第15話:出たな、全身フリル人間!

 母は強しと言う。

 剛ではない。力が強いの方の強しだ。


 普段は敬語だし、あまり距離感が近い方ではなく、お互いに図りかねているような微妙な関係の親子だと思う。

 だから今のお母さん(転生後)の姿はあまりにもイメージからかけ離れていた。

 両手両足、胴体や胸周りなどを熱心に採寸。時にはわたしの髪型を変えながら、衣装がコロコロと変わっていく。

 さながら何かの早着替え選手権であるかのような。

 でもあれって、早く着替えることができるように服の方を弄っているという話を聞く。

 なのでこれも全て元ジュニアアイドルの母親だからできることなのだろう。知らんけど。


「あの、お母……」

「動かないで!」

「はい!」


 かれこれ1時間。ずーっとこの調子だ。

 おかげでガッチガチのマネキン人形みたいに手足が動かせない。身体が凝っちゃうなぁ……。

 もう休憩していい? 今は9時で、待ち合わせが11時だからあと1時間半ぐらいは休めるよ?

 でもそうさせてくれないのだこの女は!!!


「やっぱり美鈴ちゃんにはガーリーファッションの方がいいかしら。いや、今は高校生。少しは背伸びしたいお年頃。ここはランクアップした大人のコーデ……。でもさっき採寸した時、あまり成長してなかったように見えたから……」


 余計なお世話だよ!!!

 大声で反論したかったけど、身長も胸のサイズも変わっていないのは事実。

 運動しなかったおかげで体重だけは右肩上がりに増えていったんだけどね! ってこっちも余計なお世話!


「美鈴ちゃんはどんなのがいい?」

「えっ?! え、っと……」


 いきなり振らないでもらっていいですか。

 女子高生の時、わたしどんな服着てたっけ。えーっと、思い出せ思い出せ。ぴちぴちで若々しかった過去の自分を……。

 思い出してて悲しくなってきた。あの時が人生の転換期だったっけ。


「これと、これは?」

「…………」


 沈黙が、辛いっ!

 まじまじと服を見て、わたしと見比べて。それから一言。


「趣味、変わりました?」


 それはそう!!!!!!

 だってわたしはあなたの知ってる相沢美鈴じゃないからね!

 って、そういうのじゃない。流石にラフすぎたかな。春先なのと、面倒だなーと思ってワンピースとカーディガンの一人暮らしのオタク春の2点セットみたいなコーデにしちゃった。

 失敗か? 失敗なのか?! どうなんですか、お母さん!!!


「……決めました。これとこれとこれ! それからこれ! さぁ着替えて!」

「は、はい!!!」


 って、これ。どうやって着るの?


 ◇


 それから遅刻ギリギリの時間に駅前で待ち合わせする2人を見つけた。

 この辺あまり知らなかったけど、駅前にある白い謎のオブジェクトを目安にして、って言われてすぐ見つかった。なんだあのオブジェ。石の真ん中に穴を開けただけじゃん。

 とりあえず、自分から声をかけるのはあまりにも恐れ多いので視界に入るようにのそのそと近づいてみた。


「あれ、美鈴さん?」

「あ、はい。お待たせしました」

「美鈴ちゃ、ん……?」


 愛想笑いする。母親にこれで行けと言われたのだ。しょうがない。

 水色を基調としながら、白で透明感のあるフリルをこれでもかというほど装備。

 動けばフリフリ、止まればフリフリ。目に入る姿はフリフリ。

 そんな揺れものをいっぱい装備した清涼感溢れるフリルドレス。それが今の姿だ。

 重い……。身体全体が。もっとシャツとジーンズとか、ワンピースとカーディガンでいいじゃん。かわいいけど、ふわっふわに盛ったこんな姿を人前に見せたくはない。

 尊花さんとまゆさんの前に現れたことで羞恥心が飛び級レベルに跳ね上がる。あー、ダメだ。死んでしまう……。


「え、っと。どうでしょう?」

「すごいかわいいよ! 元々かわいいからねー!」

「い、いや。そんなことは……」


 褒めるまゆさん! 困惑のわたし! そしておもむろにスマホを取り出して写真を撮り始める尊花さん!

 三者三様の反応。何故尊花さんがわたしの写真を撮り始めたのかは分からないけど、相沢美鈴と尊花さんとそんな関係だったっけな。確かに仲はよかった気がするけど。

 と、そんなことをしていれば、人の目を引くのは当たり前なわけで。


「なんだ?」

「うぉ?! かわいい!」

「浮いてるなぁ」


 男性をメインに周囲の目が次第にこちらを向き始める。

 ま、まぁまだ余裕はあるけれど、やっぱり他人の無遠慮な視線は流石にきつい……。

 大丈夫。まだ大丈夫。だけど、今のうちに避難した方がよさそう。


「あの2人もかわいくない?」

「行っちゃうか」


「尊花さん、まゆさんそろそろ逃げた方がいいと思うよ」

「あ、ごめん。美鈴ちゃん、大丈夫?」

「あはは、ちょっと気持ち悪いかも」

「とりあえずあっち! 人も少ないし!」


 まゆさんの提案に同意するわたしと尊花さん。

 スマホが握られていた彼女の手は、いつの間にかわたしの手と背中に添えられる。

 あったかい。ちょっと気持ち悪さが減ったかも。

 迷惑をかけてばかりのわたしと尊花さん、それから先導するようにまゆさんはそのまま人気の少ないロッカーへと歩いていくのだった。

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