第9話:女神と不良になりたい(欲望丸出し)
「はい、じゃあクラスの委員長は市川尊花さんで決まりね!」
湧き上がる歓声。きっと自分が面倒な委員長という立場にならなくて済んだ、という喜びが声に出ているのだろう。
そんな声の中からわたしは机に肘をついて、ピースピースとひまわりみたいな笑顔を振りまく最推しを見ていた。
(くっそかわいいなこの女!!)
心の中では周りの喜びよりも一際巨大な感情を胸の内で叫んでいた。
ヤバいってこの最推し! やっぱ美少女ゲームのメインヒロインの格なんだよ。なんで攻略対象外なんだ。分かっているのか制作会社。お前んとこが作ったヒロインは世界最強クラスの女なんだぞ。
まさに天使。天使が笑顔でピースしてたら、そりゃ邪悪な存在はぽっくり昇天してしまう。だってそうだろう? 相手は天使なんだから(早口)
はぁ……はぁ……。つら。ムリ。この子と知り合いって時点でもう今生に未練なんてない。
そうだ。わたしがアイドルなんてやっている場合じゃない。目の前の尊花さんをアイドルとして売り出すべきなんだ!
プロデュースはわたしがしよう! 舐めるなよ。わたしの得意分野はソーシャルゲームの周回。つまり、アイドルゲームのプロデュースだって一級品というわけだ。
まずは何を着せようか……。まずはフリフリの衣装はもちろんのこと……。
「美鈴さん」
「うわひぃ!? ごめんなさいごめんなさい! 邪なのはわたしでした!!」
「うわ! びっくりしたー。美鈴さん、どうしたの?」
「え……?」
気づけば周りの目線がわたしの方へ。あわわ……。し、死んじゃう……。
「はい、じゃあ他の委員さんを決めますよ! 立候補いるー?」
気絶寸前だったわたしを察してくれたのか、尊花さんが周りの注意を引いてくれた。
奇異の目線は尊花さんの方を向き、今はまゆさんだけがわたしを見ていた。一安心だ。
「やっぱり尊花さんは優しいねー」
「そ、そうですね?」
ちなみにわたしが先日気絶している内に席替えが行われており、わたしとまゆさんは前後の席でお隣同士となっていた。
わたしが後ろなので、まゆさんのゆるふわかわかわ後ろ姿をずっと見ていられる。とても役得。
そんな彼女が振り向きざまに女神の横顔を見せてくれる。わたしはもう死んでもいいが?
「でもよかったなぁ、ちゃんと委員長になれて」
「美鈴さん心配だったんだー」
「そ、そんなことないですよ? 尊花さんはクラスを導く光なので」
めちゃくちゃキモいことを口に出してしまった。
「て、訂正! 尊花さんは元気いっぱいだから!」
「そーいうことかー! 尊花さんは人気者だからねー。もうクラスのみんなのお名前を覚えたんだってー」
すご。やはり天使は人知を超えた神の力を持っているのかもしれない。
こんなわたしのことも覚えていてくれるなんて……。うぅ、もう泣けてきた。
「わたしなんて尊花さんとまゆさんだけでいっぱいいっぱいなのに」
「まだ2日なんだから当たり前だよー。それに体調悪かったみたいだし」
うぉおおお!!! まゆさんの優しさが身に染みる……。
陰なる者の魂が浄化され、光の美鈴に……。ならないわ。浄化されたら、わたしはここからいなくなっちゃうし。
「ん? 美鈴さん、なんで拝んでるの?」
「まゆさんは女神さんだなーって思って」
「ふえ?! そんなことないよー!」
光はね、そこにあるから影を生み出すんだ。
だからわたしの前に柱があって、光を放つまゆさんと尊花さんの影となってわたしは生きるのだ……。
「ありがとう、美鈴さん! やっぱり美鈴さんはかわいいなー」
「そ、そんなことないです! かわいい担当はおふたりなので!」
「ふふ。でも、美鈴さんだってかわいい女の子なんだよ? 自信もって!」
両手を胸の前にフンスのポーズ。頑張れと応援しているんだ。
わたしが使ったらあざといとか、キモいとか言われるんだろうけど、女神が使うと自然と元気が出てくる。うん、頑張るよ! 見ててね、わたしの変身!
「そこー! ふたりでひそひそしない!」
「「あ、すみません……」」
ついに尊花さんにバレたのか、柔らかい口調で注意されてしまった。
でもぷんぷんする天使、もとい尊花さんもかわいい。
まゆさんと顔を合わせて、少し笑う。いけない! ここにいると不良になっちゃうかもしれない。まゆさんと不良……。悪くないかも。
それ以降は尊花さん司会の委員決めをずっと見ていた。
もちろん立候補するなんてことはできないので、ただ見ているだけだったけど。
わたしも尊花さんの力になれたらな。優しくしてもらったから、それに見合うだけのお礼をしなくちゃ。
でも、どんなことがいいんだろう。
時間は過ぎ去って、いつの間にか放課後まで考えていた。
ま、陰キャがいくら考えても見合うだけのお礼って言ったら、袖の下ぐらいしかないか。
大丈夫。金なら、あるんや。
当然ながらお財布の中身を見ていたら、下を向いているわけで。
接近してくる赤い影に、わたしは気づかなかった。
「おい」
「……ん?」
顔を上げる。ん? お腹?
もっと顔を上げる。胸?
さらに顔を上げた。
「ぴぇっ!」
思わず悲鳴が教室内に響いた。
だってそうじゃん。赤髪つり目の絶世の美人がわたしのことを睨みつけてくるんだから!
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