンタクト取って、ジュースを一気飲み。ゴミ箱に空き缶を捨ててから、その背中を追い始めた。
どこに行くんだろう。確かこっち側は駅の北口の方だったはず。
どうやらこちら側はバスの乗り入れやタクシーの乗り降りなどがメインらしく、わたしが知っているような地味な駅前、という言葉が似合う装いだった。
「あ、見て! あっちにレストランあるみたい! お昼はあそこでいい?」
「え?! あ、はい……」
いきなり声をかけられてびっくりしたー。
指差したのはよくあるイタリアンレストランだったので、すぐさまOKサイン。
あそこなら子供とかがいるだけで、他のお客さんの目とかは気にならないしいいか。
や、別に見られるのはいいんだよ。人ごみが苦手なだけだから。
そうこうしているうちにまゆさんが立ち止まったのは1件のビル。
でかでかと店名が書かれており、その他にも奇抜な商品のタイトルが所狭しと並んでいる。ここはもしかして……。
「家電量販店?」
「そうそう! ここなら気にならないと思うよ!」
「あんまり来たことなかったかも」
わたしはオタクだから速攻でこのお店探したけどね。
確かにこの家電量販店なら少しうるさいけれど、人目は気にならない。どちらかというと商品に目移りして、わたしまで目が行かないというところがいい。
胸をドキワクさせながら、お店の中へと入っていく。あぁ、この故郷に帰ってきた感じ、いい……。
「1階はスマホとかPC関連。2階がカメラにテレビ。3階はその他の家電とおもちゃだったっけ?!」
「おー、美鈴さんがそこまで知っているとは。まゆさん恐れ入ったよ!」
「え? このぐらい普通じゃないですか?」
「美鈴さんってたまによく知ってることあるよねー」
「あはは、た、たまたまかなー」
オタバレは、よくない。
元はアイドルだった、という高級ブランドを汚してはならないのだ。
いいかわたし、それだけは守るんだぞ。決して趣味はソシャゲの周回行為とか言わないように。
「でも中の詳しいところとか知らないから、一緒に行ってくれたら嬉しい、です……」
なに、2人して顔を見合わせて。
「美鈴ちゃんはかわいいね!」
「え?! どうしてそうなるんですか!」
「ううん! それじゃー行こうー!」
「いえーい!」
なんだろう、たまにあるこの意気投合は。
その内容はたいていかわいいに集結するのだけど、わたし何かしたか?
1階のスマホゾーンで、かわいいスマホカバーがあるかなーとか、2階で大きなテレビの画面を一緒に見たり。入ってみれば分かるけれど、いろんなものがあるこの家電量販店では時間が加速する。すでに2時間半は過ぎていたと思う。お腹空いたなぁ。
「そういえば1階にワックがあったよね、あそこでお昼にする?」
「いいね! うーん、来る途中にあったイタリアンレストランも捨てがたい……」
なんだろう。この美少女2人が庶民的な2つのフード店に悩む姿がほほえましい。
これがわたしと誰かモブとかだったら、ここまでいい絵にはならなかっただろう。対等な関係、よき……。
「美鈴ちゃんはどうする?」
「……え?」
「むぅ、さては美鈴さん、話を聞いていなかったなー?」
「いえいえいえ!! お昼ご飯ですよね?」
危ない。尊さに負けて、自分が登場人物の1人であることを忘れてしまうところだった。
とはいえ、ワックのハンバーガーも好きなんだけど、ここのところ、カロリーをちょっと抑えておきたいというか……。
尊花さんとも約束したし、ここはイタリアンレストランがいいかな。
「それじゃあタイゼリヤでー!」
あぁ、なんか。お出かけしてるって感じがする。
家電量販店に行ってウィンドウショッピング。それからお昼を天使と女神と一緒に……。
わたし、死ぬのかな? いや、もう1回死んでたわ。
脳内で誰にも伝わることがない転生ジョークを呟きながら、わたしたちはレストランへと足を運ぶのだった。
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