第12話:てもみん

 それから数日。


「あっ、尊花さ……」

「市川さん! この仕事お願いできる?」

「うん、いいよ!」


 クラスの先生に仕事を頼まれていたり。

 あれはよく晴れた日のこと。

 お昼休みになったし、ご飯とかどう? とか言ってみちゃったりしてー!

 あー、これまさしく陽キャでは?!

 なんて考えながら、恐る恐る尊花さんに声をかけてみると、


「あの、尊花……」

「尊花ー! 今日のお昼、どーよー!」

「あっ……。うん、いいよー!」


 クラスの陽キャに尊花さんを取られたり。

 また別の放課後。この時は太陽が見え隠れするような陰キャにとっては素晴らしい気候だった。

 これなら天候バフもついているし、教室でお話してみちゃったり!

 あー、これはまさしく陽キャだなー!

 なんて考えながら、怯えつつ尊花さんに声をかけたところ、


「あの、とう……」

「市川ー、一緒に帰らねぇ?」

「バッ! お前、相手はあの市川だぞ?!」

「おいおい、こういうところで攻めないと、関係は作れないんだぞ?」

「ごめんね、これから委員会の仕事があって」

「じゃあそのあ……行っちゃった」


 クラスの浮かれた男子が尊花さんに振られたり。

 へっ! あなたが尊花さんを振り向かせようだなんて、5000兆年はえーんだっての!

 ま、わたしは誘えた試しがないのだが。


「そんな感じで、まぁ尊花さんと話せずに1週間……」

「まゆさんは美鈴さんが奥手すぎてかわいいなーってなってるよ!」


 そういう話ではないのだ!

 でも机をバンバン叩いて反論したところで、結果はまゆさんからの反撃の軽蔑視と周囲からの妖怪でも見る目へと変貌するのだ。だったらしない方がまだいい。

 女神から軽蔑されるとか、ごめんなさいと謝り散らかして、相沢美鈴が腹を切ってお詫びすることになってしまう。

 ネガティブ妄想を繰り広げつつ、リアルでは少しこそばゆいものを感じる。

 褒められ慣れてない人に、かわいいと言ってはいけない。勘違いしてしまうぞ。


「でも尊花さん、最近は忙しそうだよねー。ずっと委員長のお仕事ばっかしてるし」

「ですね。このままじゃ、尊花さんの記憶容量から次第にわたしの存在が消えていって……」


『尊花さん、ご飯食べに行きません?』

『えっ、誰……? こわ、近づかないで』


「って言われちゃうーーーーーー!!!!!!」

「それはないと思うけどなー」


 てか、自分からご飯食べに行きませんか? ってどんだけ自分のこと盛ってるんだよ。お前の誇りはとっくの昔に捨てただろうが!


「まゆさんも尊花さん成分摂取したいし、今度遊びに誘お?」

「え、あそび……?」


 あそび。遊び?!


「遊びって、あのお出かけのことですか?!」

「そだよー。尊花さんも息抜きは必要だと思うし」

「お出かけって学校外ですよ?! 危ないですよそんな! 天使と女神とお出かけだなんて、わたしもう一回死んじゃうのかな?!」

「死なないで!」


 そう言うとまゆさんがわたしの手を拾い上げた。え、なに?

 両手で包まれた右手に柔らかい指圧が伝わる。最初は手の甲を親指で押すように。それから手のひらを包んで、ピアノ代わりにして優しく、ゆっくりとマッサージされる。されてる?!


「ほ~ら、りらーっくす~」


 あぁ、女神だ。女神の手もみマッサージ。

 情報量が、多すぎる。必然的に近くにいることでまゆさんのいい匂い。それから柔らかい指の感覚。手のぬくもり。顔がいい女の全世界を幸せにできるような笑顔。

 脳がこれ以上情報をいれるなと言ってる。これ以上やったら、し、し……。


「死ぬ」

「なんでー?!」


 死なないでぇ~って言いながら、真剣な目で揉みほぐす姿が非常に良い。また転生しよう。今度は……。うん、もう1回ここで。

 そうだ。一緒に登校して、下校して。そんな他愛ないものでいいんだ。私が忘れ去られないような、素敵な日常で余生を過ごすんだ……。

 ……ん? 一緒に下校?


「……はっ! いま、なんか天啓おりてきた!」

「ほう!」


 そうだ。何を簡単なことを忘れていたんだろう。

 ゲームのイベントでだって、主人公の万葉さんとその義姉がいつも一緒に下校しているように、わたしたちも同じことをすればいいんだ!


「尊花さんを出待ちしましょう!」

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