第10話:レッドな彼女の名はバカ
「ぴえぇえええええええええ!!!!」
わたしの前世は小鳥ではなく、ちゃんと人間です。
人間ですが、真っ赤な長身モデル体型の美女が目をギラつかせながら、腕を引っ張られる機会なんてそうそうないでしょ?!
そんなの人間超えて、その辺のスズメにもなりますよ。ぴえん超えてぴよん。
ということで今の状況は、放課後の限りある時間に絶世の美女に腕を引っ張られながら、廊下をずんずんと突き進まれていた。
一見よく分からない状況だが、わたしもよく分かっていない。
だって、赤髪の彼女に聞いても、
「いいから来いって!」
の一点張りだ。実は外国人なのかもしれない。
わたしの聞いた言葉は、チョンボラボボン語で「お前を誘拐する」って言ってるかもしれない。
少なくとも、宝物を見つけた子供のような瞳には悪意は感じられないけれど……。
(この人、目つきが怖いんだよなぁ……)
発色のいいレッドのロングヘアーは、どことなくヒロインというよりもヒーローのようにも見える。
腰まで伸びる髪の毛は自然とスリムなくびれ、細長い美脚に目がいく。
股下どうなってるの? なんでそんなに足長いのってぐらいには、スカートから見える健康的な肌色がまぶしい。
そのくせ顔を見ればかなりきついつり目。その目をマグマのように燃え滾らせた瞳は誰にも止めることができず。
要するに。スタイル抜群の悪役令嬢辺りに、いま誘拐されている感じだった。
そ、そんなー! わたしがお姫様なんて100億万年早いよー!
何て言っている場合ではないのだ。
あれよあれよという間に、体育館裏へ……。
推定177cmから繰り出される威圧感は、ちっこいわたしを震え上がらせる。
「おい」
「ぴゃっ! ぷあい!!」
目元が鋭い。目の色も赤い。怖い!
彼女の右腕が動く。こ、これは胸ぐらを掴まれて、ちゃりちゃり言わされるやつだ!
怖くなって、目を思いっきりつぶり、この後起ころうとしている出来事に目をそらす。
あー、これはトラウマになって学校に行けなくなる。ごめんなさい、お母さん(仮)、まゆさん。そして尊花さん……。わたし、泣きます!
「……ホントにかわいいなおい」
「…………ぽえ?」
しかし、彼女の答えは胸ぐらでも、壁ドンでもなく、きめ細やかな指先でわたしの頬をそっと撫でたのだ。
震えるまぶたをゆっくりと見開けば、八重歯を光らせた純粋無垢な子供の顔だった。
「さすがアイドルだよなー! 最初は気づかなかったけど、肌とかめっちゃ綺麗だし。何使ってるの、これ。うわーマジずっと触ってたいもち肌……」
「うぺっ! な、なんですかうひゃあ!」
触られたい放題だった。
ほっぺたおでこにあご下首元。鎖骨に二の腕それからそれから。もう数えるのやめた。同性だったからいいものの、異性だったら完全に気絶圏内だよ。
「いやなー、この学校に元アイドルがいるって言うからずっとサイン欲しかったんだよ! マージで、2日目で出会えるとか思わないだろ! うわかわよ。憧れるわー」
「そんなこと……うぴぃい!」
真相が明らかになったが、状態は一切変わらない。
しばらく触られて。触られて、触られて……。約5分。
「マージ、美少女触ると元気になるってマジだったんだな!」
つやつやの赤髪美人と死にそうになって地面に這いつくばるわたし。
完全に事後だった。
「あ、サイン貰うところだったわ。ちょっと待ってろよー」
「さ、さいんとか書けな……」
サインの書き方が分からないとかそういうレベルではなく、ただ単に距離感のバグり方で疲れた。死亡5秒前です。
「あれー、どこやったっけな。ここ? それとも……」
「……馬場、お前何やってるんだよ」
「よぉ万葉! お前もサインか?」
そんなところで登場人物1人追加だ。
倒れているわたしには精一杯顔を上げることしかできなかった。
男の人の声がした。足から股下を見て、長い脚。そのまま胴体。なんか体格いい気がする。それから顔。整った顔立ち鼻筋も高い。呆れ顔だけど、それでもかなりのイケメンだとわかる。
それから短髪で、森林のように深々とした緑髪で……。
あれ、この人見覚えある。しかもものすごく。いや、わたし自身だったと言ってもいい。
――だって。
「主人公!!!!!」
「どうした、大丈夫か?!」
だいじょばない! だって、目の前にいるのって……。
原作『ライクオアラブ』の主人公、櫻井万葉その人なのだから!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます